第七百五十七話 モンスター接近
「ダメだ、振り切れない。このままだと追いつかれるぞ!」
少し大きめに声を発してグレンに注意を呼び掛ける。
今度はターゲットに反応があった。数は今のところ二。
凄い速度でこちらへ走ってきている。
「くっ。こんな場所でか。相手はフールドランナーで間違いないだろう」
「フールドランナー? 名前からしてかけっこが得意そうなモンスターだな。ここは俺が引き受ける。
モジョコを頼めるか」
「わかった。待機の合図だけだしてくれ。ロープは私が結んでおく!」
速度を落としつつ、ナチュカの顎の下を三回撫でてやる。一瞬上を向きこちらを見て、大丈夫? というような顔を見せたが、安堵させるために頭を撫でてやる。
「大丈夫だ。お前に危害を加えさせたりはしない」
モジョコを揺り起こし、しっかりとナチュカに掴ませて俺は一足地面に降りる。
そのまま神魔解放して問題なく着地した。
すると……後方から、巨大な赤子のような気味の悪いモンスターがこちらへ向かって来るのが見えた。
こいつがフールドランナーか。ナチュカより大きく、目が血走っている。
「封剣。もう色々、隠してはいられない。剣戒! おまえらの相手はこっちだ! 赤閃!」
正面に斬撃を二発放ちつつ、ナチュカで走って来た道から逸れたあぜ道へそいつらを誘導する。
斬撃をかすめたフールドランナーはいきり立ち、俺の方へと方向転換して襲ってきた。
「よし、それでいい……っとと、妖楼! こいつら、加速がとんでもないな」
方向転換したから直ぐに向かってはこないだろうと思ったら、まるでターボを積んでる車のような
加速で突進してきた。
これは細道だったら対応に困る相手だな。
町まではもうすぐ……時間もかけていられない。
「リーサルレデク……悪いが遊んでる暇は無い」
ぎりぎりと俺の手から離れていくコラーダは、赤い閃光を残したまま、背後からフールドランナーを串刺しにして、俺へと吸収された。
そのまま直進し、もう一匹にティソーナを繰り出す。
「エスパーダ・コンヘラル……よし、片付いたな」
土埃を払うと、フールドランナーの状態を確認する。
なんでこんなにいきり立っていたんだ?
そもそもこういう気性なのだろうか。
こちらを心配して見に来たグレンさん。ちゃんとモジョコの手を引いて来てくれている。
……これなら、任せてもちゃんと町まで連れて行ってくれるだろう。
「どうにもこいつらの様子がおかしいから気になって調べてみた。
こいつら自身何かに追われて飛び出してきたみたいだ。その相手がもうじきここへ
来るだろう。グレンさんはモジョコを連れて先に行ってくれ」
「嫌! モジョコを置いて行かないで。ルインお兄ちゃん、一緒にいてくれるっていったのに!」
「必ず後から行く。心配するな。そうだ、またパモを一緒に連れていってくれ。
頼めるか? パモ」
「ぱーみゅ!」
「もしフールドランナーを追っていたのが巨獣の部類なら危険だ。やっぱり一緒に!」
「いいから先に行け。せっかく救えた子供に、また怖い思いをさせたくないんだ」
「っ……。わかった。町の入り口で待ってるから。このまま真っすぐ進めば大きな旗が視界に入るはず。
そこを目指してくれ」
「わかった。モジョコの事、よろしく頼む。コラム、パモ、モジョコをちゃんと守ってやってくれよ」
「……」
「ぱーみゅ!」
一度ナチュカを置いてある場所まで行く。このままだと多分、ナチュカも危険だ。
自動で同じナチュカを歩ませる方法があるらしく、グレンに続いて俺の乗っていたナチュカを
誰も乗せずに進ませるよう指示した。
何度かこっちを振り返り、心配そうに見てきたので、笑って送り出してやると、少し安心したのか
グレンと共に向かってくれた。
……さて、鬼が出るか邪が出るか。
グレンさんはきっと、俺が一人だと思い心配しtなのだろう。
だが今の俺は一人じゃない。
「ふう。やっぱり手甲から解放されるといいのう。酒、持っとらんのかぁ?」
「プリマ、力は出ないけど戦うなら戦うぞ。ラングの力だけでも戦い抜いて見せる」
「二人とも無茶はするなよ。さっきのフールドランナーも決して弱いモンスターってわけじゃない。
そいつを追って遊ぶような相手だ。果たしてどんなものがでてくるのかね……」
道の中央で横並びに各々身構える。
どうやら俺ではなくベリアルの方が暴れたいらしい。
……ったく。おめえも物好きだな。俺と同じでガキは放っておけねえ性分か。
「当たり前だろ。俺じゃなくてもそうする」
……どうかねえ。人間ってのは面倒事を嫌うんじゃねえのかな。
さっきの女だって、面倒になったら捨てるかもしれねえだろ。
「……お前と違って人を見る目はあるつもりだ。ベリアル!」
ふん。どのみち心配である事に変わりはねえ。俺が出る。さっさと済まそうぜ。
「なんじゃあ。ルインは交代するのか」
「ベリアルの方が妖力も上だ。相手が不明の強者なら、当然だ」
「ふうん。プリマよ。お主、ちょっとむすっとしておるな」
「そんなことはないぞ。プリマを構って欲しいなんて思ってないからな」
「わし、まだ何も言うておらぬのだがのう。お主、分かり易いのう」
「おいおめえら。ごたくはそれまでだ……来るぜ! 数が多い!」
俺たちがきた方角からドドドドという地響きのような足音が迫って来た。
こいつは……でかいのか、数が多いのか……。




