第八百三十四話 魔の宝玉
「出て来たようだね。三つの至宝のうち二つ」
タナトスが指を弾くと、それらが宙に浮きあがり、テーブルの上へごとりと置かれた。
これは……いや、正確には見たことがないから分からない。
何せあのときの俺は見えていなかった。
獣化したときでもそうだ。
「これには癒しの効果がある。その代わり呪われている。使用した者は死に至る」
「そう聞いた。そして一度きりしか使えないと」
「デタラメだね。君、これが見えるよね。何て書いてある?」
「ええと……あらゆる状態を治癒するが、一度使用すると消滅する。
強大な力を使用者に与える……だな」
「私が読むと、この玉は強力な呪いを施す。使用者は死に絶える。
一次的に強大な力が備わる……だよ」
「読む者によって見え方が変わる?」
「もし私が読んだ内容で、君が権力者ならどうする? おっと、君で
はなく権力者の気持ちなら……かな」
「……実験してみる、か」
「そうだ。呪いは本物。次に考えるのは、呪われない者を探す……だ。最終的にカイオス
の家系へ辿り着くのだろう。ちなみにこの宝玉は一つや二つではない」
「だからライラロさんたちも知っているのか」
「これはウガヤが仕込んだ罠の一つだ。だが、治癒効果はあったようだね。これを知るの
は私とタルタロス位のものだよ」
「ウガヤはなぜ俺を……いやカイオスを恨むんだ」
「さぁね。答えは君の中にあるかと思ったけど、ここにもウガヤ本体はいないか」
「この宝玉はメルザが呼び出したウガヤが放ったものだった。他にも洞窟へ通じる道が出
来るものもあった」
「……そうだな。大会が終わったら君とカイロスを連れて、その洞窟へ行こうか」
「あんたはもしかして、ウガヤを探しているのか」
「そうだ。分体じゃなく本体のウガヤだ。分体が無数にいて、殺しても殺してもキリが無
い」
「それを探してるのはあんただけじゃないようだ。ロキや、或いはライデンもか……」
ウガヤというアルカイオス幻魔で、ばらばらだったピースが繋がった。
俺から取り出した宝玉は、どうするつもりだろう。
俺の体、平気なのか?
「なぁ。それを取り出した俺の体って平気なのか?」
「問題無いよ。これは強い呪いと治療効果を施す玉だ。ウガヤの能力でもある。君の目は
見えるという結果だけをもたらしているようだ。代償が起こるのはこの宝玉の影響。こい
つが枷になっている。呪われない分その反動は大きいようだが、発動条件が刻まれている
のかもしれない。別のカイオスの系譜が傍にいる……とかね」
そう話しながらタナトスが手をかざすと、光の輪で宝玉が持ち上がっていき……それを
上空の黒い鳥が口に加える。
そのまま飛びだった鳥は、遥か後方で大爆発を起こす。
「すべての呪いを打ち消すカイオスの力。憎しみと呪いを巻き起こすウガヤの力。どちらも
死の管理者にとっては興味深いものだ」
「あんたが俺をここに呼んだ理由はそれを行うため……なのか?」
「私の獲物は破壊した。君はこれで、絶魔王へと変貌を遂げられるだろう。私は死の管理
者だ。あらぬ形へと捻じ曲げたあのときの変貌に死を。君の本来持つべき形へと変えるべ
きだ。今から君が最も見たくない死の光景をみせる。ここで思い切り君の憤怒をみせてく
れるかな。私は死の管理者。真の変貌、幻魔、妖魔、人。君の持つ力を一つに統合しよう
か。私を責め、殺そうとしてきなさい」
「一体何をするつもりだ。見たくない光景って、まさか……」
「大丈夫。君が持つのは憎しみじゃない。自分に対して許せない本当の憤怒。最も強い力
をこれから引き出してあげるから」
立ち上がった奴は光の輪を構える。無数の黒い鳥が地面に降り立ち……その姿を変えて
いく。まさか――。
そこには横になり眠る、メルザとカルネの姿があった。
「おい、止めろ、止めろ、止めろ、止めろーーーーー! 【真化、神魔解放!】
「爆輪」
大きな爆発と共に、メルザと、カルネは飛散した……。
「うああああああああああああああああああ」
何故こんなことをする。いや、絶対偽物だ。
何故苦しまなけれエバならない。偽物だって分かってるんだ。
何故安息に暮らさせない。だから、偽物だって……。
何故こんなにも奪われなければならない。本当に偽物かなんて、知る術がない……。
「俺が一体、何をしたっていうんだ! 俺が……俺が弱いからいけないのか。
俺が幸せに暮らすのが、そんなにいけないことなのか。どうしたらいいんだよ。
わからない、もう、わからない……」
「さぁ、怒りを私にぶつけなさい。君の憤怒を全て受け止めてあげよう」
【絶・魔】




