第七百十四話 神風橋 後編一 謎の青年との戦闘
本日は引っ越しのため予約投稿となります。
ちょっと長めの二話となります。
明日もちゃんと投稿いたします!
「おかしな喋り方をするやつだな。通してやるといったのに、ここでむざむざと殺されたいのか?」
「そういうわけじゃないんだが、お前が煽ったせいでご立腹みたいなんだよな。少し相手をしてくれればいいから」
「ふざけてるのか? そんな大ぶりの鎌を二本持って、まともに戦えもしないだろう。
戦闘の基本も知らないお前が、俺に挑むなんて身の程知らずにも程がある」
「いいたいことはわかるが、俺の武器じゃないんだよなぁ、これ。まぁいいや。サポートはするから
頑張って戦えよプリマ」
青年は姿勢を少し低くしこちらをにらみつける。出していた剣を鞘に納めると、深くため息をついた。
「お前はさっきから何を言ってる? 頭がおかしいのか、こいつは……神無明の太刀、壱……踏みの御剣!」
俺と青年の距離は歩幅にして三十歩以上離れる位置だった。
しかし眼前にもう切っ先がある。大した居合抜きだが……ただの挑発かけん制だ。
俺の鼻先を掠めるでもなく空を切る。
そしてそのまま元々立っていた位置まで戻っている。
「どうした。なぜ踏み込んで斬ってこない」
「踏み込んでいたら斬られていたのは俺だ。とぼけた顔しやがって」
どうやらプリマの殺気に押されたらしい。
俺はプリマの実力を全く知らない。知っているのはラング族とアルカイオス幻魔のハーフで、死霊族で
あるということ。歪術という超特殊な術を行使する強者ということだけだ。
後は少しメルザに雰囲気が似ているってことくらいだ。
死霊族の力が失われつつあるってことは、ラング族としての力で相手を押したのか。
「歪が発生しないと鎌じゃ戦い辛い」
俺は鎌を空中に放り投げると、鎌は上空でくるくると回転していき……ナックル形状の
持ち手がついた、ノコギリクワガタを逆さに持ったような形と切り替わる。
虫が苦手だった俺は想像して背筋に鳥肌が走った。
「うわぁーーー!」
「今度は何だ。何なんだこいつは!? ……武器の形状を変えた? どんな能力者だ」
どうやら相手に十分な警戒心を与えてしまったようだ。
しかし今叫んだのは俺ではない。プリマの方だ。
「背中がゾクゾクするってあんな感じなのか。初めてだったけどお前が想像したのは、なんか強そうだったな。思いついた。あれでいこう!」
プリマがそう呟くと、持っていた逆ノコギリクワガタの形状がさらに少し変化する。
より開いた形となり、横をすれ違うだけで相手へ強力な攻撃を与えられるだろう。
例えばだが、この逆ノコギリクワガタ形状……平坦な普通の道で戦闘になった時に使えるか? というと
使えない……が答えだ。
なぜなら上から振りかぶって攻撃してきたり、飛んできた攻撃に対応するのが難しいからだ。
中央で受け止めれば拳で受け止める事になる。真っ二つは免れないだろう。だが……この神風橋は
上空へ飛ぶこともできないし、剣を高く上へ掲げた攻撃も、神風の影響を受けかねないので行いにくい。
そうなると左右での振り回しの戦いとなるのだが……この形状はそれに持ってこいだ。
俺は広い橋の上を左右に振りながら走る。
相手は剣を鞘に納めたまま、こちらの様子をじっと伺っている。
「術を使っちゃいけないとはいってないし……パモ……」
「ぱみゅ!」
パモが小声で頷くと、燃斗が青年に向かって飛んでいく。
いきなり幻術を撃ち込まれたので少し怯んだが、冷静にこちらの様子を伺い続けている。
「プリマをばかにしたお前を許さない! ラングの速さを知れぇー!」
予想だにしていなかった。
俺はバネジャンプなど使用していない。
にもかかわらず地面すれすれの位置で浮いたまま相手へ向け跳躍して突っ込んでいく。
跳空術とでもいうべきだろうか。
だが相手も冷静にこちらの動きをずっと見ていただけのことはある。
見切れる速度とは思えないが、こちらへ居合を行い……ギィン! という激しいぶつかる音と
