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第七百四十二話 アルカイオスの歴史

 ……これは、一体何だ。泉に浸かって直ぐ、世界の見え方が一変した。

 随分前に、ティソーナから似たような景色を見た気がするが……それとは明らかに違う。


 まず見えたのは宇宙そのもの。宇宙なんて前世では映像などを視覚的に少し見た事が

ある程度だ。

 目の不自由な人間には一生縁遠い、選ばれた数少ない人間だけが行く事のできる世界。

 そういえば……海に宇宙があると聞いた。つまりこの泉は……海に繋がっているということか? 

 わからない……その宇宙を俺に見せたかったのだろうか。


「始まりはいつも、宇宙(ここ)からだ。あらゆるものは宇宙で起こる現象に過ぎぬ。

神とは、宇宙より誕生する」

「何だ……声だけが、聞こえる。誰の姿も見えない……」

「宇宙域を管理する絶対神。宇宙から誕生した最初の四神。それらは宙域を管理し

役割を担う。絶対神誕生まで、宇宙には、ゲンドールしか存在しなかった。

神は新たな星々を誕生させ、管理を始めた」

「宇宙と、ゲンドールが同時に誕生した……?」

「絶対神が星々を構築するたびに、宇宙は膨張していく。それを食い止めるため、ゲンドールにて

大がかりな宇宙膨張を抑制する仕組みを作った。宇宙そのものと同等の能力を

秘めた、かの地ゲンドールでは、大いなる争いが起こる。神魔対戦と呼ばれる

この戦いに敗れた、原初の幻魔(アルカイオス幻魔)たちはほぼ

死に絶え、始祖を生贄とすることで神魔対戦は終止符をえる。想定と異なる結果に

絶対神同士が話し合い、その住まう地を分ける」

「……始祖……まさか、それがメルザの血だっていうのか……」

「わずかに残った原初の幻魔たちは、必死に生を繋ぎ、やがて死霊族となり

各地に点在。今でもゲンドールの地を、見守っているのだ……」


 ここで情景が一変する。ここは……地底か? 壮大な魔対戦の光景が俺の目に焼き付けられる。

 巨大な魔族もいれば、オーク、ゴブリン、竜もいる。

 対する相手は……アーティファクトであろう者を手に持つ……人間なのか。

 いや、あれは神兵だろう。

 これが神魔対戦の一部? 壮絶なる戦いだが、明らかに戦力の差がありすぎる。

 数で圧倒している魔に対し、神の方は武器も戦術的戦い方も圧倒的に上だ。


「ふざけるんじゃねえ! なぜ神のいいなりにならなきゃならねえ! この地を造ったら

何してもいいってのか? てめえ自ら剣を振るわず後ろで指図するだけの

奴に、従うわけねえだろうが! 俺に従えぇ! 我が軍団よ!」

 あれは……まさか、ベリアルか? 明らかな戦力差がある相手に戦いを挑んでいる。

 他にも何名か、ベリアルのように単騎で戦っている奴がいた。


「奮戦する魔に対し、神の勢力は絶え間ない。幾千の星々より集められし魂。

彼らの抵抗は、神々にとって無意味に等しい。

全ての神々がこの案に賛成しているわけではなかった。

だが、反対する神はこぞって戦いには参加しなかったのだ」

「興味がない……か」

「なぜ武器を手に取り戦いやがらねえ! 俺に続けば、勝利できるはずだぜ! 俺に!」


 ベリアルの声に耳を傾けるものは殆どいない。

 あいつが言っていた、怠慢ってのはこのことか。

 確かにそんなやり方じゃ誰もついてこないだろう。

 あいつは……俺の中で学習しているのかもしれない。


 ――――そして、再び情景が変わる。

 今度は、建物の中だ。見覚えのあるような、ないような場所だ……。

 あの女性はまさか……メルザ……か? 

