第六百九十四話 アルカーンの真実
西エリアにある絶壁の訓練場。ここへ来るのもかなり久しぶりだ。
以前デイスペルで行われた闘技大会より広いスペース。
ここの造りは激しい戦闘を想定しているが、最近ではこちらで特訓する者も少ない。
……皆、出払ったままだ。
心配事は重なるが、俺はあいつらを信じている。
「……なんかギャラリーが多くないか?」
「必要な事だ。全員に今の貴様の実力を見てもらう必要があるだろう。
そして……妖魔国での騒動を含め、貴様は妖魔界一の器となれるのか。俺が見定めてやる。
俺は……フェルドナージュ様より強い」
「なんとなく気づいてましたよ。あなたは普通の妖魔とはまるで違う。
その体に宿る力は、神か何かか? 才能などという言葉だけで推し量れるようなものじゃない」
「ふっ。最初に言っておく。俺は……妖魔ではない」
「……どういうことだ」
「アルカーンという男は、とうの昔に死んでいる」
「おいおい。いくらアルカーンさんだって流石に怒るぞ。笑えない冗談だ。だってあんたはリルや
サラの兄貴だろう? 弟たちを思い、それで……」
「演じているに過ぎん。俺はアルカーンという男を演じ続けている」
「なぜだ……やめてくれよ。今更そんな事。それじゃリルは、サラは母も兄も失ったっていうのか」
「その通りだ。俺はアルカーンの……デシアの最後の願いを聞いてやっているに過ぎん。当然妖魔としての能力は
持っている。だが俺は、妖魔でもアルカーンでも無い」
「じゃあ時術が使えるのも、モンスター作成能力があるのも……」
「妖魔の力ではない。管理者の力そのものだ」
「あんたが……管理者……」
「時の管理者。名は……いや、アルカーンでいい」
「時の……管理者? あんたはずっと引きこもって、時計を造り続けて、空気を読めず研究し続けるアルカーン。それでよかったじゃないか! なんで、なんで今更そんなことを言う……なぜ……」
「貴様には話しておきたかった。安心しろ。他の者には聞こえていない。
だが驚いたぞ。俺の教えを受け、アーティファクトを生成する力を持つ少年。
弟や妹のように可愛がってきたあいつらと絆を深める妖魔。
二つの魂を持ち、成長し続ける力を持つ歪な存在。
そして……俺すらも変えてしまうその魅力」
「何を……言ってるんだ」
「四柱が生成した全ての管理者が、貴様の実力を図っている。
或いはブレアリア・ディーンであり、或いはタルタロス・ネウスであり、そして或いはこの俺であること。
さらに……」
「もう……何も言うなよ。俺はアルカーンと戦い、強くなった自分を見てもらえれば、それでいい。
そして俺が勝ったら、今の話は聞かなかったことにしてくれ。あんたはリルとサラの兄。
高い能力を持ち、二人を愛している。それで……それでいいじゃないか。俺は少なくともそうだと
思っていたいんだ」
「……ふふ、貴様は面白い男だ。他者の事にまで感情を揺り動かし、目から涙をこぼすか……。
いいだろう。勝っても負けても貴様の言い分は通してやる。だがこのアルカーン、本気で戦うならば
負けるわけにはいかん」
圧倒的な強者だと認識はしていた。
管理者、アルカーン……いったいどの絶対神の者なのか……予測はつく。
時術を使いこなし、モンスターを生み出し、アーティファクトを使用。
更に妖魔の力を持ち……そうだよな、普通の妖魔なんかじゃない。
リルやサラとも明らかに違う。
「剣戒、封剣……いくぜ、アルカーン。神魔解放……」
『【真化!】』