第七百六十八話 確かな鑑定眼
レンブランド・カーィは、錆びたナイフを念入りに確認していく。
アナライズが使えない今、俺にはこのナイフの価値を推し量る事が出来ない。
だが、錆びた以上アーティファクトでない事は明白なんだ。
「これは双刃の二振りですね。ユニークウェポンです。とてもいい物でした。
ですが、この子はもう打ち直しても使用するのは厳しいでしょう」
「そうか。それならば眠らせてやっても……」
「いえ。双刃の二振りとしての役目を終え、新たに生まれ変わらせればいいんです。
武器としての役目が終わったわけではありませんから。
その……もう詮索はしませんから、この子を新たな武器として打ち直してもいいですか?」
「それにはどの程度時間がかかる? 俺はこの町を明日経つつもりだけど」
「……それでは間に合わない……どうか、お願いします。あなたとの繋がりが
欲しいのです。私に何か、あなたからの仕事を頂けませんか?
決して悪い思いはさせないと誓いますから」
レンブランド・カーィは真剣な眼差しでこちらを見ている。
出来れば関わりは避けたいと思ったが……どうしたものか。
入り口の家紋を見る限り、この鍛冶屋はこの町の重要な役割を担う場所なのだろう。
この人物を無碍に扱うことは、後々悪い結果になるかもしれない。
そう考えた俺は、一つ依頼を出してみる事にした。
「俺が使用する武器ではないのだが、杖を頼めるだろうか? 魔術師用の杖だ」
「魔術使用の杖……ですか。ご本人がいないとなると、背丈や手の大きさ、それから
術の系統や筋力などにもよって、大きく製造工程が変わります。簡易として幾つか
杖をご用意し、その中でご本人にあったものを作る……というのはいかがでしょうか?」
「……そうだな。もう一度この町を訪れる事になるだろうとは考えていた。
参考になるようなものを貸してもらえるのか?」
「はい。それが可能であれば、あなたは必ずここを訪れるでしょう。私にとっても最良です」
「だが、持ち逃げするような事も考えられるだろう?」
「いいえ。私の鑑定眼は確かなものだと自負していますから。あなたはそのような
事をする方ではありません。決して」
「……信用してくれるのは嬉しいが、本当にいいんだな?」
なぜそこまで俺に肩入れするのか……どこまでこちらの情報が見えているのか。
そこまではわからない。
だが、こちらもリスクを負った事は間違いない。
後ほどグレンさんに、この人物について確認しなければ……。
――そう思案していると、レンブランド・カーィは店の奥から長さや
材質が全く異なる三本の杖を持ってきた。
少々余計な手荷物が増えてしまうが……仕方ない。
この杖には家紋などが入っていないな。
「こちらです。あくまでも参考となる品物ですが、材質などは保証します。
それと、こちらもお持ちください。私が必ず店に立っているとは限りません。
それがあれば直接私に面会が可能です……いえ、飛んでいきますから」
「わかった。受け取ろう。もう夜も遅くなった。これで失礼するよ」
三本の杖と、一枚の金色のプレートを受け取ると、プレートを懐にしまう。
とても名残惜しそうに俺を見送ると、レンブランド・カーィは
今一度俺を呼び止める。
「どうか、あなたと再びお会いできる日を楽しみにしています。次はもう
少しお話が出来ると嬉しいです」
「夜分まですまなかった。レンブランドさんが信用に足る人物だと
確信が持てたら、ちゃんと話をしよう」
そう告げると、彼女の表情はパーッと明るくなり、僅かに笑顔を見せた。
だが……こちらとしては気が気ではない。こんなところで
全身アーティファクトだらけな上、魔族を収納している手甲
持ちだとばれたら、どこへ通報されるかもわかったものではない。
もし俺のように人物まで鑑定のような事ができると
するなら、プリマの事までばれてしまった可能性すらある。
……伝書を含むアーティファクトの部類などの貴重品は、今すぐ全てパモに預けよう。
ティソーナとコラーダは俺が取り出さないと出てこないから、こちらは収納しなくても平気だろう。
ベルトも収納は厳しい。封印装備が減ってしまうが、最低限ベルト
だけは身に着けておこう。
というかこれを外すと俺のズボンがずり落ちる。
……しかし杖三本、持ちづらい……一本は腰にでも差してみるか。
少し魔術師っぽく見えるかな?
……それにしても、急な事で驚いた。
採掘道具なども欲しかったのだが、それはまた今度だな。
周囲はすっかり暗くなってしまったし、急いで宿まで戻ろう。