第七百二十二話 九弦の洞穴、進行
事情を説明し、顔合わせまで済ませると、ライラロさんはテントで寝ているプリマの存在に気付く。
俺と感想は同じようで、やっぱりメルザに似ていると感じたようだ。
「ふうん。それじゃ目的は花を届けるだけなのね。さっさと済ませましょう。
その後は町とかも巡るんでしょ? お土産は必要だものね」
「そこまではまだ考えていないが、なるべく穏便に行きたい。東側は
シフティス大陸での紛争地だと聞く。なるべくなら関わりあいたくないんだ」
「それはそうね。でも美味しい食材のもととかあるかもでしょ? あんた、バカ弟子が
起きたら美味しい物でも振舞いたいんじゃないかしら? 見え見えよ」
「いや、俺よりももっと料理上手な奴がそこに……」
満面の笑みでライラロを見る女性がいる。
アメーダだ。俺と違ってライラロさんは直視しているようだ。
ミレーユ王女だと気付くだろうが、ライラロさんは特に繋がりも無かったように思えるが……。
「お初にお目にかかるのでございます。ライラロ様。
奉仕に関してはアメーダに全てお任せして欲しいのでございます」
「……ちょっと何かしら、この何でも出来てしまいそうな女は。
一緒にいると私が何も出来ない女に見られそうで怖いわね……」
「ぶっちゃけ何も出来ないんじゃないか、ライラロさんは……」
「はぁ? 何言ってるのよ。料理くらい私にだってできるわ! 掃除も
洗濯……はちょっと苦手だけど、一通りできるわよ!」
「でもライラロさんはアースガルズの酒場で仕事してなかったよな……」
「それはあれよ。私には別にやることがあったから。決して出来ないからじゃないわ!」
「なんか元気な方ですね。少しお母さんを思い出すな……」
「誰がお母さんよ! 私にはまだ子供はいないわ! まだね!」
エンシュがぽつりとつぶやくと、途端に物凄い不機嫌になるライラロさん。
この人がいるだけで、場が騒がしくなり隠密行動などは出来なくなる。
「……さて、ライラロさんの話はおいといて、まずはこの洞穴を
踏破出来るか確認したい。妖氷雪造形術……コウテイ、アデリー、フンボルト、マカロニ。
お前たちは各方面に散らばり、洞穴を探ってきてくれ。墓地らしい場所があれば
その位置もだ」
「ウェーイ!」
「ウォイ!」
ペンギンたちは一斉に走り出すと、あっという間に見えなくなった。
エンシュでは先に進めなかったという話だし、強力なモンスターがいるだろうが、あいつらは
動きが早い。そうそうやられたりはしない。
「朝食が済んだら支度を。あれ? プリマはまだ寝ているのか?」
「どうやら起きられないようでございます。この地の影響でございますね」
「やっぱり、取り憑かれてないとダメかな……行ってくる」
プリマを起こしにいくと、ゆっくりと起き上がり伸びをして目をこする。
だるそうに力無くしているが、はっきりと起きてはいるようだ。
「大丈夫か? まだこれから先道は長いぞ」
「うん、わかってる。でもついてくって決めたからプリマもいくぞ。
……ちゃんと言う事聞くから取り憑いてもいいか?」
「ああ。ちゃんと……だぞ? 簡単な挑発には乗るな。お前たち死霊族の力は凄まじい。
だからこそこの地できっと制限されてるんだろう。
どうしても暴れたいときは、俺がお前を止められる時だけ許可する。
それ以外は寝てても構わない」
「ルインが危ない時は、無許可でも戦っていいか?」
「そんな状況にならないよう気を付けるが、助けてくれるなら礼はするよ」
助けようとしてるのに、逆に心配されてるようじゃ、頼りないんだろうな。
少なくともプリマやアメーダは、制限が無ければ俺より断然強いだろう。
こいつらと肩を並べるくらい強くなって戻らないと……この先戦ってはいけないかもしれない。
「原初の幻魔の真の強さ……神にも等しい力は今の俺に想像もつかないな……」
「ルイン先生?」
「何でもない。エンシュの村の招集に間に合うよう行動しないとだな。
そろそろアデリーあたりが戻って来てもおかしくないが……」
「ウェィ!」
「噂をすれば何とやらだ。どうだった?」
アデリーがテント前で、足を使って地面に線を引いていく。
こんな知的な事も覚えたのか。凄いぞアデリー!
それはマップとなっており、無数の分かれ道がある事を示していた。
「書き留めよう。コウテイたちが戻ってくれば洞穴の地図が完成しそうだ」
一番早く戻ったアデリーだけ戻すと、残りの三匹を待ち、洞穴の
地図を作ってから探索へ向かう事にした。
――――まずは酒鬼魔族の墓地であろう場所を目指してテントを後にした。




