間話 メルザ女王、カルネ王女の護衛たち
ルーンの女王法治国家制定から一か月。
幻魔の国より来た者たちの中でも、特にカルネ王女に固執している者が
何名かいた。
「ディーン様! 今日もお元気そうで何よりでございます」
「なぁなぁジェネスト。俺様たまにはカルネと二人っきりでいたいんだけどよ……」
「なりません! 女王のお力ではディーン様をお一人で背負うには辛いかと思います。
ぜひこのジェネストに預けてください!」
「そう言ってもよ。カルネ。ジェネストのとこいくか?」
「嫌! カルネ。メルちゃん、一緒」
「ああ、ディーン様……そんな……」
「ふっ。殿方殿か主殿以外には敬服すら見せん。ディーン様らしい」
「クリムゾン。あなたは黙ってなさい! それにしてもまさか、ディーン様が更に
お若く小さくなられるとは思ってもみませんでした……」
「俺様は理屈はわからねーけどよ。でもなんでブレディーは幻魔みてーな事が出来たんだ?」
「それは、恐らく絶対神スキアラが原因でしょう。あの神こそ……アルカイオス幻魔の始祖を
封じた神ですから」
「封じたって? そんな美味そうな物でも持ってたのか?」
「いえ……アルカイオス幻魔と絶対神の対立は長く続き……解決策はそれしかなかった、という
ような話をイネービュから聞いたのです。私には判断がつきませんが」
「んで、そのスキアラってののお陰でブレディーは凄かったのか?」
「反省なのか祈りなのか。或いは別の何かなのか。それはわかりません。ですが、幻魔人に
近いブレディー様は、賢者の石より読み解き、幻魔界を作った。我々や四幻も。そしてその中には
ウガヤもいた……」
「ふうん。そのウガヤってがらぽん蛇のことだよな。ルインからちっとだけ聞いたけどよ。
そいつも幻魔人だったんだろ?」
「そう伺っております。ウガヤも、原初の流れを組む幻魔の一人のはずだ……と」
「俺様もガラポン蛇を呼び出したけどよ。そいつ、幻魔の世界にもいたんだろ?」
「ウガヤとは幻獣界に住む神のような存在です。原初の幻魔である女王であれば容易く呼びだせる
のでしょう。しかし、幻魔人でもない者が幻魔界に行けば、暴れもするのでしょうね」
「その前によ。ルインたちは襲われたんだろ、ガラポン蛇によ」
「主殿。恐らくあなたの影響でしょう」
「俺様の……?」
「ウガヤは何らかの影響であなたに力を強く貸している。そんなあなたの存在が消え……
暴れ始めたに違いない。主殿は唯一の原初の幻魔の生き残りである筈だ。我々としても
この先、主殿を守り通す事が最大の役目。勿論それは、王女であるカルネ様にもだ」
「うーん。クリムゾンの話はむずかしーからよ。よくわからねー。でも俺様だってカルネを
守るんだ! だからよ。俺様……力を取り戻さねーと」
カルネをよしよしとあやしながらぎゅっと抱えるメルザ。
その前にひれ伏す形で二人の従者であるジェネストとクリムゾン。
彼らは一早くメルザの護衛を買って出た。
他に名乗りを挙げたのは、ビュイ、白丕、サーシュ、リュシアン、アメーダ、プリマの六名。
全員の意見をジェネストがシャルイーテトラで切り裂いたのだった。
「断じて認めません。私以外、ディーン様を守り切れるとは思えません!」
そう一言述べて、六指の剣を胸の前で構え、メルザとカルネの前に躍り出て、立ちはば
かったのだ。
さすがに他のメンバーは何も言えず、筆頭護衛の座は譲る事にした。
しかし、彼らは全員幻魔の長ともいえる存在であり、自らを創造したともいえる、カルネに
敬服しきっている。
そんなカルネはまだ生後間もない。自分の足で歩く事は流石に出来ない。
片目に宿る賢者の石の力も未知数。そして、それを知れば狙って来る
輩も必ずいるだろう。
「あ、俺様そろそろ意見箱ってのを見に行かなきゃならねーんだった。ちょっと行ってくる」
「お、お待ちを! 女王陛下! カルネ様をお持ちになったまま走るのは危険です!」
メルザがカルネを抱えたまま走り出すのを制止するジェネストを見て、クリムゾン
は腰を落としたまま笑うのだった。
「良い場所に赴いた。殿方殿。お陰で私はまだまだディーン様のため、動く事が
出来そうだよ」




