第七百五話 氷雪の洞穴、王女、タックゴブリンを招来す
パトモスを後にして進み始める事一時間程経っただろうか。
地面は雪深くなってきたが、幸い多少の雪が降る程度の好天。
順調に進む事が出来た。
そして俺たちの眼前には――――「随分とでかい洞穴だな」
「ここがアスラモナス山脈最大の洞穴、ブリザホールの洞穴だ」
「どうやって作ったんだ、こんなでかい穴。人工的とは思えないぞ」
「かつて魔王の一柱が一撃で山脈に穴を開けたって伝説があるが、それかもしれないな」
「なんだ。超魔王ピンネウスの話か?」
「知ってるのか、プリマ!?」
「んーと、知ってるわけじゃないぞ。知り合いじゃないからな」
「そういうことじゃなくてだな……」
「超魔王ピンネウスは実在するものでございますが、この穴はピンネウスが
開けたものではないのでございます」
「なんだよ。プリマが間違ってるっていうのか?」
「いいえ。プリマ様が仰っていた、超魔王ピンネウスが開けた穴はここではございません。
別の場所でございます」
「それじゃ、ここは一体誰が?」
「ここはかつて……アルカイオス幻魔の始祖の者が開けた穴。
今ではブリザホールと呼ばれているのでございますね……」
「おいおい、先を急ごうぜ。ゆっくりしてると日が暮れちまう」
ジュディの言う通りだ。旅の途中気になった事は後ほど質問すればいい。
日が暮れる前にこの凍てつくようなエリアを突破しないと。
――――ブリザホール洞穴の直ぐ近くまで来ると、その大きさに呆れてしまう。
高さ三百メートル、幅数キロはある巨大穴だ。
これをアルカイオス幻魔が開けたとなると……その巨体はギルドーガ並みってことか?
想像してもわからない。これだけの穴なので、中の方はかなり明るい。
天井も壁も床も凍り付き、道はかなり滑りやすそうだ。
「歩行が困難でございますね。ですがここは魔に満ちた空間のようでございます。
王女の招来した乗り物にて移動が可能かもしれないのでございます」
「本当か? 雪道だと使えなかったのに」
「使えなかったわけではございません。消耗が激しいのでございますよ。
それに路面が凍っているこの場所の方が適しているようでございます。
そういった者を招来するのでございます」
「それは助かるが……コウテイやアデリーでもいいんだけどな……俺も頼れる
仲間をもう二名程連れて来たかったよ」
セーレやリュシアン。あいつらがいればとても助かるのだが……こちらの
事項より優先して欲しい事項が出来てしまい、俺の飛空部隊はもれなく総出で任務中だ。
増えすぎた仲間と暮らしていくにはどうしても、基盤となる収入源が必要なんでね。
「でも王女は喋れないんだろう? 詠唱はどうするんだ?」
「アメーダがいるではございませんか。それでは参るのでございます
……契約の命により汝らの意、我に従い喜を持って属せ。
汝の糧は我が魔の威光、汝が欲するは我が根源たる魔也。タックゴブリン招来」
「キッキー!」
「ギキ」
「ギキャーーーギギ!」
「ギョギョギョ?」
「へ? ゴブリン?」
そのゴブリンの足先を見ると……スケート靴のようなものを履いている。
招来されたゴブリンは全部で四匹。
それぞれの首には取ってつきの首輪がついている。
ここを握って操作でもしろと言わんばかりの首輪だ。
「これに乗ればいいのか? よいしょっと」
真っ先に乗り込んだのはプリマ。
プリマを乗せたゴブリンははしゃぎだした。
「ギッキー! ギッキー!」
「おお、面白いやつだな。ギッキー!」
「真似して遊んでる場合か!」
「時間が惜しい。俺も乗せてもらうぜ」
「ギキ」
「さぁあなた様も早く。アメーダはこちらに乗るのでございます」
「ギキャーーーギギ!」
「……わかったよ。まさかゴブリンに乗る日が来るとは思わなかった」
「ギョギョギョーーー!?」
「わわっ。暴れるなって。何で俺だけ……」
「ギョギョギョーーーー!」
俺を乗せたゴブリンは氷の壁向けて突進しだした。
おい、こいつまともに滑る事ができないだろ! 何でおれだけ……あ。
こいつだけ俺の直ぐ近くに招来された。これに乗れと言わんばかりに。
招来したのは王女だ。
「くそ。とことん嫌われてるな……お前、まずは落ち着け。膝をまげて
バランスをとれ」
「ギョギョ!?」
「そのギョギョってのどうにかならないのか! ……そうだ、ハの字でいけ、ハの字。
あれ? これはスキーか? 腰を低くして……ってゴブリンはそもそも
腰低いよな。ほら、前の奴らみろ! ……置いてくなー!」
他の三人は俺を置いて既に滑りだしている。
くそ、こうなったら……【真化】【獣戦車化】
「カタストロフィ! ぶっとべ!」
俺は片腕でとってを掴み、もう片方の腕からカタストロフィを放出して
一気に勢いをつけた。
「ギョギョギョーーーーーーーー!」
「行けギョブリン! お前は今日からタックギョブリンだ!」