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第七百四十八話 ヴァンピール中位の遭遇

「少し止まれェ。この先に何かおるゥ。我なら楽勝だがァ、人間は苦戦する相手だァ」

「ギオマの兄貴? 人間が苦戦するとか大きな声では言わないように……うわ、あれと

戦わないといけないのかよ」


 視界に入ったのは天井からぶら下がるようにして地面を見ている大きな化け物。

 お化け屋敷などには実に似つかわしい。いわゆる吸血鬼と言った方が分かり易い存在だ。


「貴様は見るのが初めてのようだなァ。かなり大きめの個体だァ。血液を吸われる量も多かろうがなァ。

どうやら先ほどのブラッドスライムを餌にしておるようだァ」


 外見的には手があるわけではなく、顔も吸血鬼のように人型ではない。

 これで中位なら上位は本物の吸血鬼……ヴァンパイアだろうな。

 

「ちょっと待ってくれ。ヴァンピール中位なら追い払える。これを使ってくれ」

「わっしらはこれが無いと太刀打ちできないので、こいつらを奥へやってるんですよ」

「いや、ギオマの兄貴にかかればそんなものなくても……」

「ふんぬゥ、高いところから見下しおってェ!」

「あれ?」


 てっきりプリマの鎌を出して今度こそ格好良くヴァンピールをぶった切ると思ったのだが、突撃して

拳をブンブンと振り回している。

 ヴァンピールには餌としても認識されず、天井に張り付いたままだ。

 ホムンクルスの体だからか? ヴァンピールたちが狙うとしたらこちらだろうが、ここまで

距離があるので警戒しているのかもしれない。


「あの方、なーんで平気なんでしょうね。特異体質でしょうか」

「ヴァンピール相手にまったくひるまないとは。男の中の男だな」

「ああ……それよりもその白い奴、ニンニクか? そんな馬鹿な」

「ニンニク? これはガレットというヴァンピールが嫌いな匂いを発する植物だ。

嗅いでみるか?」

「どれどれ……いや、やっぱりニンニクだろこれ! そんなの迷信だろ!」

「嘘だと思うなら試しに大男の方へ投げてみたらどうだ」

「まぁ、やってはみるけど。食べ物を粗末にするみたいで嫌だな……」


 本当のニンニクなら後で拾おう。

 ギオマの方へガレットを投げると、ギオマはそれを素手でキャッチする。


「おい、何のつもりだァ!? 我の戦いの邪魔をするでないわァ!」

「戦いっていうかどうしたらいいか考えてる感じだったよな……兄貴! そいつを

やつらの方へ!」

「ほう? これを武器にかァ! 成程! ふぅん!」


 ガレットを握りしめたギオマは、思い切りヴァンピールに向けて投げつけた……すると。


「ピグイエエエエエエエエエエエエエ!」


 凄い音を発しながら、壁にゴンゴんと体をぶつけつつ、ヴァンピールたちは去っていった。

 ……ガレットは砕け散り、飛散してしまう。

 レオもグレンも俺も茫然としていた。

 

「一応、どっか行きましたね」

「ああやって使うものでは無いのだがな」

「でも、このまま奥へ行くとまたあいつらに遭遇するんじゃないのか?」

「少なくとも一匹はこないだろう。もう一匹は効果があったかは定かではないが、ガレットの

影響を受けると、しばらくヴァンピールは戦意喪失して身を隠す。心配はない」

「あいつらは吸血以外にどんな攻撃を?」

「そうだな。血液を吸われた者の意思を惑わす微量の毒を流される。

毒は即効性はあるが効果は薄く、徐々に静まる。ただ、多量に血液を吸われれば

その限りではない」

「それは厄介だな。もしギオマの兄貴が血を吸われたら、大変じゃないか」

「そうだな。だからこそガレットをちゃんと使って進もう」



 いや、本来なら相手ではない程動きも遅い。

 しかし今は俺たちが異様な存在だということはばらしたくない。

 この辺りで人間と魔族が仲がいいのかもわからないし……。

 今しばらくは大人しく、ギオマの兄貴の力に頼るとしよう。


「おい。ここには貴様ら以外も誰かいたのかァ?」

「そんなはずはない。もしいたとするならば、我々が来る前ということになる。

ここへ到着したのはもう七日も前の話だ」

「ほう。七日程度であれば生きられる種族は多いがァ……少々厄介な状況のようだぞォ」


 そう告げると、ギオマは道の先にある落とし穴のような穴を指さして見せる。

 こんなところにうっかり落ちたら大変……いや、厄介な状況ってことは誰か落ちてるってことだろうか。


「そこは確かに我々が来る前から開いていた穴だ。物資が届いたら危ないので埋めておこうと思ったのだが。

まさか下が見えるのか?」

「見えるというよりは感じるが正しいなァ。微弱だが、人型のような生物がおる」

「ギオマの兄貴の大きさじゃ、下には降りられないな。俺が行こう。明かりになるようなものはあるか?」

「ありますよ。眩き草といいましてね。この紅葉洞を照らしてる草をランタンに詰めてます。

いやー、ランタン一杯持ってきてよかった。わっしのこれ、使ってください」

「しかし人が一週間も穴に落ちて助かるものなのか?」

「魔族かも知れぬゥ。ここからではわからんがなァ」


 地面に開いた穴を覗き込むが、何も見えない。眩き草ランタンを穴付近にもっていき、その中から

いくつか草を落としてみると、地面の深さがわかる。

 本当に誰かいても、死んでる可能性はあるんじゃないのか……。


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