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異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー  作者: 紫電のチュウニー
第五章 親愛なるものたちのために

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第七百二十八話 酒にまつわる出来事

 エンシュの刀に少し酒をかけてみたが、特に反応はない。


「母親に何か聞かされたことは無いか? こう、酒を使って戦うようなこととか」

「いえ。母が戦っているところは一度も見た事が無いんです。俺、小さかったから」

「そうか……お前の父は母よりも先に?」

「はい……物心つく頃にはどちらも」

「それじゃこの酒に……いきなりつけると飲めなくなるか。

ほんの数適だけなめてみろ。指を出してくれ」

「え? はい、わかりました……なんか変な味ですね」

「やっぱり含んでも特別変わった事は無いか」

「はい。何か美味しくない味が口に広がりました……」

「すまない。後で水を飲んでくれ。そうするとやっぱり刀だろうな。

もう一度刀に酒を浴びせるぞ」

「何かちょっと嫌です……」

「少しだけだ。刀を横にして持ってもらえるか。柄の部分も試そう……」


 ゆっくりと酒を傾けて、エンシュが持つ刀の柄部分に酒を入れる。

 と、手にかかってしまい、冷たかったのか刀を持つ姿勢が崩れて、掛けていた酒が手甲に

かかってしまった。


「悪い、冷たかったか?」

「いいえ、大丈夫です。あれ? 何か……」

「うっひゃああーーー! こりゃうめぇ酒だなぁ。もうちっと、もうちっとだけくれ」

『え?』

「だからもうちっと、もうちっとだけ頼むって。いいじゃろう? もうちっとだから」

「手甲が……」

「喋った?」

「おい早く。またとんじまいそうだ」

「わかった。エンシュ、手を前に」

「は、はい! 何ですか、この手甲」

「わからん。アーティファクトだとは思ったが、まさか喋るとは……」


 俺もエンシュも動揺を隠せずにいる。

 手元が狂って掛かった酒により手甲が喋りだすなんて。

 まったく予想していなかった。


「ふぅー。上物上物。よしよしじゃな。そんじゃ」

「いや、そんじゃじゃって。アーティファクト……だよな」

「うん? 何だお主は。魔族か? 強烈な魔族がいたもんだ。酒鬼魔族じゃなさそうだがの」

「俺は妖魔だ。あんた一体何者だ?」

「わしかぁ? わしは酒鬼魔族の始祖、エルバノ様だぞ。今、一体何年じゃ?」

「さぁ……この世界の年号は知らないな」

「シフティス大陸歴でいいならわかります。五三六三年です」

「五三六三? そんなに長い年月、誰もわしに酒をくれなかったのか。

悲しいのう……」

「あの、エルバノ様。俺が酒鬼魔族です。半分だけですけど」

「ふむ? ほうほう……ほうほうほう。お主、エルダートの家系の生き残りか! 

なっつかしい匂いがするのう。して、他の酒鬼魔族はどうした?」

「全員、死にました」

「なんじゃと? わしが寝てる間に? なぜじゃ。酒鬼魔族は強い魔族じゃぞ? 

そう簡単に絶滅するわけなかろう」

「俺たちは常に戦ってました。数が減ってからは神兵と協力して戦いをしたといいます……」

「神兵と協力じゃと? はん! あいつらと幾度殺しあったと思うておる。

そんな話、とてもではないが信じられん話じゃ」

「でも! 俺の父さんは神兵で……」

「何じゃと!? ……わしの時代とは随分と様子が変わってきたようじゃな。

それでお主……わしの手甲をはめたということは、見どころがあるようじゃのう。

何せ他の酒鬼魔族は頭が硬うて硬うて。使える者は何でも使えと申しておるのに

自分は刀のみに生きてるんで! みたいな発想しかないやつらばっかりじゃった」

「う……私も先生に諭されるまでは同じ気持ちでした……」

「なんじゃあお主もか。それにしても先生とな? あのプライドの高い酒鬼魔族が弟子入りか。

恐らく神兵の血も混じっておるからじゃのう……ふむ。それで、なぜわしを

呼び出したんじゃ?」

「呼び出したわけじゃありません。偶然酒がかかってしまって」

「何じゃ用は無いのか。それじゃわしは寝るぞ」

「ちょっと待ってくれ! 話に割って入って済まないが、エンシュの酒鬼魔族に

関する情報が欲しいんだ。こいつに戦い方を教えてやりたいが、酒鬼魔族に関する

情報が殆ど残ってないんだよ。酒が関与しているだろうって事くらいで」

「別に教えてやってもいいが、エルバノ様に無料で教えろというのは、話が良すぎると思わんか?」

「……さっき酒飲んだよな」

「あれは目覚めてもらうためのお酒じゃろ? じゃとしたらもっと他にあるじゃろう」

「あるじゃろうって……今はその葡萄酒しか無いぞ。それで最後だ。だが……そうだな。

旅を無事に終えてルーンの町に一度戻れば、多量の種類の最高酒が揃っている」

「なんじゃと? そのような楽園があるはずあるまい。お主、このアルバノ様を罠に

はめようというのじゃな」

「手甲を罠にはめてどうすんだよ!」

「むむっ。確かに手甲じゃった。待っておれ……ふうーーーーーん! だめじゃ、酒が足りぬて具現化できん。あーもっと酒があればなー、あー」

「……確か墓に備えた酒があったよな。とってくるか……」

「おお! 墓に酒を備えるとは気が利くではないか。今度は蓋を開けて墓に流し込んでくれ」

「それであんたが復活するのか?」

「するわけなかろう。気分の問題じゃ。今のアルバノ様を具現化するなら手甲に飲ませい。

さぁはよっ、はよー!」

「わかったよ。ちょいと急ぎで取ってくるから皆ここで待っててくれ……」


 俺はめんどくさいながらも、一度一人で墓まで戻り、族長の前に備えた酒を取りに戻るのだった。

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