第七十三話 リルカーンの話
とりあえず追加アップできました!
意識がかかなりはっきりしてきた。
それと同時に全身に強い痛みが走る。麻酔が切れたのか。
身体は痛むが生きている証。
どんな状況なのか未だによくわからないが、生きていればメルザに再開できる可能性はある。
さっきの奴が何者なのか。
助けた目的はわかったが、それ以外にもまだ何かある。
それがわかるまで油断は禁物だろう。
警戒しなければ。
奴は俺が人ではない妖魔と言っていた。
そもそも妖魔ってなんだ? 外見で判別できる類のものではないのか?
わからないことが多すぎるが、あいつから情報を聞き出さなければ。
まずはゆっくり目を開けよう。
先ほど見た光景と同じく、淵のない白い空間の中だ。
身体の動きを一つずつ確かめる。
とにかくゆっくりだ。
頭を動かすのは最後。全身が動かせる状態かを、まず確かめないと。
左手、右手、左足、右足の順番にゆっくりと動かす。
痺れと倦怠感はかなりあるが、どうにか少しずつ動く。
動かすたびに激痛が全身を駆け巡る。
片方ずつ動かし、手を握ったり開いたり。その後片足ずつ曲げ伸ばししていく。
手を上下させてから、ようやく顔の位置に手を持っていけるようになった。
左右を見渡すが、辺り一面真っ白。
寝ているところも真っ白で何もない。
果てしない白い空間が広がっていた。
「なんだここは? どうなってるんだ? さっきのリルカーンとか
いうやつはどこだ?」
「呼んだかい?」
近くで声はするが、奴は見えない。
どこから喋ってるんだ?
「ちょっと待ってよ。今そっち行くから」
奴はにゅーっと白い地面から顔を出す。
端正な顔をした美形の男だった。
妖艶で女子なら誰もが傍に置いておきたくなるような、そんな魅力がある。
これが妖魔か? 俺には似ても似つかない気がする。
「ここを自由に動くのはいいけど、まだ表には出せないよ。
ちゃんと治ってから出ないと死んじゃうから。
ここは時間凍結の部屋。この空間の中に存在するものだけの
時間を凍結する。外は時間経過してるんだけどね」
「時間凍結部屋?」
「アーティファクト……と言っても神話級じゃないよ。
僕の部屋じゃない。便利だから欲しいけど、兄貴の部屋さ」
そういえばもう一人名前を聞いた気がするな。
つまり別の仲間が近くにいるのか。
「そんな警戒しなくてもいいよ。さっきも言ったろ。
君を殺すつもりはない。しかし回復が早いね。
既に半幻半妖ってとこかな」
「……どういう意味か、俺にはわからないことだらけだ。詳しく説明してくれないか?」
「もともとそのつもりだしね。言ったろ、僕はお喋りが好きなんだ」
そういうと、奴はふわっと舞い上がり俺の横に来た。
「まず何から聞きたいんだい?」
「俺が死んだと思った後、どうやって助かったんだ?」
「呪術で君を一瞬で地底に埋めてここに連れてきたからだよ。
君があいつを攻撃したおかげでかなり楽だったけどね」
「いつからあの場にいたんだ?」
「君が雑魚を吹き飛ばしてからさ」
「一緒にいた女性二人がどうなったか知らないか?」
「知らないね。興味無かったし。けどあいつらは追っていかなかったから
無事なんじゃないかな? そもそもあいつらの狙いのうちの一人は
君だったみたいだしね」
狙いのうちの一人? どういう事だろうか。
ファナを助けたからか? それにしてはその後すぐに襲ってこなかったな。
「思考と会話でごちゃ混ぜになっちゃうよ。僕、会話と思念両方拾ってるんだから」
「ああ悪い。……考えを覗くのはやめてくれないか? もう会話はできる」
「いや、これ以上は会話せずに念通のほうがいいよ。君まだ死にかけだから」
「確かにボロボロだが、何でも聞かれるのには抵抗ある……だが、お前がそう言うならそうしよう」
「ちなみに僕のことはリルでいいよ。お前は嫌だな。君が今考えてた
事に答えるなら、その答えは……わからない、かな」
じゃあ別のことを。ここはどこなんだ?
俺が死にかけた場所なのか?
「違うよ。そこからは移動した。あいつらに察知されても面倒だからね。
ここはフェルドナージュ様のお膝元。四大妖魔勢力の一角でフェルドナージュ様
は四大妖魔の一柱、邪剣の皇……といっても君は知らないんだね。
もっと詳しく話してあげるよ」
それはいいんだが、ちょっと休憩させてくれ。少し疲れた。
「いいよ、また起きたら呼んでね」
少し疲れたせいなのか、意識がもうろうとしてきたので、再び眠りについた。