第八百十一話 参加しているやばそうなやつら
大会の宣誓式を終えて、番号を確認した俺は、七十三番だったので
ひとまずその場を後にした。
別に試合を見ていってもいいのだが、自分の試合に悪影響が出るといけないので控室に
戻った。
自分の戦いに備えている奴、結構いるな。熱さを抑えて冷静になることは大事だ。
……ここにいるのは五十人程だな。四十人は今戦ってるだろうから七十人程は見学か。
つまり、戦闘中以外でやばい奴の大半はここにいる奴らということになる。
知ってる奴らはえーっと……弟子二人に、ハクレイ老師、ジェネスト、ビー、白丕、テ
ンガジュウ、ビローネ、ビュイ、シーザー師匠……いきなり師匠たちと当たる可能性があ
るのか。
「主殿。宣誓式、もっと目立ってもよかったのでは?」
「あれ。シーは初戦組じゃないのか」
「なぁなぁ。ビュイは七十一番だったぞ」
「それならビュイとは初戦で当たるな……白丕、沖と彰は試合中か?」
「ああ。どっちも一戦目からプリマ殿と一緒で嘆いていた」
それは気の毒に……。
他に見たことある奴は……あれ? 港で変な乗り物停泊させてた二人組も
いるな。こいつらまともに戦えるのか?
後は……闘技大会開会式でめぼしいのを見つけておいた奴らがいる。
こいつらはどこから来たかわからないが、かなりやばい奴だ。
一人は額に大きな宝石をつけている男。手にはめてるのはマジックアイテムの輪かな。
一人はウェアウルフだ。師匠と外見が違う。アイマスクを着け銃のような武器を持って
いる。
一人は術使いのような女性。仮面と派手な頭飾りに身を包んでいるのが特徴。
一人は双剣士の短髪女性。ただの双剣じゃないな、あれは。
一人は獣人の筋肉むきむきな女性。こいつは双斧使いだ。
そして……これは噂に聞いていたから知っていた。こいつで間違いない。
覚者と呼ばれる存在がシフティス大陸にいる。
そいつはある種魔王の抑止力ともいえる存在で、絶魔王が警戒する大陸の強者。
こいつ自身の周りを、常に変な光が覆っている。
ぶっちゃけ目立ちすぎる。
「随分真剣な顔で見てるな。シー」
「ああ。あいつらの実力がわからないが……どいつと当たるかわからない」
「シーは集団線の経験が多いのか?」
「いや。そうでもない。何せ俺はほら、モンスター呼び出せるから」
「そうか。多対多なら経験豊富ってわけだ」
「そういうこと。ビーはどうだ?」
「俺は一人だったことが多い。多対一は慣れてる」
「そうすると、足下すくわれそうなの、俺か……」
「ははっ。まぁシーとは別だからな。初戦で負けるなよ?」
「頑張ってみるよ」
ビーと話していると、外から大歓声が聞こえる。
どちらかの試合が終わったのかな。
準備は念入りにしよう。
体を動かして調子を確かめる。
……よし、調子は悪くない。
「おい、あんた」
「……ん?」
体の調子を確かめ、動かしてたら、背後から筋肉の塊が話しかけてきた。
いや違った。筋肉質の大柄な獣人女性だ。
にしても凄い。これは獣人だからだろうか。
上腕二頭筋が俺の足より太いぞ。
一体どうやったらここまで育つんだろう。
「あたしゃベル・ガオスっていう。あんた何番だい?」
「俺は七十三だよ」
「へえ。じゃあ一回戦で戦うね。あんた、相当強いね」
「いや。多分先に戦ってる奴に俺より強い奴がいる……はず。いや、見学してる可能性も
あるな。何せ子供みたいな奴だからな……」
「何? 確かに子供みたいな獣人を見た。そのことについてあんたに文句を言おうとして
たんだ。なぜ獣人の子供を参加させた。あんた、宣誓をしていたってことは関係者何だろ
う? どうして止めなかった」
そうか。それで少しご立腹なんだな。しかしな……プリマは俺よりどう考えても強い。
殺すなという条件があるから歪術はそこまで使用しないだろうが……それに実際子供か
どうかは定かじゃないし……何て答えたもんかな。
「ただの子供なら参加落ちしてるはずだ。大会参加はレンズを通して行った。
そのレンズ担当者が相応しくないと判断したなら参加は断られていたよ」
「裏道だってあるだろ? どう見てもまともじゃない奴らが混じってるじゃないか」
ちらりとさっき思案していた奴らをみる筋肉獣人女性。
考慮したのは戦闘が出来そうかどうかだ。
それにプリマたちは俺が参加させたからな。レンズを通してはいないわけで……。
「無力な者は参加出来ないってだけだ。別にまともかどうかなんてあまり関係無いな」
「それはどういう意味だ」
「戦闘を生業としているなら、それはもうまともじゃないってこと。俺も。あんたも」
「……」
「さて、そろそろだと思うから先に行くわ。それじゃな、ビー」
納得がいっていない顔だった。最初に俺を狙って来るのは確実だろう。
やれやれ……初戦からヘヴィな戦いになりそうだ。ビュイも同じだったみたいだし。
外へ出ると、初戦の二組勝利者の名前が映し出されていた。
リングAは予想通り、プリマ。
リングBはアメーダ。
死霊族の二人が勝ち上がり。これは予想通りだが……随分疲弊しているようにみえる。
苦戦したのか。
「凄い戦いでした! ライロさん、一言!」
「そうね。 まさかハーヴァルが負けるとは思わなかったわ。やるわねアメーダ」
「僕も驚きました。ずっとハーヴァルさんの戦い見てましたから。最後、悲しかったで
す」
……そうか。ハーヴァルさんの初戦はアメーダか。道理で疲弊しているように見える
わけだ。
にしても何負けしたんだろう。悲しい最後ってなんだ。
「では次の試合をまもなく開始します! 四十一番から六十番の方はリングA。六十一
番から八十番の方はリングBへ!」
さて、いよいよ始まる俺の試合。初戦の相手二十名はどんな奴らかな。
あえてわからなくすることで、より高い緊張感を得られる。
派手に暴れてやるか。




