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第七百十二話 神風橋、前編

 小屋を出て暫く歩くと、景色が徐々に変わっていく。

 これまでは雪道や氷道が続く場所だったのだが……徐々に雪道は

なくなり、氷のみの道となっていく。


 何より凍てつくような風が吹き始めていた。

 ジュディにこの辺りの環境について聞いてみる。


「過酷な場所だな。これでは人族じゃ住めないだろう? 生息しているのは

魔族だけなのか?」

「いや、神兵……元人間の魂を持つ者たちが橋の先で集落を持つ。

好戦的で気に入らなければ容赦なく襲って来るやつらだ」

「神兵か……たびたび耳にはするが、人の魂を持つってことは意思疎通ができるってことだろ?」

「どうかな。外見は人と変わらないが、他種族を見下している傾向がみられる。

俺たち無機人族なんかは典型的な例だな。だから橋の先には基本的に行くことはない」

「それなのに俺たちへついて来てくれるのか……」

「ミレーユ王女様は国が無くなった後でも、俺たちに気をかけて下さった方。

恩義を帰すまでの事だ」


 国が無くなっても……か。厚い忠義だ。

 確かにパトモスは国としての面影がない。

 いつ頃無くなったのか、どうして消滅したのかなど気になる事は多い。

 しかし触れるべきではない。何せ俺の横にはアデリーに乗る王女がいるからだ。

 

 凍てつく風に吹かれながらも、俺たちは神風橋付近まで辿り着いた。

 この場所から見える景色……それは圧巻の一言だった。



「こんな峡谷の橋、見たことない。どうやって建造したのかも想像つかない。

なんてスケールの橋だ……」



 そこは標高数キロメートルはあるだろう場所。谷底は見えず、橋の先も

見えない。

 幅も数百メートルはあるであろう巨大な金属の橋。ちゃんと左右に落ちないようにガードもついている。

 圧倒的なスケールにも関わらず、周囲には俺たち以外誰一人見当たらない。


「これが神風橋。地上にいてもわかるだろうが、ずっと神風が走っている。

上空はこの程度の風じゃ済まない。橋の上で飛び跳ねたりしないことだ。

神ですらその風に刻まれつくすというほどの場所だからな」

「この地でいくつか気になってた事がある。その一つに、鉱山奥の泉で地上に

出るための穴があっただろ? あの時風に押し出されて空を飛ぶことになったんだが、あれも

こういった風の影響なのか?」

「あなた様、仰る通りでございます。この神風も似た仕様でございます。ある鉱石の影響を

強く受けて発生するのだと聞いた事があるのでございます」

「ある鉱石の影響か……その功績があれば、アルカーンさんやライラロさんなら面白いものを作りそうだな」

「それはご当人たちに任せる方がいいのでございます。さぁ進みましょう」


 橋の上を見ると、どうやら道は凍ってはいないようだ。

 ガードする部分が風を遮ってくれているのもあるのかな。

 この橋の金属……これも普通の金属じゃない。

 ここしか渡れないのは、この素材をこれだけ用意できないってのが大きいのかもしれない。


 試しにコンコンと叩いてみたり、傷を確認してみたりしたが、傷一つついておらず

音もただの金属音ではない。


「……やっぱゲンドールの世界は不思議な鉱物が沢山あるんだろうな……」

「こいつが何の素材で出来てるかは俺も知らん。この橋の長さだけは知っている。

急いで進まないと日が暮れるぞ」

「……そんなに長いのか? そうするとコウテイたちで進むのは無理か。

いけるところまで走ってくれ」

「ウェーイ!」


 コウテイたちに乗って、行けるところまで進む。

 橋のガード部分は俺たちの身長より随分と高い。

 そのため景色は神風橋の黒い金属景色がずっと続いている。

 今のところは何もなく、とても安全に思えるのだが、この橋はそんなに危険な

橋なのだろうか。


 だがどう見てもジュディは警戒しているし、アメーダも周囲の様子を

伺っている。

 まったく気にしていないのは俺とプリマだけだ。

 

「神風が来る! 左右に分かれて避けろ!」


 突如ジュディの叫びを聞いて、咄嗟に右側へ避けた。

 すると、ギィン! という高い音が鳴り響き、何かがそのまま直進して抜けるような

音が鳴り響いた。


「今のは……風?」

「ああ。神風だ。定期的に正面或いは背後から飛んでくる。

食らったらただじゃ済まない。橋でなければ横からも来る」

「よく気付いたな」

「俺には可視化して風の動きが見える。普通の目じゃこうはいかないだろう」


 無機人族ってのは見え方も違うのか。

 そういえば人や魔族ってのは目がそんなによくないんだったな。

 鳥が最高の視力を持つとして……彼らもそれに準ずるような能力を持っているのだろうか。


 暫くジュディの合図を受けながら神風を避け進んでいくと、円形の場所へ出た。

 中央には巨大な柱があり、この位置であればすべての神風を防げる場所だ。


「休憩するにはちょうどいいが……狙い撃ちしやすい場所っていえば否定できないな。

待ち伏せするならここって言ってるようなものだ」

「その通り。通称闇討ち柱。命を落としたものは数知れずいるだろう。

下に落としてしまえば粉微塵。何も残るものは無い」

「あなた様、ここから先アメーダとプリマ様の死霊族としての力はかなり落ちるのでございます」

「わかった。俺たちを襲って来るとしたら、さっき言ってた神兵ってやつらか?」

「そうとも限らないぜ。魔王種に目をつけられてるなら魔王種も来るだろう。

人族もまったくいないわけじゃない。ここから先は化け物じみたやつばかりの主戦場だ。

よほどの用事でもなきゃ好き好んでこの先に進む奴はいねーからな」

「今更引き返すつもりはない。休憩が済んだら先に進もう」

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