第八百十七話 騒動
まったく。予想はしていたが、次から次へと問題が勃発する。
メルザがさらわれそうになり、怪しい女が看板を持って行こうとした。
俺は一回戦を勝ち上がって……いや、それもおかしな状況でだが、今、そのことは関係ない。
フェドラートさんに犯人カバネを受け渡し、直ぐに闘技場へ戻ると、控室で爆発が起こ
り、慌てて駆けつけているところだ。
観客からすればこれもお祭りの一種なのだろうが……控室に近づくと、言い争うような声が聴こえてくる。
「おい、何があっ……ビー!? 一体何を」
「取り消せ! 貴様だけは絶対許さん!」
「ふん。信じようが信じまいがお前の勝手だよ」
「……」
爆発があったのは、銃の打ち合いだった。
ビーが、ベリアルから授かったというゴーストイーターという変わった銃を構え、アイマスクをしたウェアウルフに銃口を向けあっている。
その武器は大会禁止だ。なぜそんなものを使用した?
……幸い試合中でないし、危害を加えた風には見えないが。威嚇射撃だろう。
そして……二人の間には、光を発する男……覚者と思われるやつがいた。
「ビー。何があった。冷静なお前らしくない。銃を収めろ。
あんたもだ」
「ふん。命拾いしたな。いや……試合場でズタズタにしてやる」
「上等だ。誰がお前なんかに負けるか……嘘付きめ。シー……俺に構わないでくれ」
そう告げると、ビーは出て行ってしまった。
酷い顔だ……だが、今は声を掛けるべきじゃないだろう。
あの冷静なビーがあんな顔をするなんて、よっぽどだ。
状況を確認する方が先だと直ぐに判断した。
「……なぁあんた。一体何があったんだ? 止めてくれたんだろ?」
「……他愛ないこと。うるさいから止めた。それだけだ」
「……もう少しなんかないのか?」
「……」
無口でおかしいやつばっかりだな! もっとこう、コミュニケーション取ってくれよ!
……って思うけど、俺も人のこと言えた義理じゃないだよな……。
闘技大会は既に俺を含め六人が決勝出場が確定してる。
後二枠……ビーは勝ち上がれるのだろうか。
「一つ……主催者殿に忠告を」
無口な光を発する男が突然呟いた。
なんだ? 忠告? こいつは大会に俺へ忠告でもしに来たのか?
「これ以上、魔を覗かない方がいい。君の力は危険だと思う」
「どういう意味だ。あんたは……」
「忠告はした。君の選択した道、どう転ぶのかは見守らせてもらおう。それじゃ」
……覚者か。その存在がどういうものかまでははっきりと知らないが、言いたいことだ
け言ってくれる。
差し詰めこの大会への参加目的は監視ってところか。
ここは確かに魔族が多い。
だが……今のところベルベディシアにも深く関わってはいないし、他の絶魔王にも興味
を持っていないのだが。
「間もなく初戦最終戦を行います。百二十一番から百四十番、百四十一番から百六十番ま
での選手は、闘技リングへお集まりください!」
ビーたちの出番か。ここにはドーグルも入ってるんだったな。
冷静なビーであれば勝ち上がると思いたいが……。
対戦カードが気になる。俺も見に行くか。
闘技場リング前に出ると、先の戦いで敗れた老師がいた。
相手はテンガジュウだったらしい。無理もない。
「ルインよ。お主に一つ相談があるんじゃがのう」
「老師、どうされました?」
「お主は気付いておるかもしれんが、わしはもう年。そろそろこの魔王種の力を継がせよ
うと思うんじゃが……」
「魔王種の力を継がせる? そんなことが出来るんですか?」
「うむ。じゃがの。わしの力はお主には合わぬじゃろう。お主は妖魔。地上に住まう魔族
とは異なる。誰かいい魔族はおらんものかのう」
「その魔王種の力を継承した場合、老師はどうなるのですか?」
「わしか? ただの爺さんになるかのう」
「老師はそれでも構わないと?」
「あやつと対峙してはっきりした。もう若い芽に継承せねばならんのだと」
「老師……それなら、一考してみましょう」
「うむ。幻魔も恐らくは合わん。人間も合わんじゃろう。もし判断がついたら教えてくれ。
頼むぞい」
「はい……それより老師。次の戦い、誰が勝つと思います?」
「うん? そうじゃな。まつ毛パッチン眼差しキングが勝つと言いたいのじゃが……」
「老師……もう誰だか忘れました。ビーなんでしょうけど忘れました……」
「うむ。片目でガオニズムもきっといい線いくじゃろうのう
「それってあのウェアウルフのことなのか!?」
老師のあだ名を理解するのは大変だが、今話しているのはリングAの選手だ。
リングBにはシーザー師匠、そして……覚者。
これは……熱い試合展開が予測される。
決勝に上がるのは残り二名。
果たしてどんな戦いが展開されるのか。
じっくり見守るとしよう。