ともに、こちらの逆ノコ武器を受け止め切った。
勢いで後方へ思い切り押し出される。
「防いだ! 俺の勝ちだ! 居合……」
「お前の負けだ。動くな」
「……なっ。二人目?」
「怒ってたのはあっち。犠牲になったのはこっちな……プリマ! 殺すなよ」
「プリマをバカにしたのに、何でダメなんだ!」
「殺したら飯抜き」
「……どうしてダメなんだ。こいつが先にプリマをバカにしたんだぞ」
「バカにされたくらいで他者を殺すな。俺はお前が誰かを簡単に殺したりしたら嫌いになる」
「……簡単になんかじゃない。死霊族を、バカにしたんだぞ! 怒って当然だろう!」
「そいつが何回バカにしようが、俺が何百何千回でも死霊族をほめちぎってやる。
言いたいだけの無能には言わせておけばいいんだよ。そいつはプリマを侮って、負けたんだからな」
「……恥をかくくらいなら、殺せ」
俺の血の気がさーっと引いた。
気づいたら思い切りそいつをぶん殴っていた。
「自分勝手のガキが。お前が死んでこいつをバカにしたことが解決するとなんて
思うんじゃねえ! 詫びの一つも出来ないことが、お前の弱さそのものだろうが!」
「あ……」
プリマは驚いていた。ただの優しい男が自分のために激怒してくれたことに。
さっきまで晴れなかった気持ちが、すっきりしたような気持ちへと変わる。
殴られた青年はルインを睨みつけた後、地面を見る。
「一対一なら、負けなかった」
「はっきり言ってやろう。ここから先にいるやつはいざ知らず、お前じゃ俺には指一本触れられん。
抜刀術のなんたるかを知らん子供には特にな」
「お前は抜刀術を知っているってのか。なんでだ」
「詫びもしないやつにこれ以上話す事などない。いくぞ、アメーダ、プリマ、ジュディ」
「待ってくれ! ……俺が、悪かった。別に死霊族をバカにしようとしたとかじゃないんだ。
だが、強い死霊族、無期人族なんてみたことがない。だから……」
「だから下位種族として見下したのか。それは差別って言うんだよ。お前は神兵だろう?」
「差別? 俺は神兵だけど、純粋な神兵じゃない。神兵と魔族の間に出来た半端者だ」
「つまりだ、お前が神兵と魔族の間に生まれた子供として、見下されたり笑われたりしたら
お前は嫌じゃないのか。怒らないのか?」
「それは……そんな事、されたこと無いから考えてもみなかった」
「なら今後は考える事だ。それじゃな。通っても良かったんだろ。
もう俺たちに関わるな」
「待て……待ってくれ。本当にすまなかった。だから今度は……あんたが一対一で相手してくれよ。
頼む。あんた、強いんだろ?」
「……いいだろう。三人共、十秒だけくれるか」
「十秒? さすがにそれは無いだろう!」
俺はプリマ、アメーダ、ジュディに合図を出し、少し下がらせた。
ティソーナ、コラーダを出すと、その青年と先ほどと大して変わらない距離へ位置づける。
「まだ名前を聞いてなかったな。俺はルイン。妖魔のルインだ」
「妖魔!? 地上に妖魔……あんたはこの中で一番の強者だろう。遠慮はしない。
俺は神兵アクトと酒鬼魔族ルチアの子、エンシュだ」
ティソーナを前方へ掲げ、コラーダを肩に担ぐ形で二剣を構える。
相手は抜刀術の構え。
こちらを食い入るようにみている。
「戦いにおいて最も重要な事は何だか知ってるか?」
「相手から目を離さないことだ」
「違う。多様性とだまし討ち。相手の出来ないことをすることだよ。
【真化】【神魔解放】レピュトの手甲……ブラックザップ!」
俺は二刀の構えを崩さず第三の手を発動。
その手にブラックザップを持ち、射撃をしながら二刀で赤閃を放つ。
「う、うわあああああああああああーーーーーーー!」
「安心しろ、峰うちだ」
柄の部分を深々と青年……エンシュへと突き立てる。
こちらの放った氷弾を抜刀で防ぐので精いっぱいだったようだ。
抜刀術……それは明らかな手数不足が弱点。
左右にしか展開できない場面では、その武器だけで対処は難しい。
「抜刀術自体は悪くない。持つなら暗器。見せるならさらに奥の手を……だ」