第八百四十四話 絶魔の能力
絶魔。これは今まで感じた自分の力の中で最も扱い辛く、恐ろしささえ感じる形態だ。
まず両腕のアザ。これは両星の力に他ならない。
左腕は赤く右腕は黒い星が刻まれている。
妖術を発しようとすれば双方その色に光を発する。
そして、同じように光りを発するのは目だ。
閉じた状態だろうが見開いた状態だろうが、目が紅色に光を発する。
俺は目から怪光線を発する生物にでもなったのかと思う程だ。
そして、どのような衣類を身に着けていても、黒い衣が表面を覆っている。
普段は見えない鎧のようなものを纏っているかのようだ。恐らくはアーティファクト
の類だろうと勝手に考えている。
ここまでが身体的特徴だ。
次に発現出来る能力。
驚いたことに雷撃の幻術が使用出来る。それと氷術、水術もだ。
しかし火術や風術、土術などは使用出来ない。
火術は獣形態、獣戦車形態なら容易く出来ていたのに。
幻術を試してみたところ、上位幻術までは問題無く使用出来る。
メルザのように連発出来るわけじゃない。あれは異常だ。
幾ら撃ってもケロっとしているメルザが、いかに怪物だったか、幻術を使えるように
なって初めて理解した。
ライラロさんでもあんな無茶な使い方は出来ないだろう。
ちなみに幻招来術は使えない。
あれこそ使えたら便利だったのだが。
幻術はこんなところだ。
次に妖術。黒、赤の両星を用いた術が使用出来るが、俺は術としてあまり
使用したくない類だと考える。
理由は簡単。無差別な攻撃が多い。言うなれば範囲攻撃特化型の術だ。
赤星にしろ黒星にしろ、対象を限定するなら剣術と併せて用いる方が都合がいい。
特に海水を用いるようなイネービュの力はなるべく避けたい……。
次に封印されたモンスターを用いる術。
これがとにかくやばかった。今現在ベルトに仕込んでいた封印箇所が全て黒衣と
一体化している。
何てことをしてくれたんだと思ったが、この形態でない限り、黒衣は現れない。
つまりベルト封印を隠して置けるということだ。このメリットは大きい。
現在ベルトには二十四もの封印が可能。封印していたのは、パモ、プリマ、アメー
ダの三名そして、トウマ、ター君、バネジャンプ用のヘッパーホップ、スノーバウルス、ガードネスクロウル、地竜アビシャフトの九か所。
半分以上は封印を常に開けるようにしていたので、一部パモに預けているのを装着しないとならない。
今までの俺は、仲間の能力を封印から使用することをなるべく避けていた。
もしこいつらの生命力などを使っていたらどうしよう……などと考えると、どうしても
極力避けずにはいられなかった。
何せこの状態は妖魔としても異常だ。
だが、この形態はこちら側の力を封印側に与え、それを利用して用いるような技が可能
だったのだ。
取り込んだ力を放出して用いるのが本来の妖魔としての力。
これは恐らく人間の力だろう。人間はただ力を放出するような仕組みを工夫することが出来る。
試しに使ったのはたったの二つ。トウマの力とター君の力。
どちらも凶悪な力だった。
そして……プリマとアメーダの力も行使が出来る。
パモの力もだ。
そんな、過ぎた能力を発揮する形態だった。
剣術においても凄まじい力を発揮する。
光剣ソフドも加わり、いよいよ三剣形態となった俺は、既にただの妖魔と呼べるような戦い方
では無いのかもしれない。
「随分色々なことが出来たのを制約したようだね」
「ああ。俺は氷術と雷術、そしてモンスターの能力を主体で戦う剣士がしっくりくる」
「それがいいかもしれない。でも雷術は氷術より扱いが危険だ。仲間に当たれば殺して
しまうかもしれないし」
「分かってる。雷撃に関しては少し……得意な奴に尋ねてみようと考えているよ」
「君は確か、魂吸竜ギオマを封印したんだったね。彼は封印にしまえるのかな?」
「ああ。だがこの形態でもギオマの方が上かもしれない」
「それはそうだよ。世界最強竜種の一角の中でも、反則のような力だからね」
「そういえばギオマの力についてはあまり知らないな。力が強いこと以外は」
「文字通り、魂を吸い込む。しかもそこから先が凶悪だけど聴きたい?」
「いや、止めておこうかな……」
にっと笑ってみせるタナトス。
こいつ、やっぱ性格悪いだろう!
「その魂を利用して酷いブレスを吐くんだ。そのブレスを受けたものは呪われる。
酷い呪いになると十秒くらいであの世行き。そしてその魂をまた吸い込む。それか
ら……」
「もういいって! まったく、性格悪い兄貴だな。弟を見てみろ」
「すぅ……すぅ……」
「……寝てるから」
「さて、ヒューとも戦ってもらおうと思ったんだけど疲れたみたいだから……あの女性と
戦ってみるかい? 闘技大会じゃ戦えなかったみたいだし、気になるだろ。実力」
「それはそうだが……ここで戦うつもりか?」
「そうだよ。ちなみにここで殺しても何の問題も無い。ここから上の眠寧に行くだけ。
君が死んでもそう。ヒューの角に触って眠らなければ、ここで死ぬことはない」
「なら安心して全力でやれるか。それじゃ頼むよ」
タナトスはコクリと頷くと、地面に手を当て黒い鳥を引きずりだした。
その鳥がみるみる形を変えていき、檻に入れた女性へと変わる。
「言っておくけど相当な実力者だよ。覚悟して戦った方がいい。時間は……そうだね、五分。
それ以上戦いが長引いたら止めるから」
「わかった。来い!」




