第八百十五話 お宝どこズラ
ルインのバトルロイヤル戦が終わって直ぐのこと。
「負けてしまったズラ。女王も見つからないままズラ。このままじゃ絶対怒られるズラ」
「ちっ。あの化け物、かなり上位の魔族だね。仕方ない、町にあったお宝を頂戴してずらかるよ」
「その前にお腹空いたズラ。闘技場の中で何か買ってくるズラ」
「勝手にしな。あんまり遅いとここへ置いてくからね!」
「酷いズラ! ……さっきからいい匂いがするズラ……」
それにしても、人が多いズラ。
お店は繫盛してるズラ。こんな人数分とてもじゃないけど用意出来無いズラ。
一体どうやって賄ってるズラ?
到着してから調べ通しているけど、驚くばかりの場所ズラ。
……それ以上に警備していた女隊長、ヒージョより怖かったズラ。
「団子に並んでたら絶対ヒージョに置いていかれるズラ……もっと奥に行ってみるズラ。奥の変な食べ物のほうが空いてるズラ」
おかしな物が沢山売ってるズラ。この海焼きというのも中に海産物が入ってて美味そうズラ。風呂敷に沢山詰めておくズラ。
まったく便利な風呂敷ズラ。
――それにしても出来立ての闘技場ズラ。
金の匂いがぷんぷんするズラ……あれ? ここ、何処ズラ?
変なとこに出たズラ。扉? 誰か奥にいるズラ。
……何か話声が聞こえるズラ。
隠れて空賊マル秘アイテムで聴いてやるズラ。
「いけません、女王陛下。初戦は参加者が多く危ないので、ルーン国にいると殿方殿に約束したはずですぞ」
「でもよ。ルインが勝ったんだから、カルネと一緒に祝ってやりてー!」
「困りましたな……では私が呼んで参るので、そこで大人しく待っていていただきたい」
「んー、わかった。ぜってーだぞ?」
「勿論。では」
……まずいズラ! 隠れるズラ!
「……やれやれ。ジェネスとに文句を言われてしまうな……」
変な男が扉から出てきたズラ。
やばそうな雰囲気の男ズラ。
それに……女王って言ってたズラ。
そうズラ! この奥に女王が……やったズラ!
これは大手柄間違いないズラ……。
きっと慌ててたから扉に鍵なんて掛かって……掛かってるズラ!
ええい、開けてやるズラ! ……この扉、どうやって開けるズラ?
仕方ない、こうなったら上手くやるズラ!
「あ、あー。コホンズラ。女王陛下、どうか扉を開けて欲しい……ズラ。ルインを連れて来たズラ」
ルインって誰か知らないズラ。
闘技大会に参加してる配下ズラ?
「ほんとか? おめー誰だ?」
「先ほどの男に頼まれて、手をまわした者ズラ」
「ちっと待ってろよ。ん? でも俺様、ここ動くなって言われちまってるからよ」
「動いてもいいって言ってたズラ」
「メルちゃ、ダメ。クリム、待つの」
「けどよカルネ。俺様早くルインに会いてーぞ」
「そうズラ。早くしないと美味そうな食べ物全部売り切れるズラ」
……まずいズラ。全然釣れないズラ。
カルネってちょっと名前似てるズラ。
あ、開いたズラ。
「ずりーぞ! 俺様の飯!」
「今ズラ! 頂き風呂敷の出番ズラ!」
随分小さい女王ズラ。
この頂き風呂敷に入れてしまえば、もう誰の目にも
見えないズラ。やったズラ!
