第七百四話 無機人族のお見送り
「……話はあらかたわかった。まさか王女になり替わっていたとは。それにしても死霊族ってのは
話に聞いた事があるだけだったが、案外普通にみえるもんだな」
「それは肉体を構築できれば……の話でございますからね。アメーダの知る限りでも、肉体を構築した
死霊族はさほど多くはございません。ルーンの町にいる我らが同胞は、シカリー様を除き全ては非肉体構築の
ものでございますから」
「つまり、そっちの長耳の方はお前さんとは別の種族っていうことか?」
「我々より希少な種族ですが、同じ死霊族であることに変わりはございません。
先ほどもお話したのでございますが、ラング種は絶滅しているのでございます。
自由奔放な種族でございましたから、プリマ様の行動はラング種の性格をありのままに残した
種族ちいえるのでございます。ですが……」
「それ以上はいいよ、アメーダ。そろそろ王女に戻ってくれ」
アメーダは丁寧にエプロンの端っこを持ち、膝を曲げてお辞儀をすると、直ぐに王女と一体化した。
今はプリマの事を考えてる時間はない。
……気にならないわけではないのだが、こいつが俺に興味を持っている以上無茶な行動はしないだろう。
ジュディは席を立つと、外へ出かける支度をし始めた。
付近にいる仲間へしばらく墓守を頼み、同行してくれるようだ。
これで目的地まで道に迷う事は無いだろう。
こちらの支度は済んでいるし、少しゆっくりとさせてもらうか……と、部屋を
見渡すと、あるものに目が止まる。
この部屋は殺風景で、適当な食器に椅子、テーブル、非常食の干し肉や
干物、それから火をくべる暖炉に薪といったありふれたものしかない。
アースガルズは機械進行していた文明もあったのだが、ここいらは文明とは縁遠い地域だ。
にも関わらず、一つだけ意を発している物がある。
「それ、銃だよな」
「ああ。ここいらは鳥型のモンスターが多く湧いてくる。
上空の敵には攻撃手段が限られててこずるからな。だが実用的じゃない。
放出されるのは捕縛用の網だ」
「殺傷力のない捕縛網か?」
「ああ。殺す事が目的じゃないからな。追い払えれば十分だ。
モンスターより人の方が厄介だしな」
「ああ……あの場所から現れたのは悪かった。本来パトモスに移動する予定
だったんだけどうまくいかなくて」
「お互い様だろう。それよりその銃、欲しいのか?」
少し考えたが……遠慮することにした。
通常の捕縛銃では今後あまり役に立たないだろう。
だがいいヒントを得た気がする。これはサラ向けの案件だな。
俺の空中対策はブラックイーグルの昇華型か、ブラックヘイローの昇華型だ。
ブラックヘイローであれば、輪の大きさと速度を調整出来れば似た攻撃方法は
出来るかもしれない。
「こっちも準備は整った。周りの奴らに挨拶してくる。少し待っててくれ」
「ああ。頼りにしてる」
ジュディーはピールを呼ぶが、パモとプリマと共にじゃれあっていて
全く来ようとはしない。
少し落ち込みながらも外への扉を開けると、ピールは飛び跳ねて
ジュディーの跡を追った。
そうそう、主人は大切にしないとだぞ。
扉の外は少し雪が降り始めていた。
ここからはまた雪道となる。
少しルーニーに偵察をしておいてもらうか。
「変幻ルーニー。偵察を頼めるか? 東の方角。
もし吹雪が酷いようだったら直ぐ引き返してきてくれ」
「ホロロロー!」
勢いよく外へと飛び出すルーニー。
相変わらず無茶をさせてしまっているが、よく言うことを聞いてくれる。
アルカーンさんから頂いた最高のプログレスウェポン。それは今や俺にとって
無くてはならないルーニーという存在だ。
「あの鳥、プリマも欲しいな」
「アメーダもでございます。お使いに便利そうでございます」
「同じものは、難しいだろうな……俺にとってのルーニーは長旅で出来た
信頼関係みたいなものだからさ」
「ふーん。じゃあこっちでいいや!」
「ぱーみゅ!」
「パモはやらん! 断じてやらん!」
「なんだよケチ。お前だってプリマの方が好きだろ?」
「パーミュ?」
「……ふん。プリマだってきっと、プリマになついてくれる相棒を見つけるぞ!」
「ふふふ……どうやら出発の時が来たようでございます」
外に出ると、数人のフードを被った者たちがいた。
これ、全部無機人族か?
「待たせたな。皆、しばらく留守にする。もし戻らない場合はギル、お前がここの
墓守代表だ。いいな」
ギルと呼ばれた者はコクリと頷く。
「道中は吹雪く可能性がある。フードを被っているプリマはいいが、他の二人は
これを使え」
「黒いフード?」
「少しは顔面も守れるだろう。怪しさは若干増すがな」
「乗り物なんかはあるか? こちらでも出せない事は無いが、この雪道だと厳しいんだ」
「無理だ。視界が悪く走れる馬などもない。安心しろ。
洞穴までそう遠くはない」
「あなた様。あちらを」
「ルーニー、戻って来たか……どうやら洞穴付近までの天候は
今のところ問題ないようだ。先を急ごう」
俺たちはパトモスを後にし、東の洞穴へ向けて出発した。