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第七百十七話 石碑を継ぐもの


「そうか……この地形、反射して同じ岩に見えるが、視界に見えるのは反射して映った他の岩か」

「その通りです。いい目を持ってるんですね……これも無機人族を知らない俺の無知のせいか……」


 エンシュの指示した箇所へ突進すると、確かにそのまま透過して先へ進めた。

 内部は黒い地面の道のままで、ヴァンピールの下位種が数匹いる。

 それらを薙ぎ払い先に進むと、少し開けた場所に出る。

 そこから右手に曲がり、登り坂を進むと……大きな石碑と広い空間の場所へ出た。

 ここで俺の行使した術も限界。コウテイたちに礼を言って別れを告げる。


「ここがお話していた九弦の洞穴入り口です。石碑の下に洞穴へ入る道があります」

「修業場所ってことはモンスターもいるってことか」

「ええ。先に進めば進むほど強力なモンスターがいます」

「あなた様……この方角ならもしかすると……洞穴というのはここから東方面へ繋がっているので

ございますか?」

「どうでしょう。俺の実力だと入り口で戦うのが精々で……」

「行ってみる価値はあるかもしれないのでございます。もしかしたら神兵に絡まれず、目的地へ

行けるかもしれないのでございます」

「その前に……ジュディ、限界だろ。お前のその神風を見る目……相当疲弊するようだな」


 コウテイに乗って前を進んでいたジュディは、既にコウテイへ寄りかかっているのが限界だった。

 急いでコウテイに駆け寄ると、ジュディを抱えて降ろす。


「ひとまず洞穴の中へ。アメーダはプリマを頼めるか」

「それなら俺がやります!」

「やめておけ。殴られるぞ。さっきも言っただろ? プライドが高いんだよ、プリマは。

そう簡単に許してはくれないだろうが、めげずに頑張るんだ」

「はい……」


 さて、九弦の洞穴とやらの中は……石碑の下と言っていたが、この巨大な石碑は何の石碑だ? 

 見た事が無い文字が刻まれている。

 入り口は見当たらないから、エンシュじゃないと開けないのだろうか。

 他の神兵は来ないと言っていたな……。


「ここは母さんの先祖を祭ってある場所なんです。

強い魔族でしたが、絶滅しました。

母さんの墓もこの中にあるんです」

「つまりエンシュの母の種族は、エンシュ以外もういないのか……」

「はい。でも寂しくはありません。強くなることが全てですから」

「……強さが全て……ね。今はそれでもいいか。それで、どうやって入るんだ?」


 エンシュは持っている太刀を石碑の窪みにはめると、石碑が上にスムーズに

動き、中へ入れるようになった。


「どうぞ。直ぐにしまりますから」


 エンシュに案内され、ジュディを担いだまま石碑の奥へと進んでいった。

 全員が入り終わるとエンシュは石碑がしまったことを確認する。

 内部は点々と明かりが灯っており、開けた空間となっている。

 入り口……といっていいかはわからないが、その空間には大きなテントが張ってあり、外には

火をたく場所もある。

 洞穴で火を焚いて平気か? と思ったが、奥の方の風通しはいいようで、風を感じられる。


「妙に生活環があるな」

「俺はここで暮らしてますから」

「一人でか?」

「はい。両親はどちらも死にました。村長からは月に一度招集があるので、それまではあちこちで

修業しています」

「神兵の村か。あの橋を管理しているのもエンシュの仲間なのか?」

「いいえ。あの橋はそもそも管理なんてされてません。

時期が良ければ偵察も必要ないんです。ただ……」

「神風が強いモンスターを呼び込む……でございますね」

「その通りです。だからこそ、月に一度招集がかかるんです。

戦士は少しずつ少なくなってます。このままだと、神兵の村も無くなります。

だから強くなりたいんです! 俺は村を守りたい!」


 エンシュの目的はなんとなくわかった。

 村に思い入れがあるんだな。

 父も母も無く一人修業にうちこむ毎日か……。

 なんだか、懐かしい。俺も必死だった。

 だが俺には守りたいと思うものは村や町の大勢の人なんて立派なものじゃない。

 メルザたった一人守れればそれでいい。 

 最初はそう考えていた。

 だがカカシやファナ、ニーメ、シュウやベルド、ベルディア、ミリル……皆思い思いに

違う目的で行動するやつらと知り合い、メルザだけを守ればいいという考えは変わっていった。


 守りたいものが増えた。失って恐れるものも増えた。

 だが、だからこそ……強くなったんだ。


「エンシュ。お前が守りたいものは何だ?」

「俺が……守りたいものですか? 俺は村を、この場所を守りたくて……」

「それはお前一人で守れる程、容易い場所なのか?」

「……だからもっと力を」

「どれほど強大な力をもってしても、守りきれない事はある。

圧倒的な物量の前に、自身だけの力はあまりにも無力だ。

そしてそれは、俺もそうだった。今でも自分が何人もいれば、あちこち駆けずり回っているだろう。

だが、俺は託す事にした。だから今、ここにいるんだ」

「ルイン先生。俺にはよくわかりません。それこそ絶対神のような強さがあれば、この村一つくらい

簡単に守れるでしょう?」

「……お前、全然わかってないな。絶対神なんてでくの坊だぞ。プリマの方が数倍強いに決まってる」

「あらあら。プリマ様、それは言い過ぎでございますよ。ですがあながち間違ってもいないのでございます」

「どういう……ことだ?」

「……立ち話もなんだろう。皆今日はここで休もう。エンシュ、テントは使えるのか? 

もし使えるなら借りたいんだが。ここの天井では神の空間が使えない」

「ええ。勿論です。そのためにここへお連れしたんです。ちゃんと非常食だってありますから」

「食事の心配はしなくてもいい。むしろ手を出すとアメーダの機嫌を損ねそうだからな……」


 エンシュとはもっと話しておく必要がある。

 ……いや、俺がそうしたいだけなのかもしれない。

 もっと早くから仲間を頼れれば……そんな後悔が俺にあるからこそ

エンシュを導いてやりたいのかな。

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