間話 雷城の主、ベルベディシアは思案する
――外した? このわたくしが……まさか。
避けられたようね。それでもわたくしの雷撃を避けるなんて、ただの小竜に
出来るのかしら?
不可能よ、不可能ね、不可能に違いないわ。
「そう思うでしょう? ビローネ」
「ええお姉様。その通りですわ」
「あなたはどうかしら? ベロア」
「はい。全ては我が君の言う通りでございます」
「テンガジュウ。あなたもそうなのかしら?」
「俺にはよくわからねえが、お嬢様が言うならそうなんだろう」
「テンガジュウ。その場で腕立てなさい。わたくしがいいと言うまで」
「何で俺だけ!?」
それにしても、わたくしの攻撃を避けるなんて……少し確認しにいこうかしら。
でも、ダメよ。ダメね。ダメに違いないわ。
だってわたくしが城から出たら、下賤なやつらは必ずこの城へ来てしまう。
そうしたらきっと、雷城が汚れちゃうわ。
「うふふふふ。それでも気になる。気になるのよ。気になるわね。気になるに
違いないわ。あの竜……見たい」
「お姉様。その役目、ビローネに!」
「抜け駆けはよせ。その任、ぜひこのベロアにご命じ下さい」
「なぁ。もう腕立て終わってもいいか?」
「テンガジュウ。お前が行きなさい」
「何で俺が? 今腕立てやれって言ってたのに?」
「くっ。いつもいつも貴様ばかり可愛がられて。汚いぞテンガジュウ!」
「そうよ。お姉様の遣いをいつも任されて。ずるいわよテンガジュウ!」
「……行きたくねーんだけどなぁ、俺」
それにしても妙ね。わたくしの雷撃は避け方を知らないと避けれませんのに。
わたくしの雷撃を知っていた? 受けた事がある? このベルベディシアの
攻撃を受けて生きていた?
「おかしい。おかしいですわ。二人とも、どうやって避けたのかわかるかしら?」
「きっとまぐれでございましょう。運が良かっただけかと」
「お姉様の幸運値が今日は良くなかったんです、きっと」
幸運値……今日の幸運となる色は深い青色。身に着けてますわ。
天候もいつも通りの落雷。幸運値は維持していますわね。
そうするとやはり……これは、テンガジュウが運を下げているに
違いないのだわ! 今ならきっと当たる、当たるわよ、当たるわね、当たる
に違いないわ!
「早くもう一度、竜が飛ばないかしら」
「我が君。僭越ながらこのベロアが代わりに!」
「あなたならまともに受けて黒焦げでお終いでしょう。つまらない。つまら
ないわ。つまらないのよ。つまらないに違いないわ。わたくしは当たらないものに
当てたいのよ」
「はっ。無礼をお許しください。しかし……我が君に落とせぬ存在など、伝説の
七竜位しか考えられませぬ」
「伝説の七竜は、えーと……ルービック、サファール、ペリドー、トパー
ジオ、ギオ・マ・ヒルド、リンドヴルムそれから……」
「そうか! きっとリンドヴルムだったのです。我が君よ!」
「リンドヴルム? 消失の竜であるならわたくしの攻撃を避けれてもおかし
くはないと。そう言いたいのね?」
「はい。恐らく奴めはたまたまふらりと空を飛び、気まぐれで消えたので
ございましょう」
消えた? あれは消えたりしていないわ。避けたのよ。それに、リンドヴルム
が地上に出るなんてあり得ない。あり得ないのよ。あり得ないわね。あり得
ないに違いないのだわ!
「テンガジュウ。腕立てをその場でなさい」
「お姉様。テンガジュウは出かけちゃいました! 代わりにビローネが!」
「貴様、抜け駆けするなと言っただろう! その任、このベロアめが!」
「本当テンガジュウって肝心な時にいないわね。仕方ない。わたくしが
やるわ……わたくしの命令だもの」
「お姉様! おやめください! 手が汚れてしまいます!」
雷の降りしきる城では、そのようなやり取りが行われていたという。
城を出たテンガジュウは、外でおおきなくしゃみをして愚痴をこぼしていた。
「あーあ面倒だなぁ。雷雲キュペーテよぉ。さっさと回収して戻るぞ……っておいおい
どっちに向かうんだ。ベルベディシア様の雷撃の痕跡、そっちに移動してるのか?」
雷雲キュペーテとは、ベルベディシアが産み出した雷雲であり、搭乗できる乗り物。
ベルベディシアが放出した雷の痕跡に従い移動出来る。
それは魂吸竜ギオマの骨跡を目指して動き始めた。