間話 ルーンの町は大忙し
ジャンカ村入り口付近。ここは街道が敷設され、カッツェルの町までの道が切り開かれている。
今では作物も実り、名物【スッパム】も好評で、国交を開いた町とは取引もされている。
現在更なる国交を開くべく、ロッドの町、アースガルズ国、デイスペルへと使者を派遣している。
取引として難しいのはロキが居座ったキゾナ大陸及びその北上した部分にあるドラディニア大陸、バルバロッサの町。キゾナには侵入禁止の指令が出されている。
「ムーラの旦那! こっちの材料がそろそろ無くなりそうだ! 手配を頼みやすぜ!」
「ああわかった。ルジリト殿のことだ。もうとっくに手配はしているだろうが、確認をとって……」
「お待たせ。そろそろ材料が足りなくなるだろうからって運ぶように言われた資材だよ!
数を確認してね」
「おや、これは……どなたでしたかな」
「ビスタです! いい加減覚えてください!」
「ああ、確かベルドさんのご兄弟の……これはどうも。助かりました」
「ベルド兄が旅立ってから、全然連絡もないし心配はしてるんだけどね。兄弟全員何もせず飯を
食べてるわけにもいかないから。他にやることはある?」
「こちらは大丈夫です。ジャンカの村は亜人が多い故、あなたのような亜人種族が手伝ってくれて
本当に助かる。皆人族に襲われてからというもの、少々恐れていましてな」
「無理も無いよ。兄貴動揺オーガの血を引く兄弟たちは皆、力はあるからさ。遠慮せず言ってよね」
「ああ、ありがとう。一層住みやすい村へと変わっていくだろうな……」
一方、アースガルズ方面へは道を敷設しつつモンスター排除を試みる四幻のうち二幻が指揮を執り、アースガルズへの安全な道を確立中。
白丕とサーシュ。特に神話級アーティファクトを与えられたサーシュは、既にラーヴァティンを
かなり使いこなすまでに成長していた。
主より賜った武器を誇らしげに掲げ、モンスターをなぎ倒していく姿を見て、白丕は嫉妬気味。
「お前だけずるいぞ。私なんてまだ何も頂いていないというのに」
「我が魂は主とともアリ。白丕の魂ここにアリ」
「訳わからないこといってないでさっさと済ますぞ! 道が進まない!」
「無理難題ここにアリ。あいつらは強い。時間経過は仕方ない。時の流れ、ここにアリ」
「はぁ……やっぱお前とじゃなくてリュシアンとの方がよかった……」
ぼやきながらも敷設部隊を率いて廃鉱山を攻略していく二人。
デイスペル国にはセーレとウォーラス、ジェネストが向かった。
こちらでは再び闘技大会が開催されており、使者をするには闘技大会で優勝した方が早いという結論になる。
セーレは参加が難しいので、ウォーラスとジェネストが参加することとなった。
「我々は使者にきたはずですが……仕方ありませんね。優勝するとそれなりの物がもらえるようです。
いい手土産になるかもしれませんね」
「主にあげるカベ。それにもうじき大主が戻ってくるカベ? 何かお祝いの品をあげたいカベ」
「ウォーラスは本当にまじめだよね! まじめだよねー! まじめだよねーーー! 僕なんて別に何も
あげなくてもさ。運んであげるだけで大喜びだけどね! 知ってる? 凄い嬉しそうな顔するんだよ?
可愛いよね。可愛いよねーー!」
「うるさいカベ……」
「本当にセーレは騒がしいですね。前はヒヒンしか言わなくて可愛げがあったといいます。
いっそ切り裂いて喋れなくさせた方がよろしいですか?」
「怖いよ! ジェネストは怖い! 怖いのは嫌いだよー! 主、助けてーー!」
――――お腹が大きくなったファナたちは、出産を控えつつも四人共歩いたりして体を動かしていた。
もう出産までは数える程。だが大人しくはしていられないようだった。
というのも……「ねえ。メルザが戻ってきたらどの料理がいいかな?」
「うーん。主ちゃんは何でもおいしく食べるっしょ。あ! でも肉が好きかも。あの子、カエル肉に
かぶりついてたんでしょ?」
「そ、そうね。確かにそうだったかも。プヨプヨしてて美味しいんだとか……けろりんだったかな?」
「あはは、何それー。そんなのより旦那のアップルパイの方がいいんじゃない? 私も食べたいし」
「えぇー? 甘い物の話今するぅー? ニニーちゃん絶賛我慢中なのにぃ! アイドルは太っちゃいけない
から今食べれないの!」
「そのお腹でよくいうわね……でもメルザに会えるの、本当に嬉しい。ずっと寂しかったから……」
「もー、ファナはそうやってすぐ暗くするっしょ。メルちゃん、絶対笑顔で戻ってくるから、私たちも
笑顔で、ね?」
「ベルディアは本当明るいわよね。たまに羨ましくなるわぁ。あんたの思い切りのよさが」
「サラだって思い切りはいいっしょ? 大胆助平だけど」
「だれが大胆助平よ! ああでもしないとちっとも触らないでしょ! 旦那は!」
「キャハハハー! 言えてるそれ。私も今度やろっと」
『あんたはやらんでよろしい!』
――――ベッツェンまで来ているイーファ、ドーグル、エプタ。
この場所はまだ残骸が多く残っているが、ドーグルが超能力を使用して残骸を片している。
エプタは付近の偵察とモンスターを始末している。
そしてイーファは、墓を立て、花を供えていた。
「不甲斐ない王であったこと、許して欲しい。
多くの失った同胞。町人よ。私にもっと力があれば、お前たちは死なずに済んだであろう。
それらの命を背負い、私は生きていく。今度こそ、誰にも負けず、守り通して見せる。
このトリノポートの地を。皆とともに」
「祈りは済んだか? やっぱりこのベッツェンて土地がこの大陸じゃ一番危険な場所だな」
「だからこそ先祖は城を海底に築いた。私の代でそれを潰す事になるとは思わなかったよ……」
「嘆いても仕方ねえだろ。それにお前はスライムになって幽閉されてたんだろ?
だったらお前が悪いわけじゃねえだろうが」
「それでも……国を背負うという事には、責任が伴う。もっと大臣を疑うべきだった。
もっと広く、世界を見ておくべきだった。そしてもっと……強くあるべきだった。
彼のようにもっと、他者へ関心を寄せ、多くの者と行動してみたかった。
全て……私の責任だ」
「だー、もう。うだうだとうざってえな! すっきりするためにここへ来たんだろ? だったら
いっちょやろうじゃねえか。久しぶりにかかってきな!」
「ふふっ。エプタよ。お前も随分と変わったな。まさか私が励まされるとは。いいだろう、いくぞ!」
無きベッツェンを背に、束縛された念を断ち切る様に、エプタと斬り結ぶイーファ。
その眼からは涙を流しつつも、顔には少しばかりの笑顔が浮かんでいた。
……そして、皆がそしている間に。
ある場所で事は起こっていた。




