間話 エンシュとミレーユ王女の肉体作り
開国を宣言してから二週間後のある日。
俺は仲間を連れだし特訓をしつつ、目的地へと向かっていた。
「ぜぇ……ぜぇ……死ぬ……」
「おーい休むな―。次行くぞー、次」
「まんずこっから見えるとこまで進んでいがねといねだー」
「我の見えるところに希望アリ。汝の進道絶望アリ!」
「うるっさいわよ上の飛んでる鳥ども! あんたらずっと飛んでるだけで走ってないじゃないの!」
「おーいミレーユ。そんな叫ぶと直ぐばてるぞ!」
「うるさいわよ化け物! 息一つ切らさないとか頭おかしいんじゃないの?」
そっぽを向きながら怒鳴るミレーユ王女。
エンシュは膝に手をつき地面を見ながら息を切らしている。
俺は……思い出すと懐かしい。いや、この道で修行していたわけじゃないが、よく走らされた。
ミレーユがそう言いたい気持ちもわからんでもない。
……俺とエンシュ、ミレーユ、そしてリュシアンとサーシュなどなどを連れ、特訓に来ている。
場所は現在、カッツェルの町周辺だ。
本来乗り物で移動しても三日はかかる場所。
昔ミドーと移動したのが懐かしいが……俺たちは走って向かっている。
倒れてもリュシアンたちについて来てもらっているから問題は無いが、彼らは空を
飛べる数少ない仲間。
どのくらい飛行が可能なのかを確かめておきたいってのもある。
それに、ミレーユは勘違いしているようだ。
何の枷も無くただ飛んで着いて来てくれているわけじゃない。
上空からモンスターの分布状況を確認してもらい、そのルートへわざと飛んで
もらい、その後を追ってモンスターとわざと遭遇している。
……結果二人とも戦闘と移動でバテバテになる。
エンシュはようやく抜刀術をモノにし始めている。低い身長を生かして死角からの
攻撃を忘れず。
それ以外の酒鬼魔族による攻撃方法は……「おい、さっさと起きんか! せっかく
エルバノ様がついて来てやっとるのに。ミレーユより先にカッツェルに着かねば、美味い
酒が飲めなくなるじゃろう!」
「ふぬゥ。ミレーユよ。さっさと行けェ! ギオマたちが先に着かねばァ。酒が飲めぬゥ!」
……というわけだ。一応二人の護衛という意味もあって、それぞれに配置したんだけど。
というか一緒に連れていけとうるさいので連れて来た。
はっきりいってギオマで空を飛べば、ものの数分でカッツェルまで到着してしまう。
飛行可能な奴の速度で言えば、一位はギオマ。二位はサーシュ。三位がリュシアン。四位がセーレ。
ただ飛ぶだけのレウスさんでは歩いているのと大差ない。
順位で言うならこんなところだな。それ以外の移動方法を持つアルカーンさんやアメーダ、プリマなどは
別だ。
……というよりも、死霊族はいきなり現れるから心臓に悪い。
あれはどうやってるんだろうな。幻術の類なのだろうか。
「さ、置いてくぞー」
「走るわよ! うるさいわね! 魔術をぶつけるわよ!」
「ぜぇ……ぜぇ。もうひと踏ん張り……ですよ、ミレーユさん……」
「あんたと違って私はか弱いの!」
「どこがですか……もう随分鍛えられたでしょう。あなたの足、見違えました……」
「ちょ、何処見てるのかしらエンシュ……」
「え? 何処って足しか見てないですよ……それじゃお先に!」
「あ! こら、待ちなさい! 待てーーー!」
ふう。どうやらこの分だとエンシュが先に着くな。ここまで守りながら着いてきたんだ。
ちゃんとギオマの酒も買って帰ろう。ついでに、こいつを町の人に渡して依頼終了だな。
俺は二人の修行に付き合いがてら、新しく仮設置されたレンズで傭兵の依頼を幾つか受けていた。
道中出会ったレッドブルーノスという、遥か昔に出会ったイノシシの化け物の倍はでかい
モンスターを討伐し、牙を二本むしり取った。
肉は途中まで一緒だったセーレに運んでもらった。「僕をパシリに使うなんて酷いよね?
