第七百九話 ブリザホールを抜けた先
ヴァンピールを駆逐し終えた俺たち。
アメーダはゴーレムとタックゴブリンの招来術を解くと、ギョブリンが
少し名残惜しそうにしていた。
「ギョギョ……」
「ありがとな。少しは滑れるようになったじゃないか。頑張って練習しろよ」
「ギョギョ!」
「ふふふ……ただの招来されたゴブリンにも優しいのでございますね」
「あいつは頑張れるゴブリンだったからな。途中パニクってたけど。ジュディは
やっぱ強いな。二剣で戦うスタイルだが、師匠とかいるのか?」
「一応これでもオズワルに剣を教わった事のある剣士だぜ。それを見込んで護衛を
依頼したんじゃないのか?」
「いや……よりによってオズワルの名前をここで聞くとはな……」
俺が打ち倒したとはとてもじゃないが言えない。
あいつは確かに……凄まじい強さだった。
だが本来のオズワルはもっと、純粋に剣士として強かったのかもしれない。
「それよりも、この先に小屋がある。今日はそこで休憩だ。
ここから先に神風橋がある。ただで通れるとは思わない事だ」
「ああ……一体どんな橋か気になるところだ。ルーニーを飛ばして偵察をしておいた方がいいな」
「いや、やめておけ。上空を飛ぶものは、それが何であれ確実に落とされる」
「そんな強いモンスターが飛んでるのか? それとも地上から?」
「神風でございますよ。あなた様」
「神風……?」
「文字通り、神の威を借る……風でございます。その風は神の如き力を宿し、全てを吹き飛ばし、切り
刻み、誰も通す事がないとされているのでございます。こればかりはたとえ神であっても
不可能であると聞き及んでいるのでございます」
「神でも通れない……つまりイネービュでもダメってことか」
「その通りでございます」
「イネービュなんか通れるわけないじゃん。ただのいたずら神だろ、あれ」
「プリマは本当、イネービュ嫌いだよな……」
「与太話はその辺にしておけ。もう見えてきただろ。あの小屋だ」
ジュディが指さす方向にあるのは確かに小屋だが、あれは馬小屋というものじゃなかろうか。
ブリザホールを抜けてから、雪の粒が大きく、あの小屋で過ごすには少々不安が残る。
「あの小屋で本当に平気なのか……」
「他に休憩場所はない。嫌ならブリザホール内でも構わねーけど、こっちの方が
まだ温かくできるぜ」
「……煙突が塞がってるだけで一応暖炉はあるのか」
「では、少し王女様のお力を借りて、小屋を綺麗にするのでございます」
「そんな事も出来るのか?」
アメーダは小屋の前まで進むと、詠唱を開始する。
すると、数百にも及ぶモンスターが招来され、一斉に動き出した。
「これが王女の挨拶で使用するモンスターの数々か……」
「指示は出したのでございます。少々お待ちになって欲しいのでございます。
あなた様とジュディ様は薪をお願いしたいのでございます」
「プリマは?」
「そうでございますね……プリマ様は氷を削りだしてきて欲しいのでございます」
「わかった。行ってくるぞ」
氷を削り出す? 何か料理にでも使うのだろうか。
疑問に思ったが、周囲にある木をジュディと斬りに行く。
こんな積雪地帯でも根付く木々なだけあって、かなりどっしりとしている。
一晩だけなら一本あれば十分だろう。
枝を落として中央から叩ききると、内部は十分乾燥していて、薪として問題なく使えそうだった。
「手慣れてるな」
「こういう作業は嫌いじゃないからな」
「お前の雰囲気……どうもただの魔族じゃない気がする。人間臭いというか何というか」
「気になるなら、後で話すよ。どうせ今日はここで足止めだ。時間はあるからな」
「それもそうだな。俺はずっとパトモスから離れた事が無い。旅の話、聞かせてくれるか」
ずっとあの場所で墓守をしていたのか。
娯楽も無いし食事だっていい物を食べてはいないだろう。
仲間はいるようだが、親しい間柄という感じじゃなかった。
英雄オズワルに剣を教わったのも、あのパトモスでなのだろうか。
互いに打ち解けやすい料理……あったかな。
そうだ、材料があるかアメーダに聞いてみるか。