第七百八十三話 再び驚愕する事に
「ピキュアー!」
「お、よく見たら乗せてってくれてるの、お前だったのか。ありがとな」
ナチュカーブのナチュカは、俺がジパルノグに向かう途中走ってくれたやつだった。
ナチュカーブの操縦はグレンさんがやってくれている。操作はお手ののもののようだ。
俺もナチュカに乗るための資格が欲しい。ランスロットさんに相談してみようかな。
「君はナチュカが大層気に入ったようだね。どうだね? 次に町に来るとき試験を
受けてみては」
「いいんですか? こちらからお願いしようか考えていたくらいですよ」
相変わらず俺の思考を先読みされる。
これも年の功……いやいや、鋭すぎるよランスロットさん。
こういうのを洞察眼というのだろう。
「我に乗る方が早いであろうがァ! 不服なのかァ!」
「おいおい。毎回ギオマに乗って空飛んでたら、俺は狂ったドラゴンライダーと認定
されるだろう。それは絶対に避けたい。それにみろ。あの愛嬌のある顔。
それよりも傷の具合はどうだ? いきなり狙われるなんて……」
「雷撃の絶魔王、ベルベディシアでほぼ間違いなかろう。南に位置する竜は良く狙われるという。
交渉しようにも取り合ってすらもらえぬ相手だ。狙われぬようにするしか手が無い」
「そいつが協力関係にある絶魔王じゃないんですか?」
「いや違う。氷の絶魔王、フロジリカこそ協力関係にある絶魔王だ。
協力関係にあり血縁関係でもあるが、最近少し困った事になっていてね」
「……詳しく、聞かせてもらえますか?」
「いや、やめておこう。君は忙しそうだったからね。もし君に時間の余裕が出来たら
その時話すとしよう」
思わずハッとしてしまった。
こうやって首をつっこんでいくからいけないんだ。
しかし、こうやってそれに気づき注意してくれる。
そんな人物に今まで出会っただろうか。
……恐らくであっていてもそこまで指摘してくれる人がいなかった……の方がしっくりくる。
俺は、この世界に来て出会う者に恵まれているのかもしれない。
自分では気付けない事に気付ける。他者だからこそ出来る事だ。
「ランスロットさん。有難うございます。もう少し気を遣わせないよう注意すべきですね」
「はっはっは。君はまだ若い。これから十分気付いていけるだろう」
そう言うと、少し外の様子を見るランスロットさん。
今度はカーィの方が気になる事があるらしく、こちらをじっと見てくる。
その眼はちょっと怖い。観察眼……どれほどの力なのだろうか。
「ルインさん。この方角って、骨の化石があるだけですよね? 化石を採掘するんですか?」
「うーん。説明するのが難しいんだよ。あれこそ百聞は一見に如かず……だろうし。
俺もこんな世界じゃなければ信じられないからな。でも、知らないというだけで
知れば世界は変わる。そう言った事って多くあると思わないか?」
俺がそういうがいなや、カーィは俺の両肩をつかみ目を見開き、興奮して話しだした。
「そう、そうなんです。未知なる物を追い求める探求心! あなたはその塊のように
見えるんです。あなたについていけば私はもっともっと面白い効果のある道具が
造れるって!」
「ちょ、落ち着いてくれ。今更逃げたり邪見にしたりしないから」
カーィはハッとして、慌てて座る。やれやれ……職人タイプっていうのは皆変わってるな。
アルカーンさんもそうだが、夢中になると周りが一切見えない。
だからこそ、アルカーンさんには少し視野を広げてもらうため、ナナーとビュイを
付けたんだけど。
……仕事が出来ん。とか考えていそうだ。いや、間違いない。そうさせたんだし。
――それからグレンさんに指示した方向へナチュカを走らせて
もらうと、ギオマの化石が見える辺りまで戻って来れた。
行きには体験できなかった地上の道は、思ったより荒れ地で、歩いて行くと
なると大変な道だ。
だが、ナチュカであるならそんな道でも問題ない。
何せ彼らは生物。道を気にしながら走ってくれている。
ナチュカの話をしたら、ファナは喜ぶだろうな。
「ルイン殿! 言われたのはこの辺りだろう? どうすれ……ば……」
「そのまま走ってくれ。といってももう景色は変わってるな」
俺の接近を察したのか。或いはギオマに言われていたのか。
せめて近づくときは普通に登場してもらいたいんだけどね。
この拳にしたマーキングって、消えないのか?
「アメーダ。少し遅くなったか? 待たせたな」
「あなた様。お帰りなさいませ。既に泉は接続済みでございます。
シカリー様も大変お喜びでございました。それから……」
「おっと待った。全員呆れてるから、説明させてくれ」
いつの間にかナチュカーブに一人の紅色の髪をした女性が乗り込んで
いて、全員驚愕している。
突然変わった景色に、外ではグレンさんがまた腰を抜かしていなければ
いいのだが……何せモジョコも操縦している場所にいる。
しかしこれは、俺でも腰を抜かすような出来事か。
化石以外何もない場所に、こつぜんと姿を現す死霊族の町。
そんなものを見れば誰でもぶったまげるだろう。
「なな、なななな。誰? どこ? ここ? 誰とどこですか?」
「ふうむ。これは参ったね……」
「ああ。彼女はアメーダ。ここは、死霊族の町だ」
「ゆゆゆゆ、幽……」
あ、カーィさんが失神した。無理もない。パンク寸前だったんだろう。
「それよりも、お客様を連れてこられたのですね。直ぐにもてなしの支度を」
「ああ、ちょっと待ってくれ。これから忙しくなる。俺はミレーユに用事があるから
ランスロットさんとグレンさん……操縦者をルーンの町に案内してやってくれないか?
それと、目が不自由な子がいるんだ。その子をそうだな……まずはアルンとレェンの許へ」
「承知したのでございます。ミレーユ王女様でしたら、エンシュ様と特訓中でございます。
お二人とも頑張っているのでございますよ。あら、ギオマ様はお怪我を?」
「ああ。絶魔王に撃ち落とされたんだ。それで……」
「そうでございますか……どうやらその来客者がいらっしゃったようでございますね」
そう一言だけ告げて、アメーダはナチュカの乗り物からこつぜんと消える。
目を覚まそうとしたカーィが再び失神してしまった……。
刺激が強すぎるよね……よくわかるよ。