酷いよね? 酷いよねーーーー!」なんて叫んでいたから、戻ったら好物のリンゴを十個やる
と伝えたら渋々飛んでいった。
ついでにカッツェルの町に寄ったら、ノムノーという、イチゴのような味のする果物を大量に
買って帰るつもりだ。
こちらは闘技大会までにイチゴ大福のようなものとして大量に製造しておく予定。
それらを販売するための人材募集をレンズに依頼してある。
ジャンカ村は既に村の規模を超え、町となっている。
ジャンカの町には多くの人々が集まり、開拓は大きく進んでいる。
それと同時に資金も大きく減少しているが……先行投資ってやつだな。
何せ生半可な防衛を作るわけにはいかない。
常闇のカイナだろうがロキだろうが、暗黒神だろうが跳ねのけられるくらいの町を作らねば
この先危うい。
地上の対策を万全にしておかねば、地底へなんて向かえないからだ。
闘技大会に向けても資金は減少する。
前世でいうなら万博のような物を開催すれば経済効果がある! とうたっているが、あの
経済効果は一部の大手企業周辺にしか影響がない。
楽市楽座のような形態をとり辛いし、長く続けば私利私欲に塗れやすいからだ。
今回の闘技大会は入場料をセット販売にしている。
ただチケットを買うだけでは町の良さを知ってもらい辛い。
そのため、現地では大量のスイーツや飲み物、食べ物が必要となるのだ。
購入はどれでも構わない。
完売は想定される。何せレンズで参加者を呼び掛けてもらっている上、チラシ
もばらまいている。
……これはワザトだ。
今回の企画はルーン女王法治国家総出を挙げて行う。
協力はカッツェルの町、ロッドの町住民も含まれる。
既にカッツェル、ロッドの町からジャンカの町へ大量の住民が
移り住み始めている。
……既にこの大陸で一番規模の大きい町となっただろうか。
と、考えていたところで町へと着いた。
「はい。エンシュの勝ち。二人とも、よく頑張ったな」
「ぜぇ……ぜぇ……やったー……ご褒美、今度こそ、俺の……番だ……」
「くっ……今回は……負けたく……無かったってのに……」
二人にはちゃんとご褒美も用意してある。
それは、以前獲得していたアイテムの数々から使用してないもの。
なぜこれらを使わないのかって?
俺が使うと簡単に壊れるからだ。
魔族の中級領域以上まで辿り着いた相手と戦闘を行うと、武器や防具が持たない。
だからこそ、地底の妖魔装備はほぼ全てアーティファクトで生成されている。
当然下妖の一装備などでは、ただ壊れないだけで性能は皆無のアーティファクトと言っていい。
……それでも地上では壊れない装備というだけでアドバンテージはあるのだろうけど。
だが、別に使えないアイテムってわけじゃない。
例えば火を起こすだけであればバルカンソードなどとても有能だろう。
使用回数制限はあるものの、いちいち火起こしをしなくていいのだから。
とはいえ幻術で火を起こしたりすればもっと楽なのだが。
「今回は……こいつだな」
そう。あれはツァーリさんを仲間にしてしまった時の事だ。
俺たちは宝箱を見つけた。その拍子にツァーリさんを封印してしまった記憶はまだ
新しいものだ。
ひゃっふーいと叫びまくる骨に囲まれたエリアで見つけた紫電の宝箱。
その中に入っていた二振りの短剣は双刃の二振りとのことだった。
それ以外のものは……変な棒と綺麗な宝石と紙きれ。
この宝石……の一部が今回の褒美。
レッドジャスパーというレジェンダリーの宝石だ。
大きめの宝石をニーメに加工してもらい、実は一つ身に着けている。
これは、合えてその装飾技術を周囲に見せるためだ。ルーニー状に美しく加工してある
首飾りとして、よく見えるように首へ装着。
目立つ場に出る事になるから、ニーメを売り出す絶好の機会と考えている。
何せ、今度の闘技大会では、俺が開幕の挨拶を行う予定だ。
まぁ、この時点で悪者を釣り出せれば言うことは無いのだが。
残りの変な棒と紙きれについては、今はいいだろう。
「エンシュ、よくやったな。これがレッドジャスパーの宝石だ。
このサイズでも金貨百から二百枚はするそうだぞ」
「そ……そんな……ぜぇ……にするんで……ぜぇ……」
「……悪い。先に水飲め」
「うぅ……宝石は……女の、宝なの……に……」
「一応頑張ったミレーユには、これな。耳飾り用程度の大きさだけど。
女性物の飾りはカーィの方が得意だろうから、頼んでみな」
「い……いいの?」
「ああ。エンシュもいいだろ?」
「はい……ふぅ、ふぅ……」
「主様ぁ! あたすも、なんが、もらいでぇ!」
「サーシュも欲する望みアリ」
「うーん。仲間が多いと、もっとアイテムが必要だよな……久しぶりに洞穴も、今度行って
みるか……」
そう考えながらも、次の目的地へ向かう。
「よーし。仕入れ終わったら今度はロッドの町まで走るぞー」
『ちょっと休ませて!』