さっきの男が戻ってくるとまずいズラ。
急いで引き返すズラ。
……よし、人が一杯いるところまで来たズラ。
これならさっきの男ももう……「ちょっと待ちな。あんた……また会ったな」
「ん? 誰ズラ? ああ! 港のやばい男ズラ!」
「俺と会うなりいきなりやばい男ってのは酷いな。それより……あんた、ちょっとばかし荷物を確認させてもらっていいか?」
「な……一体何ズラ? ダメに決まってるズラ。何の権利があってそんな……」
よく見たらさっきの怖そうな男も一緒ズラ。
周囲を警戒してるズラ。
「あんたの近くで反応があるんだよな……フェドラートさんのあるアイテムが」
「一体何の話ズラ? 自分は忙しいズラ。もう行くズラ」
「動くな」
「なっ……ここはリングの上じゃ無いズラ! 刃物なんて向けたら大会関係者に……」
「……俺が主催者だ。神魔解放! レピュトの手甲」
「な、何ズラ。もう一本手が生えたズラ!?」
吊るし上げられたズラ。まずいズラ。見つかったら打ち首ズラ。
「……おいメルザ」
「……んもっ!? ぐもっ。ぷはっ」
「メルちゃ、カルネ、食べる」
「カルネにはまだはえーからダメだぞ」
「……酷いズラ! 後で食べようと思ってた海焼き!」
「美味かったぜ。もっとねーのか?」
「はぁ……おいあんた……えーとカバネだったな。話したいことがあるからついて来てもらうぞ」
「う……ばれちゃしょうがないズラ。ここは逃げ……」
「主様! 誘拐犯はこちらですか!?」
「くっ。試合で負けた上、こんな失態まで」
「いや。ちょっとメルザにもお説教しないと。簡単に食べ物で釣られてるようじゃこの先危険すぎて眠れやしないからな……」
「あー……ルイン! 初戦突破おめでとう! にははっ」
「あのな! それは嬉しいけど危うく攫われるところだったんだぞ! 美味いものはちゃんと買って持って行くから、今は戻ってなさい!」
「はい……俺様、悪かった……でもなんかこいつ、悪そーな感じしねーんだよな」
……まずいズラ。逃げ場が無いズラ。
縛り首ズラ? 拷問ズラ? 打ち首ズラ? いやズラ!
全員どう見ても戦闘狂のやばい奴に違いないズラ。
きっとあらゆる術の実験台にされて手も足も動かせなくなるズラ。
「たた、助けて欲しいズラ。拷問はよくないズラ!」
「そう思うんなら洗いざらい喋ってもらうぞ。もう一人、仲間の女がいるよな。そいつはどうした」
「大変です!」
「どうした!? えーと……」
「自分はミズガルドさんを慕って町まで来た、アレフです!」
「アレフ君、どうした?」
「ベルローズの外看板を取り外した女が、乗り物で脱走を図っております!」
「……はぁ。こいつの仲間か。もうその時点でロックされたな。今頃大騒ぎか。そっちは牢屋へ頼むよ……」
看板? 看板なんて盗んでどうするズラ?
それはきっとヒージョじゃないズラ。
それならもしかして、上手く抜け出せるかも知れないズラ。
そのまぬけな女に罪をなすりつけてやるズラ。
「そ、その女に命令されたズラ。だから見逃して欲しいズラ」
「どのみち話を聞いてみないとわからないから、一緒に来い」
「わかったズラ……仕方ないズラ」
「自分は報告のみだったので! 失礼します!」
「ああ。見回りしてくれて有難う。助かるよ」
「殿方殿。主殿から目を離してしまって済まない」
「いや、クリムゾンのせいじゃない。ちゃーんとメルザがルーン国で待っててくれたらこんな騒ぎにはならなかったんだぞ?」
「う……けどよ。俺様とカルネはルインを祝いたくてよ……」
「メルチャ、カルネ、めーする。怒らないで、ツイン」
「ああ。怒ってはいない。気を付けてくれればそれでいいから」
「ルイン……」
「吊るし上げたままそういうのは止めて欲しいズラー!」
しかし、看板を持って行こうとするなんて、間抜けな奴がいたもんズラ。
そんな価値のあるものじゃ無いズラ。
「ところで、吊るし上げたまま何処へ連れて行くズラ?」
「んーとな。俺たちの国じゃ、悪さをしたやつは大抵この人のこわーい顔を拝み、後悔しながら更生するんだよ。本当に怖い笑顔だからな。クリムゾン、メルザとカルネを頼む。美味いものは後でちゃんと持ってこうとしてたんだからな。とりあえず新作の珈琲団子で我慢しててくれよ」
「むー。わかったよ。ファナたちも待ってるしな。俺様、我慢するよ」
「では。また後ほど。くれぐれもこの件、ジェネスとには……」
「わかってるって。俺までアニヒレーションズ食らわされるわ……」
こいつら一体何の話してるズラ? 王女の居場所はもうばれてるズラ。
この町にいることはわかったズラ。ボスに報告すれば攫うのは楽勝に決まってるズラ。
――変な部屋まで連れてこられたズラ。
細めの綺麗な顔した長髪の兄ちゃんがにこやかにこっちを見てるズラ。
「ではルインさんに言われた通り、少々お話を聞いてみましょうか。それと、プリマさんを呼んでおいてくださいね」
「濡れ衣ズラ! 自分は王女様が食べ物を食べたいっていうから連れ出そうとしただけズラ!」
「妖不動の術」
「……! 体がぴくりおも動かないズラ……」
【真化】




