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第七百六十七話 鍛冶屋は……

 図書館を出ると、既に日が沈む頃。

 このまま鍛冶屋に行きたい所だが……この時間でも空いているのだろうか? 

 場所だけでも確認しようと思い、急いで移動する。

 図書館へ赴いた時とは違う大きな道へ出ると、ナチュカが引く

乗り物のようなものを確認した。

 こういう用途もあるのか。やっぱりナチュカはとても便利だ。

 どうにか連れて帰りたいけど、今回は難しいだろう。

 

 ――店が立ち並ぶ場所まで戻って来ると、人の往来が激しい時間を過ぎたのか、閑散としている。

 鍛冶屋は東方面。少し町の門に近い方だ。


 しばらく歩き――周囲を見渡す。

 グレンさんに記してもらった場所は……ここか。


【レンブランドスミス】と読むだろうか。

 少し読みにくいような文字で書かれている。

 驚く事に、この建物は美しい銀色で出来ている。

 これは相当高くつく建物だろう。光沢もあり、とても清潔に保たれている。

 しっかりと掃除が行き届いているのかもしれないが、材質の影響も考えられる。

 周りの建物とは明らかに異なる佇まい。

 

 入り口は門のようであり、そして上部には……交差する剣と馬……だけじゃない。

 死神が鎌を持つようないで立ちの、赤いローブを着た鎌持ちのマーク。

 それから槍を二本携え、謎の生物にまたがる騎兵のマーク。それから、拳を

突き上げただけの単純のようなマーク。

 それから……これは呪文だろうか。何かが爆発する

ようなマークが、びっしりと上部に描かれていた。

 

 これは……家紋のようなものなのかもしれない。

 これらが所属する鍛冶屋が、このレンブランドスミスという場所なのだろうか。


 扉は半分開いており、中に入ってみる。

 開いてるから、入っても構わない……んだよな。


 店内に客はおらず、販売員のような線の細い女性が一人。

 そして店内には、色分けしてあるかのようにずらりと並んだ、武器防具の数々。

 きちんと整理整頓されており、広々とした店内には分かり易く

商品の説明を施した掛札のようなものが貼ってある。

 

 これほどの武具屋を見るのは初めてだ。

 以前三夜の町にて、シーザー師匠のレジンの快哲屋で武器防具を並んでいるのを見た以来か? 

 まともな装備品は大体宝箱から手に入れていたし、ニーメが

鍛冶師だから俺にはこういう場所が無縁だと思っていた。

 ……この理路整然とした商品の見せ方は、とても参考になる。


 ニーメが鍛冶師として世界に売りにだすとしたら、良い物を作るだけでなく

陳列方法も考慮する必要があるだろう。

 ニーメのためにもぜひ詳しく話を聞きたい。

 そう思っていたら……。


「あのー、すみません。もう店じまいなんですけど……」

「すまない。あまりにも美しい陳列と、美しい店だった

もので……また後日来るとしよう」

「いえ、その……少しだけでしたら構いません。あら……」


 どうやら怪しい人物だと思われたようだ。

 無理もない。この辺りの人々とは恰好がまるで違う。

 俺の恰好を見て驚いている……と思ったら、近づいてきた。

 何かやらかしてしまっただろうか? 


「あなたのその手甲。それに腰に巻いている物……それに、暗器まで持ってますね!?  

信じられない。ほぼ全身、アーティファクト……一体何者ですか!?」

「えっ? なぜそう思ったんだ」

「突然ごめんなさい。私、この店の主でレンブランド・カーィって言います。

なぜわかったかは勿論、私が目利きだからです」

「目利き? 目利きでわかるとは思えないな。だって、これなんてただのベルトだろ、どう見ても」

「いいえ、わかるんです。あなた……この町の人じゃないですね。遠くから来た……?」

「……詮索はしないでもらいたい。失礼してもいいか」

「あ、あの! すみません。謝りますのでどうか少しお話を」

「……それならまず、他の客が来ないようにしてもらいたい。

それと、このブローチを」


 入り口の門構えの扉を閉めるレンブランド・カーィ。

 閉めながらもこちらの差し出した隊章を確認する。


「ああっ!? これは失礼しました! バーニィ家の方だったんですね。

他所者扱いしてしまってすみません」

「いや。俺はバーニィ家の知合いに用事を頼まれたのと、報酬を受け取りに

町を訪れただけだ。グレンさんという方からの依頼を受けてね」

「グレンお嬢様のお知り合いでしたか。ですが……グレンさんに男性が……? 

そうですか。あの……話をすりかえてません?」


 ……鋭い。どうにかごまかさないと。

 ほぼ全身アーティファクトであることを見抜く奴なんてこれまで

一度も現れなかった。

 これは非常にまずい。

 特に俺の装備は、世界の管理者を司るうちの一人である、カイロス……いや、アルカーン

が造った伝説といってもいい遺物だ。

 もしこいつが見ただけでわかるなら、それも……見ただけでわかる

やつが……見ただけでわかるか? 

 まてよ。俺のアナライズのような能力を持つ奴が他にいないなんて、なぜ

考えなかったんだ? 

 こいつはもしかして……「あんた、もしかして鑑定眼のようなものを持って

いるんじゃないか?」

「……もしそれにお答えしたら、あなたの事を教えてもらえるんですか?」

「それは無いな。失礼した。こちらも詮索するつもりはない」

「待ってください! お願いします。これは国にとっても重要な事なんです」

「そうはいってもな。俺はここへ、錆びてしまったナイフをどうにかできないか

見てもらおうとしただけだ。それに、ここでダメだったとしても

俺の仲間には腕のいい鍛冶師がいる。

持ち帰ればきっと打ち直してくれるだろうから」

「見せてもらえませんか? そのナイフを」

「ああ、これだよ」


 そういうと、俺は二つの錆びてしまったナイフを、レンブランド・カーィに渡してみせた。

 こいつはアーティファクトじゃない。

 これでこいつの気が済むなら、くれてやってもいいくらいだ。

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