第八百二十二話 侵略者への案内人
「危ないところだったな……」
周囲のキメラを蹴散らして、変な二人組を助けた俺は、自分の出来事かのようにそう呟
いた。
トウマの上が安全であることを認識したそいつらも安堵する。
「助かったズリ。感謝するズリ」
「……ズリ?」
「ねぇお兄さん。助けてくれたついでで悪いんだけどぉ。私たち、道に迷ってるの。知ってたら、ジャンカの町っていうところまで連れてってくれなぁい?」
女の方がするすると近寄って来る……のをミレーユとプリマが止めてくれた。
「おい、迂闊に近づくな。えーっと確か……そうだ! ルインは生殺しだ!」
「プリマ! 変な言葉覚えないでよ! もう! それを言うなら女ったらしでしょ!
それにしてもこの女、いやらしい気配がするわ。近寄らないで」
「可愛いお嬢さんたちでもいいのよぉ」
……酷い言われようだ。
生殺しでも女ったらしでも無いと思うのだが……。
そんなことよりも、こいつらはきっとメルザをさらった奴らの仲間だろう。
上手く……逆手に取ってみるか。二人の肩に手をやり、俺が話すと合図する。
当然ミレーユには手を払われるわけだが。
「俺たちこの先に狩へ向かう途中なんだ。その町のことは知ってるが、こっちの件が片付
かないと案内出来そうにない。ついて来てくれれば案内出来る」
「おい。それだとリュシアンが大変そうだぞ?」
「平気よプリマ。見ててね……「契約の命により汝らの意、我に従い喜を持って属せ。汝
の糧は我が魔の威光、汝が欲するは我が根源たる魔也。キメラ、招来!」
『ギギイイーーーーーー!』
魔術招来術を行使するミレーユ。先ほど契約したばかりのキメラを招来してみせる。
契約にしろ魔術招来にしろ、特訓する際に何度か見たので大分見慣れて来た。
しかし……本当に恐ろしい才能だ。
もしロキに何もされていなければ、未だに実力者として君臨していたのだろう……それ
ほどミレーユは魔術招来の才覚がある。
何せ一度に呼び出せる魔術招来の数を聞いたら、制限が無いかもと答えられた。
無制限に招来されたら、俺のモンスター軍団でも太刀打ち出来ない。
というかこっちは封印にセットしないと呼び出せないから、ある意味無敵か? とも思
うが、流石に数百も出せばヘトヘトだろう。こっちは疲れない! その差は大きいぜとい
うことで納得する妥協点を見出した。
「ギャーーー! さっきの奴呼んだズリ! 怪物女だったズリ!」
「嘘でしょ……ここは最弱の大陸、トリノポートよね。招来術が使えるメ……女がなぜ」
「誰が怪物女ですって! 覚えてなさい。私はキメラに乗っていくから。プリマも一緒に
乗る?」
「いや、こいつらをキメラへ乗せていけ」
「ちぇ。その方がリュシアンにとってもいいか。ミレーユ、今度乗せてくれよ」
「わかったわ。仕方ないわね。早速契約したキメラ、体験してみたかったな」
「ちょっと待って私たちまだ行くなんてひとことも!」
「それならそうだな……俺がここから去ってトウマを戻すとする」
「戻すとすると……?」
「お前ら二人とも落下する」
「酷いズリ! 殺生ズリ!」
「そうよそうよ! 行くしかないじゃないの!」
「まぁそういうことだ。このまま下に降ろしてやってもいいが、わんさかキメラがいるぞ。
それでもいいか?」
「よくないズリ……わかったズリ」
怪しい二人組をキメラに乗せると、操るミレーユが先導してガルドラ山脈を再び超えて
行く。
少し距離を置いてパモを出し、ラーンの捕縛網を預かった。
「その網、使うのか?」
「場合によっては使うかもしれない。今の俺がこいつを使うと結構強力なんだ。だから使
わないようにしてる」
「その網、そんな凄いのか」
「はっきり言うなら今のティソーナ、コラーダより強いかもしれない。俺がティソー
ナ、コラーダを使いこなせていない……抑止力が働いてるみたいな感覚だ。元々がモリアー
エルフって種族じゃないと使いこなせないような代物だからかもしれないが」
「ふーん。でもその剣、好きなんだろ」
「ああ……どっちも人格がある。そうだな……家族みたいな感覚か」
「なんだ、それならプリマみたいなものか」
「ああ。そうだな……見えて来たぞ」
情報通り、確かに三機停泊している。
しかも人数が多い。二十、三十人程いる。
いかにもここで情報収集してるって感じにみえるな。
さて、これだとただこいつらを送り返しただけになる。
どうしたもんかね。
「おいあんたら。何か変な集団があそこで何かしてるけど、知らないか?」
「……知らんズリ」
「さぁ……」
「ふーん。それじゃ怪しいから攻撃しても問題ないよな。あそこにさっきの竜を出しても
いいか」
「そそ、それは良くないズリ。危険ズリ。危なすぎるズリ」
「そうよ! そんなことしたら洒落にならないじゃない! いきなり喧嘩を売るつもりなの?」
「あそこは元々ベッツェンって国があったところで、散歩程度なら許されるが停泊は認められ
ていないんだよ。それにどう見ても悪そうな奴らだ。構わないだろ」
「ちょっと待つズリ。思い出したズリ。あれは、そう……使者ズリ。異国の使者だったズリ」
「使者? ルーン女王法治国家宛ての使者で間違いないか?」
「そうズリ!」
「んで、お前らはその使者へ向かう途中だった?」
「そうよ! もっと丁重に扱いなさい!」
「だそうだ。ミレーユ、プリマ」
「へぇ。それじゃ、女王の夫が面会してもいいわよね、使者さん」
「こいつらの名前聞けば嘘ってわかるけど、いいのか?」
「シーッ。プリマ。それはもうちょっと後にしましょ。なんだか面白そう」
「じょ、女王の……」
「夫ズリ!?」




