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第六百九十三話 カイナとは

 ヨーゼフは下を向き、悲しみにくれているようだった。

 俺はベリアルと交代してヨーゼフに話の続きを問いただす。


「なぁ。メルザの腕がなんだって? あんたは一体何を知ってるんだ。答えてくれ! 

なぜメルザの村が襲われ、父も、母も失ったんだ。常闇のカイナの狙いは何だ? あんたを

ある組織の人間とコンタクトするための鍵と聞いた。あんたは一体何者なんだ?」

「……君はさっきと随分と様子が違うが……多重の人格を持つのか?」

「人格は一つ。だが俺には別の魂がいる。さっきのはベリアル。そして俺は……ルイン・ラインバウトだ」

「ラインバウト……?」

「俺はメルザの夫。あいつは、俺にとってかけがえのない存在だ。今は腕の治療をし、子供の出産前だ」

「子供を身ごもったと? いかん。シラは必ず狙いに来る……その子供は?」

「まだ生まれていない。狙いに来る? シラ? 一体何なんだ」

「常闇のカイナ。カイナとは何を表す言葉か知っているかね?」

「いや……単なる組織の名前じゃないのか?」

「カイナとは腕を意味するもの。常闇……つまり闇の生贄として、やつらは腕を捧げる。

なぜ奴隷となった者の部位が消失するかわかるかね?」

「簡単に逃げ出せないようにするためだと聞いた事がある。絶対許せない行為だと思うが……だが

足じゃないのか? 俺の仲間は一度、足をやられたんだ」

「それは単なる逃走防止用。生贄に捧げる者に選定されれば……どちらかの腕を喪失する。

それを、生贄として捧げる事で多くの力を得る事が出来る……ということのようだ。

それ以外にも常闇のカイナは亜人や獣人を襲い、それらを魔物に変える術も持つという」


 腕を捧げる狂信者……それが常闇のカイナか。何度か対峙したが、末端でも強力な奴らはいた。

 高度な幻術を使い……いや待てよ。幻術ってそんなにおしおれと使えるものじゃないよな。まさか……。


「アルカイオス幻魔の血筋の者を特に好んで狙っている……のか」

「その通りだ。故にこの世界にはもう殆ど、アルカイオス幻魔は残っておらん。メルザに子供が

産まれれば、それは貴重な生贄の許。どこかで情報が漏洩すれば、必ず狙われるだろう」

「産まれたすぐの子供を……か?」

「いいや。成人年齢に近づいてからだ。だからこそ困るのだ。忘れた頃に狙われる。

ルーイズも警戒はしていただろう。だが、奴らは突然現れる術を持っている。

二人の実の子でないというのは聞いたか?」

「ああ。本人から直接。酷いいわれ用だったけど、メルザを頼むと」

「そうか……ここからは更に過酷な話になるが、聞くか?」

「勿論だ。全てを話してくれ」

「その話、俺も混ざっていいか」


 誰かと思ったら、青白い顔の眼鏡に長いぼさぼさの髪。

 何もせずただ座って恰好を決めているだけなら絵になる程格好いいだろう、アルカーンさんじゃないか。


「構わないが、アルカーンさんの楽しめる話かどうか」

「魔物を作る……という気になる話が聞こえたのでな。突如現れるとも」

「彼は?」

「妖魔界でも屈指の能力を持つ、アルカーンさんです。天才的な頭脳を通り越して、少しあれな妖魔です」

「ふむ……どう見てもただ者ではないが、いいのか? かなり厳しい内容になるぞ」

「構わん。俺が気になる部分だけ聞ければそれでいい」

「わかった。では続けよう。確信から言おう。あの子は、シラの子供だ」

「何!? あの村を襲ったのはシラってやつじゃないのか?」

「正確にはシラが率いる常闇のカイナの者たちだ。どこまで関わっていたかはわからん。

だが、シラは確実に自分の娘の腕を取りに来た。それだけは間違いあるまい」

「っ! なんで……そんなことを……」


 あまりのも衝撃的だった。自分の娘の腕? 