 そんなわけない。だが、そっくりだ。メルザにそっくりな者たちが大勢いた。

 メルザが男だったら確かにこんな感じだろうって奴もいる。


「やはり、勝てそうにないな」

「はじめっからわかってただろ。争うだけ無駄ってのは」

「カイオス。どうするつもり? あいつらきっと、魔族を根絶やしにするわよ」

「わかってるぜ、マルナ。抵抗が無ければ初めから全て、始末していただろう。

この深く眠る幻魔の世界の上に土台を作ってな」

「でも……イネービュは、これ以上踏みにじらせることはさせないって」

「マルナ! 絶対神の言葉なんて信じるな! それはプグリが許さない」

「ごめんねプグリ。でも……あの絶対神が信用できないとは思えないの」

「ふん。みんなどれも一緒だ」

「既に海底の一角に大陸を構築したと聞いた。そちらにはネウスーフォの軍勢がいるだろう」

「全員、少し黙れ……」

「……」

「俺の持つ紫電のアーティファクトを使う。この身を生贄に、全ての魔族を

救ってもらう条件をつける。あいつらにとっても好都合な取引ができるはずだ」

「ふざけるな! お前が死んだら俺たちも……」

「落ち着けウガヤ。他の全魔族が死ぬよりゃましだろう。それとも何か? このまま

滅びの道を歩むか? このままなら確実に全員死ぬぞ」

「……私は構わない。でも、子供たちだけは……どうか」

「クミナ。お前は命真水から領域を構築しろ。安全とはいいきれないが、絶対神の

言う通り、上の世界が構築されたらその中に紛れ込め」

「一体あれにどんな願いを込めるつもりだよ、カイオス」

「魔族も、人も、神兵も、神も。今はわだかまりを捨て、恨みを、悲しみを、憎しみを

忘れ、共に暮らすゲンドールとなれ。俺の命で叶う事はそれが限界だろう」

「それならプグリの願いは、子供たちが楽しく遊んで暮らせる世の中だぞ。そのためなら

別に命なんて捧げてやる」

「俺は……幻魔の地に足を踏み入れた他の者から幻魔の世界を守る事だ。それくらいなら

俺の命でどうにかなるだろう? もし願いが叶うなら、傷ついた奴をきっちり癒せる願い付きでな」

「それなら、私だって!」

「ダメだ。マルナ、それからクミナ。お前たちは子供たちを育てろ。

俺たち原初の幻魔の子……少しでも残ってくれなきゃ、ゲンドールだって浮かばれないぜ」

「でも、あなたの子なのよ。あなたがいなければ、この先育てていく自信なんて……」

「大丈夫だ。お前なら必ず出来る。俺はそう信じている」

「でもプグリは嫌だな。あいつらと殺しあった事も忘れて仲良くするなんてさ」

「死は互いに恨みを、悲しみを、わだかまりを残す。時こそがそれを解決する術だ。

だがこのアーティファクトは全ての理を破壊する。お前の言いたい事もわかる。

だが、戦っている神兵だって、戦いを望んでいないやつもいる。

俺たち魔族側もそうだろう。いつかはこの海底を出て、多くの者が地上となる場所で

暮らす日がくるはず。その時に、種族で差別をしてほしくない。

何の差別もない自由な世界であって欲しい。

もう、時間だな。マルナ、クミナ。今一度あいつらの顔を見て、別れを告げてくるよ」

「ああ……カイオス。私はまだ……」

「お前がそんな顔をするな。子供まで悲痛な顔になってしまうだろう? 

俺の思いはこいつらに託した。決して神々を恨まぬよう……これは宿命なのだ」


 そう告げると、長い紅髪の男は立ち上がり、建物を後にした。

 それに続く小さい男と大きなやせ型の男二人。


 建物にはすすり泣く女性二人だけが残っていた。


「あれが、原初の幻魔の始祖なのか? カイオス……優しそうな男だった。

それに……間違いなくウガヤと……」


 ――――再び情景が変わると、そこは大きな白い建物の外。

 建物の周囲には綺麗な花が咲き、来るものを歓迎するかの様。

 日の光に照らされてキラキラと輝いているように見える。


 その花をいじる少年と少女がいた。


「ねえシカリー。お父さん、まだ帰って来ないの」

「そうみたい。一生懸命花を育てたら帰って来るって」

「このお花を?」

「うん。大事なお花なんだって。だからロギアも一緒に育てよう」

「他の子たちは?」

「みんな中で祈りを捧げてるよ」

「ふうーん。じゃあ私も花育てる。そっちの方が面白そうだもん」


 すると扉が開き、大人の女性が一名出てきた。

 中の様子が少し伺える。子供だけで結構な数がいる。

 これは全員、アルカイオス幻魔の生き残りだろうか。

 この子たちはどうなっていったんだろう。

 あの花を育てていたのがシカリーだったのか……。


 ――――そしてまた情景が変わり……俺は見たくないものを

沢山みてしまった。

 結局カイオスの願いは永劫続くわけではなく……その効果が切れたようだった。

 その後は結局、争い会う世界へと変貌した。

 なぜ効果が切れたのかはわからない。

 だが、いつからか人々は争い、混沌とした世界へと変わっていった。

 シカリーはもしかしたら――――。



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