第七百四十七話 スライムコレクションズ
確かにスライムは見えた……というより見る限りスライムだった。
レールのようなものもあるが、これはスライムは食べないのだろうか?
「どうです? 多いでしょう?」
「多いなんてものじゃない。スライムで道塞がってるじゃないか!」
「だから我々も困っているといっただろう! あれをどうにかしないと採掘もままならないんだ!」
「そりゃそうか。ギオマの兄貴、頼みます」
「うむゥ。ルインよ。我の力を使うのは構わんがァ。この洞事破壊してよいのかァ」
「ダメです」
「うむゥ。そうだろうなァ。ではどうするかァ」
「加減して撃っちゃってください。ギオマの兄貴」
「うむゥ。加減してちょうど、この洞が吹き飛ぶくらいの威力だなァ」
「……はい? あんたどんだけ強い力のブレス持ってんだよ! 肉弾戦、肉弾戦で頼みます……ほら、プリマの鎌で」
「うむゥ。試してみるかァ……」
ギオマは先頭に立つと……二つの鎌を両手に具現化する。
突然現れた武器にレオとグレンは驚くが、幸いひらひらした格好をしているので、隠していても
違和感はないだろう。
「鎌使いだったんですね、戦士さんは」
「しかもニ本の鎌使いとは珍しい。あの大男、相当な武人か……?」
そして、凄まじい速さで前進すると、毛躓いて大きく転び、鎌はスライムへと放り投げられた。
勢い余って天井に突き刺さる鎌へ、スライムたちが押し寄せていく。
「……転んだな」
「おい、転んだぞ」
「転びましたね……」
「あの男。どうみても鎌は素人だぞ?」
「そうみたいですね……速さだけは凄かったようにみえましたが」
「……ギオマの兄貴! さすがです。スライム相手に余裕をわざと見せ、敵をおびき寄せる
ために天井へ鎌を! 少数ひきつけてくれるなら俺でも倒せそうです。いきますぜ、兄貴!」
俺はつるはしをその辺に転がすと、腰に刺していた二振りの短剣を手に、鎌を目指して
いるスライムへ突撃する。
こいつがアシッドスライムか。黄土色みたいな色をしたスライムだな。
三号を思い出す。スライムには核が存在し、そこが唯一の弱点。他への物理攻撃は一切無効だ。
つまり核をとらえなければ倒すのが難しい、面倒な相手だ。
その核もアシッドなら酸でガードされてる。
つまりやるとしたら……「シッ! ……よし、命中」
投擲しかない。投げ放った短剣は深々とアシッドの核へ突き刺さり消滅させた。
……どうにか見えない場所で数匹封印できないかなー……。
そうだ。ギオマに誘導してもらって、俺たちを囲むようにしてもらえれば……「おのれ矮小なる魔物の分際でェ。この我をこけにしおったなァ!」
「あんたのそれ、自爆だろ!」
怒り心頭なギオマはスライムへ突撃する。
あっという間に囲まれたギオマは、素手でスライムたちをちぎり始めた。
……よかった。囲まれたおかげでレオとグレンには見えない。心配そうに叫ぶ声だけは聞こえる。
スライムの数のせいか、手甲が心配して喋りかけてきた。
「なんじゃあ囲まれておるの。わしも戦ってよいか?」
「しーっ。小声でお願いします。俺の短剣じゃ精々倒しても二匹ずつ。数は多分百はいます。
少し多いので減らすの手伝ってください」
「うむう。酒鬼魔族ならではの力、みせてやろうかの」
手甲から酒鬼魔族の姿へ戻ると、口にめい一杯酒を飲み……霧状の何かを吐き出した。
するとスライムたちの動きが途端におかしくなる。
「後はお主が片付けい」
「一体何を」
「酩酊状態にしてやったんじゃあ。ギャハハハ。ラルダの特別性爆酒を少しおすそ分けしてやったんじゃあ」
「はは……スライムって酔っぱらうんだな……」
ふらふらふよふよするだけのアシッドとブラッドスライム、そしてグラングランしているラージスライムの
封印に成功する。
やったぞ! 俺のスライムコレクションはこれから始まるんだ!
といいたいところだが、この世界にそんなに多くのスライムがいるかどうかは知らない。
「ふう……矮小なる魔物よォ。思い知ったかァ!」
「うわ……道が詰まる程いたスライム、全部ちぎっちゃったよ……」
「おおい、大丈夫か! 幾らなんでも無茶……」
「グレン。やっぱり相当な強者のようで。あんなにいたスライムを短時間で全部倒しきるとは……」
「いやーさっすが兄貴。突っ込んでった時はヒヤヒヤしましたが、スライムの対策は万全だったんですね!
俺はちっとも出番なく、五匹しか倒せませんでしたよハハハ……」
よし、うまくごまかせたに違いない。
つるはしを再度担いで先へ進む準備をする。
ギオマも褒められたからか、とても調子に乗っているようだ。
「ふん。我にかかればあの程度のものォ。本来は尻尾を巻いて逃げるわァ! スライムには尻尾など
ないがなァ……」
「この辺りでも少し取れるけれど、中継点に採掘に適した物があるの。それとトロッコもあるわ。食べられてなければだけどね」
「そういえばレールみたいなのがあるけど、あれはなんでアシッドに食べられないんだ?」
「モンスターが苦手とする金属もあるんですよ。これはその金属をふんだんに含んでるんです」
「それって防具とかには使えないのか?」
「厳しいですね。人間が長時間身に着けてると害なものですから」
「そうか……そんな良いものがあったら皆身に着けてるよな、きっと」
「それに硬度も高いわけじゃない。防具としては不適切な上、微量含んだだけでは効果がない」
「貴様らァ! 早くこんかァ! おいていくぞォ!」
ギオマは更に調子づき、どんどんと一人で奥へ進もうとする。
俺たちは慌てて後を続いた。