 冗談だろ……それはもう、人の心など持ち合わせていないってことだ……。


「先ほども言うたはずだ。アルカイオス幻魔の者はもう、殆ど残っておらん。

シラに子供を宿したもの……つまり本当の父親はアルカイオス幻魔だった」

「待ってくれ。そのシラってやつは、ルーイズの事が好きだったと……」

「そうじゃな。確かに好きだったが、お主もルーイズに会ったのであればわかったはずだ。

あやつの性格を」

「メイアさん……だったか。その人を愛していたんだな」

「ああ。別に二人と結婚していけないわけではなかった。

シラはいつからか闇に魅入られておった。そして、わしらがパーティーを組んでいる間に

身ごもり、出産した」

「その相手の男は?」


 首を横に振るヨーゼフ。

 そうか……本当の父親はわからずじまい。

 もし……もしも俺がメルザだけを選び結婚していたら……どうなってしまっていたのかわからない。

 しかもパーティーを組み、家族のように行動していたシラ……それをわかっていながらも

応えられなかったお義父さん。

 そして、巻き込まれたのは子供だ……それにここまでの話。

 到底本人にできようはずもない。俺の心の底にしまっておく必要がある。



「子供を産んでしばらく経つある日……シラは子供と一緒にいなくなっていた。随分と探したが

消息は不明じゃった。だが、残された子供をメイアが見つけて、保護したのだ。どうするか

話し合ったが、ルーイズが責任を持って俺がメイア共々みてやるから安心しろと。

そういう男だ。その子供がシラの子かも聞かずにな。予測はついておっただろうが……」

「……お義父さんは確かに、思う気持ちが強そうな人だった。いきなり襲われたりもしたけど、大切な

者を守りたい。そういった気持ちが前に出る人だったんだろうな」

「ルーイズは早とちりな性格だったが、明るく前向きで、他者に優しく頼りがいのあるいい男だった。

そして何より強かった。そんなルーイズが死んだと聞いた時は驚いたものだ……」

「ヨーゼフさん。あんたは……」

「わしは悔いておるよ。何も出来なかった自分に。わしがあの子を引き取って育ててやればまた、違った

生活になったのかもしれん。じゃが……」

「あんたが悔いる必要なんてない。少なくともメルザは、俺が必ず幸せにする。それが

ルーイズの、家族の願いだ。常闇のカイナ? 生きてる限り指一本、触れさせるものか。

腕を生贄だと? そんな組織、必ず壊滅させてやる。相手が神だろうが、何だろうが、関係ない。

そのためにはあんたの力が必要だ」


 そういうと、俺は肩に乗せたパモから、アビオラから受け取った親書を直接手渡す。

 それを読んでいくヨーゼフ。

 すると突然立ち上がり、俺の両肩を掴んだ。


「え?」

「孫娘はどこだ!? レミのバカ孫はどこにおる?」

「ちょ、落ち着いてくれって。どうしたんだ急に」

「アビオラの奴からの親書に、レミを俺へ託したという記載がある。孫娘はどこだ!? 

説教をせねばならん。勝手に家を飛び出し放浪しおって」

「えーっと。レミ? レミってレミニーニの事か? アイドルの?」

「アイドルというのはわしが教えたにすぎん。それから夢中になってしまってな。

おいレミ! どこだ! いるのはわかっているぞ! レミ!」

「あ、行っちゃったよ。まだ聞きたい事があったのに。大分エール飲んでたからな

……大丈夫か、あの爺さん」

「ふむ。大分いい話を聞けたな」

「アルカーンさんがこの手の話をまともに聞くのは珍しいですね」

「ルインよ。このルーンの町を貴様はどう思う?」

「他種族混合のでかい町……ですかね」

「では、その町の主は誰だ?」

「それは……メルザだと考えていた。でも、ここは一人一人が主なんじゃないかなって、そう思います」

「フェルドナージュ様はフェルス皇国をしっかり統治されていた。だが現状はニンファという娘でも

統治はまかり通っている。民一人一人が優秀であれば、存外統治はまかり通るものだ。

だがこの町は、貴様と、その主であるメルザが築いた町。

どのような襲い来るものがいても、決して負けてはならん。そのために俺が成すべき事が

見えてきたようだ。さて……約束は覚えているか?」

「……ええ。あなたと戦う約束ですよね」

「そうだ。今は医者もいる。少し規模が大きくなるだろうから、西の訓練場で待つ。支度が終わったら来い」

「……ええ。わかりました」


 大いなる町は、二人で守れ……か。いや、アルカーンさんの言葉はそんな軽いものじゃない。

 二人で守るのではなく、二人が持つ力……俺の力は沢山増えた仲間だろう。

 そしてメルザはアルカイオス幻魔。

 俺たちの安息の地はまだ安定したわけじゃない。

 これから産まれる子供たちと、頼れる仲間とで、敵対するものたちと戦わねばならない。


 我が主のために……それこそが多くの、共に暮らすもののために。

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