第七百二十七話 外への出口 酒鬼魔族の疑問
墓参りを終えた俺とエンシュを出迎えてくれるパモとアメーダ。
ライラロさんとジュディは先を調べに向かってくれているようだ。
「軽食をご用意したのでございます」
「ありがとう。首が真横に向いててちょっと怖いぞアメーダ」
「王女がご機嫌斜めのようでございますね。無理もないのでございます。
連日洞穴ばかりでございましたから、水浴びでもしたいのでございましょう」
「確かに穴倉ばかりだと気分が滅入るな……早く外の空気が吸いたいものだ」
「先生、プリマと少し話がしたいんですが……」
「ああ、わかった……ダメだ、寝てるっぽい」
「そうですか……ちゃんと謝りたくて」
「この先進むほど死霊族の力が弱まるのでございます。
アメーダも王女の体で無ければ行動できないのでございます」
「なるべく安全に行くつもりだが、現地点から仮に抜けられたとして、目標となる
花の地点まではどのくらいかかるんだ?」
「そうでございますね。半日もあれば辿り着ける場所でございます。
タターリアンという町があるのでございます。そちらへ向かうのでございます」
「タターリアン? 聞いた事ない町だな」
「強力な結界により完全封鎖された場所でございますから。そうでもしないとあっという間に
攻め滅ぼされてしまう町でございます」
「つまり隠れ里のような場所か……わかった」
暫くするとジュディとライラロさんが戻って来る。
様子を見るに、露払いは済ませてきたといった感じか。
「この先が出口で間違いないわね。というより出口にしてきたわ」
「……随分とでかい岩があったんだが、木っ端微塵に砕いてきた。
崩れるかもしれないからやめろといったんだがな」
「爆発させた!? おいおい、平気なのか?」
「ああ。その手の調整に関してはうまいようだ。だがあまり後先を考えてないというか、強行が
好きみたいだな」
目を離すとどこで危険な事をしでかすかわかったもんじゃない。
やっぱりこの人は野放しにできない……。
「ひとまず出れそうならいいけど、気を付けてくださいよライラロさん。
それじゃ出口へ行こう。ここがどのあたりなのかは出たらわかるか?」
「あなた様のルーニー様頼みでございますね。ルーニー様に確認して欲しい物
があるのでございます」
「わかった」
酒鬼魔族の墓場を出て真っすぐ東へ。道中ヴァンピールが何匹も倒れていたが、これはジュディ
がうまく対処したのだろう。
素材もはぎ取られている。
暫く道伝いに歩くと、いかにも爆破しましたという穴が開いていた。
これ、出口じゃないだろ! どう見てもぶっ壊して作った穴だよ!
「なんかちょっと焦げ臭いですね……」
「それなりに硬い岩壁でございますのに、よく破壊できたのでございます」
「あ、ああ。俺も遠目に見てて冷や汗がでたよ」
「これくらい私にかかれば楽勝に決まってるじゃない。オホホホ」
「加減ミスってたら俺たち生き埋めだったんだよな……はぁ。変幻ルーニー!
それで、見つけて欲しい物ってのは?」
「伝説の竜、ギオ・マ・ヒルドの骨でございます」
「骨? そんな小さなもの見つけられるかな」
「いえ、とても大きい骨でございますから、直ぐに見つかるはずでございます」
「ルーニー、頼む。巨大な骨だそうだ」
「ホロロロー!」
上空羽ばたくルーニーは、空へと飛びあがり……そのまま降りてきた。あれ?
「どうした?」
「ホロロロー……」
「おいルイン。前見てみろ……ってここからだと見えづらいか」
洞穴をでたところは場所が悪かったのか背の高い草原で、前方が見えづらい。
ここは神風橋周辺より気温は少し高くなっているようで、寒さは和らいでいる。
「前方……だめだ、草が邪魔でよく見えない」
「その鳥がすぐ降りてきたのは、もうすぐ近くだからってことなんじゃないのか。
かなり遠目だが、骨らしき白い物が見える」
「なんだ、それならここにある草全部燃やしてしまえばいいじゃない」
『やめろ!』
「何で口をそろえて言うのよ! じゃあどうするの? これじゃ進めないわよ」
「草なら刈り取ればいいだろう? 燃やしたら大惨事になるかもしれないし、周囲に誰かいたら
大変だろ!」
「そしたら直ぐに私の幻術で消せばいいでしょ?」
「選択するなら風臥斗とかじゃないのか? それでも危険には違いないし。
いっそ跳躍して安全か確かめるか」
「それはおすすめできないな。人型が上空を跳ねてたら、それこそ目立つだろう。
妙な奴に目をつけられても困る」
「先生。俺が切って進んでもいいですか?」
「やっぱ地道にいくならそれか。俺もやろう」
「いえ、先ほどの装備と併せて修業をしたいんです」
「そうか……道さえできればコウテイたちで一気に進めるから、そうしてもらうか。
誰かいたら直ぐ引き返すんだぞ?」
「はい! その、プリマが起きたら教えてください」
「わかった。それじゃ少し休むか」
「俺も少し寝させてもらうぜ。少々草臥れたからな」
正面の高い草を刈り終えるまで、少し待つことにした。
休むと言ってもただボーっとするわけじゃなく、エンシュの動きを見る。
先ほど入手した族長の手甲と肩甲をはめ、刀の柄につけるような投擲武器を装着。
更に地面に設置する、石のような色をした投擲物兼罠を腰に巻く。
それだけで随分と剣士として様になった。
待ち一辺倒ならばあれくらい装備していないと一対一以外では厳しい。
あの武装なら、待ちでの戦闘も優位になっていくだろう。
後は斬撃を飛ばせればだいいのだが……。
「なぁライラロさん。酒鬼魔族ってのには詳しくないか?」
「あんまりよくは知らないわね。でも酒を飲めば強くなる魔族じゃないかしら。
あんた、酒持ってったわよね」
「あれはエンシュが飲むにはまだ早いだろう」
「それもそうね。それじゃあの子が酒を飲める年齢になるまで、面倒見てあげるつもり?」
「この世界だと酒っていつから飲めるんだ?」
「さぁ。何歳なんて関係ないんじゃないかしらね。飲んで酔っ払いが酷いようなら何歳でも
ダメな気がするわ」
「それはごもっともだ……ミリルは酒を飲むべきじゃないと思ったしな……」
「逆にあんたやベルディスなら、何歳から飲んでも平気でしょ。ちっとも酔っぱらわないんだから」
「しかしなぁ……子供のうちから酒を飲むのはよくないし……」
「飲むんじゃなくて使うのかもしれないわね、お酒を」
「酒を……使う?」
そうか、その発想はなかったな。酒を使うか……ちょっと試してみる価値はありそうだ。
「パモ。まだ酒あったよな。もう一本出してもらえるか?」
「ぱみゅ?」
「飲むのかって? いや、ちょっと使ってみるんだ。どうも気になる事があって」
そう、俺はずっと気になっている事があった。
墓場でもそうだが、ほぼ全員同じ刀が刺さっていた。
この刀には何かあるのだろうと。
「エンシュ。ちょっとだけいいか。その刀なんだが」
「はい? この刀ですか? 俺たち酒鬼魔族が七歳になると与えられるものです。
俺は母さんからもらいましたけど、二代前から引き継ぐのが風習だそうです」
「つまり出どころ不明の刀か。ちょっとこの瓶に刀を浸してみてくれ」




