第七百九十九話 宣誓、ルーンの女王法治国家
――子供が産まれてから一週間が経過した。
その間執務に追われ、皆に報告し、収支計算だのなんだのと忙しく走り回った。
メルザには細かい事がよくわからないので、俺とルジリト、フェドラートさんに
エーやビー、コーネリウスやランスロットさんなど、多くの知識人の手助けを借りた。
書類もまとまり――俺たちは大きな会合を開き話し合った。大事な話だ。
そして今――「これより、ルーンの町あらため、ルーン女王国法治国家宣誓式を
始める。皆良く聞いて欲しい! 色々あったけど、メルザは戻って来た。町の
規模は大きくなり、ちゃんとした統治が必要だと判断した。この町には、様々な
困難を逃れてきた者たちが沢山いる。獣人や亜人、魔族、人、神の遣いなんてのも
いる位だ。差別なく、皆で助け合って生きるためには法が必要だ。
そこで、意見箱というのを用い、それを読み解きつつ意見を出し合い、法を
決める。それからこの町を治めるメルザの決定により法を定める国家にしようと思う!」
俺は、皆はメルザを信じている。その優しさや思いやり。
純真さや無垢なところを。
王の器とは、知識や威厳だけじゃない。
皆を愛せる心の広さ。愛情や行動力だろう。
ルジリトやアメーダ、シカリーやメイズオルガ卿は、俺が王になるべきだと告げた。
だが、俺はそんな器じゃない。
何せ……俺の親分はメルザ。
俺が唯一、忠誠を誓い命を預けるのはメルザだ。
あいつのためなら命を投げ出せる。そんな男、王の器とは言えないだろう。
「さぁメルザ。挨拶を」
「え? うん。俺様、上手く言えるかなぁ?」
「いいんだよ。いつも通りで」
「わかった。 えーと……皆! 俺様、メルザ・ラインバウトは皆の親分だ。
この町にいる奴ぜーんぶ、俺様の仲間だぜ! だからな。皆で楽しく明るく生きよーぜ。
美味いもの沢山作ってよ。スッパムみてーなのを町の売り物にすんだ。それでよ。
変な奴らが来たら撃退する! だから皆の力、貸してくれー!」
ははっ、いい挨拶じゃないか。メルザらしい。
これで十分なんだ。盛大な拍手が起こってるし。
――拍手はいつまでも鳴りやまない。皆にとって最高に嬉しい言葉だったのだろう。
「皆、もう一つ大事な話がある。聞いてくれ!」
そう告げると、少し静かになる。ちゃんと報告しておかないと。
「これより二か月後、これは絶対神が開催する闘技大会の前哨戦となる……
闘技大会を開催する予定だ。ルーンの町……いや、ルーン女王国
始まって以来の催し物となる。最初が闘技大会ってのは若干物騒だが、この町には
戦闘を得意とする者が多い。だが、皆知っての通りこの国は認められた者以外
入れない。そのため、開催地はジャンカの……町で行う。会場はこれから急いで
建設するが、大勢の客がくるだろう。それに合わせて……皆で稼ごうぜ!」
うおーーーという盛大な叫びが聞こえた。
やっぱお前ら、皆戦い好きだな。
それに、職人はそれに備えて売り物を沢山作れるはずだ。
二か月という期間がある。それまでに俺も準備しないと。
何せ妻たちに金を稼ぐよう、言われてるからな。
ちなみにこの国の現在の貯蓄は、ざっと金貨にして八十万枚は予備がある。
この数値は国家としては多くない。今後増やしていく必要はある。
ベッツェン以上の町を、ジャンカの村に建設していき、ここをトリノポートの
首都にするのだ。
そうしなければ……恐らくキゾナにいるロキに対抗出来ない。
そして、常闇のカイナにも備えられない。
ジャンカの村に造る町はただの町じゃない。
外敵から攻められても、守るに容易く攻めるに難しい砦町。
一番不安な住民の避難は、この女王国であればいい。
今のところ手出しをしてこないロキ。
あいつはきっと、様子を探り俺の動向を確認しているはずだ。
どのタイミングで襲って来るかは不明だが、いつ襲ってこられてもいいように、備えは
万全にしておかなければならない。
閉会の前に俺の子供を全員にお披露目してみせ、メルザの子供……つまり王女に
なるわけだが、カルネを皆に掲げる。
――そして、閉会後。部屋に戻りパモを抱えて一息ついていた。
「ふう。これで一つ、大きなやらなきゃいけない事シリーズが終わったぞ。パモ」
「パーミュー?」
「ああ、疲れたよ。人前で話すのは苦手なんだ。昔だったら皆の顔なんて
見えなかったから緊張しなかったんだろうな……」
「主殿。少々よろしいか」
「ん? ルジリトか。どうした?」
「サーシュとリュシアンが戻りました。偵察のご報告を」
「ああ、あいつら休まず働かせ過ぎたな……」
「喜んでおりましたぞ。まずはサーシュから。シーブル―大陸の調査報告です。
彼の地は荒れ果てており、危険な地域と指定。モンスターも多く存在し、不穏な
衣服を身に纏う集団が多く存在するとの事」
シーブルー大陸は、確か常闇のカイナ本部がある地だったな。
……この大陸は遠い。なるべく関わり合いたくない大陸ではあるのだが……。
「続いてキゾナ大陸の調査報告です。こちらは良くないですな。人一人見当たらない
との事です。港町の方も……」
「……そうか。エッジマールの国はもう……」
「円陣の都は既に焼け落ちておりました。ただ、古代樹は傷一つついておらぬ
ようです」
「あれは特別な木なのだろう。ドラディニアの方はどうだった?」
「そちらは今のところ攻め入られた形跡などは無い様子。ただ、付近にある
レデ島とアルギ島という二つの島がありましてな。こちらに不審な集団を
見たという報告がありました」
「レデ島とアルギ島? 聞いた事がないな。大陸は把握しているが、島までは
まだ把握してなかった。不審な集団か……有難うルジリト」
「いえ。それと、トリノポート大陸については白丕様と沖虎、彰虎の三名で
周囲の安全を確保しております。采配は引き続き振るってもよろしいですか?」
「全面的に任せてしまってすまないと思っている。俺もエンシュとミレーユ王女の
訓練がてら、周囲のモンスター退治を行うつもりだ。ついでに俺の修行でもあるんだけど」
「主殿もこれから? でしたらこのルジリトもお連れ頂きたいのですが」
「それが、着いて来たいという奴が多くて。日替わりだな、これは。ルジリトも
日程を決めて一緒にいこう」
そう言うと、猫眼鬼族の耳が垂れ、しゅんとなる。
この辺はまるで猫のようだ。そんな目で見られたら俺は抵抗出来ない。
「むぅ。出来れば一番乗りがよかったのですが……」
「あ、ああ。わかった。一番乗りにしよう!」
嬉しそうな猫目を向けてくるルジリト。ごめんよ。お前には本当に頭が下がる。
一番ねぎらわないとならないよね……。
「では早速、参りましょう! さぁ今すぐ!」
「待て待て。エンシュとミレーユ王女を連れていかないと、どやされるから」
こうして俺は暫く日替わりで、トリノポート中を駆け巡る事になる。
その間もかかさず伝書の修行だ。
遊んでる暇は……無いな。
――昔みたいにのんびり砂浜でビーチバレーでもやりたいな……。
ついにメルザが女王に!?
食いしん坊女王国家の爆誕ですか!




