第六百九十二話 カルシフォン・ヴァン・ヨーゼフ
場所を移して今度はルーンの安息所へ。
この場所へ移したのには訳がある。
プリマがきれるたびに騒ぐので、他の客を怖がらせてしまうのが一つ。
ちょうど店が混む時間に邪魔するのが悪いというのが一つ。
こっちの方が込み入った話ができるってのが一つだ。
……本来こう考えるのはルインの方だろうが、俺もこの場所は気に入ってるし汚されたくねえ。
ましてやぶっ壊されでもしたら一気に戦闘モードだ。
別にこっちが壊れていいわけじゃねえが……こっちの方が広いうえ、外にも座る場所がある。
十分話せると思ったんだが……「なんつーか人数多すぎねえか」
「君の仲間、総勢何人いるんだい?」
「……さぁな。沢山だろ」
レウスとツァーリ、骨蔵族が再開を祝して酒をがばがばと骨にぶっかけている。
その横では壁を作って遊ぶウォーラス。その壁に向けて新しい毒薬を投げつけているアグリコラ。
妖魔連中もいるな。フェドラートにアネスタ、それにアルカーン。
それにルクス傭兵団だったか。モラコ族にトカタウロス、三夜の町の闇の住人に目の不自由な
レェンと兄のアルン。
更に戻って来た仲間たちに加え、死霊族に神の遣い、絶対神に……こいつはもう一つの国だな。
「何だここは。異世界だろ、もう」
「そうだね。ここはゲンドールとは異色の世界だ。楽しそうだろう?」
「イネービュがいなければな」
「そんなこといって。居た方がいいと少しずつ思い始めてるんでしょう?」
「……殺す」
「おい。プリマにイネービュ。悪いんだが少しヨーゼフと話がしてぇ。あそこに目の不自由な
子供がいるの、わかるか。あいつとロブロードでもして待っててくれねえか」
「あれが君の言っていた……いや、彼が言っていた最強のロブロードを行う者か! いいのか?」
「変なルールとか傷つけたりとか怖がらせたりとか絶対するなよ。まだ子供なんだから」
「わかってる!」
そう一言だけ残してあっという間にレェンの許へ行くプリマ。
悪いが少し厄介者の相手をしててくれ。礼はするぜレェンよ。
「すまねえがこっちは騒がしい。北の畑エリアなら静かなはずだ。そこで話さねえか?」
「わしはここで構わんよ。改めて自己紹介をしよう。わしはカルシフォン・ヴァン・ヨーゼフ。
シー君。いや、正確には妖魔の君主、ベリアル殿……かな」
「俺は今は君主じゃねえが、あんたは歴史にも詳しそうだな」
「ああ。すまないが一杯エールをもらえるか」
「承知したのでございます。食べ物も少々持参しましょう。外の外れの席でお待ちしていて
欲しいのでございます」
アメーダはくるりと踵を翻すと、ルーンの安息所へ入っていった。
「よくできた娘さんだな。だがどういうわけかアースガルズの王女、ミレーユにそっくりだな……」
「本人だ。だが訳あって連れて行くことになってる。その辺の話は聞いてねえのか?」
「何分急ぎの文をもらった後だったのでね。オルガ……いや、メイズオルガ卿の許へ辿り着く前に
巻き込まれた始末だ。まさか災厄の死霊、プリマに襲われるなど思ってもみなかった」
「ずばり確信から言うぜ。おめえは……わーってるよ。おめえは疾風のルーイズを知ってやがるよな」
「疾風のルーイズ……か。実に懐かしい名前だ……おっと、すまないね。こいつは美味そうだ。何せ
しばらく酷い食事をとっていたものでね。まずは感謝の祝杯をしよう」
「どうぞベリアル様……アメーダも傍にいてよろしいでございましょうか?」
「構わねえよ。酒がきれたら注いでやれ」
「承知したのでございます」
「確かに王女にもてなされる資格はある身分だ。そうしてもらおう。はっはっは。
さて……疾風のルーイズ、凪剣のヨーゼフ、猛炎のメイア、才知のシラ。若かりし頃のわしらの字名だ」
「疾風のルーイズは死んだ。だがある場所でおめえに聞けと言伝をもらった、そうだろルインよ」
「彼に代わってはもらえないか? 直接話しておきたいのだが……」
「今は無理だ。それにこいつは涙もろい。俺が前に出て聞いてる方が、都合がいいだろ」
「そうか……ベリアル殿には何となく理解しているのだね」
「まぁな。常闇のカイナってのはポット出の集団じゃねえからな」
「それは思想であり宗教。血であり刃。村を、町を、大地を破壊するのは宗教による必要あってのこと。
そしてそれを指示するは神の務め。わしらは無実なる者が迫害される道理を許せんかった。
この世で最も力ある存在が何かわかるかね?」
「絶対神により最初に産み出された管轄者……か」
「左様。管理者はそれぞれ強力な力を持つ。絶対神は理に過ぎん。全てを管理者に委ねておる。
その管理者が間違っていたとしてもそれを正したりはせぬ」
「破壊を司る管理者……そいつに喧嘩を売った結果か」
「いいやそれは違う。わしらは話し合おうとしただけだ。だが元凶の大元は見つからずわしらは
その後パーティを解散した。そしてシラは……」
「後々破壊に魅了されたやつがいたって訳か」
「村を襲ったのは恐らくシラだろう……」
「そうかよ。少しずつ分かってきた気がするぜ。それで……メルザについて知ってる事は?」
「メルザ……!? メルザ・ラインバウトは死んだと聞いていたが」
「いいや、生きてる。俺があんたに会う目的は複数あるが、最大の目的はそれだぜ」
それを聞いてヨーゼフの顔はどんどんと暗くなっていった。
自責の念にかられているような……そんな顔だった。
「話さねばならんことが実に多いようだ。わしは……いや、その前に聞きたい。
あの子の……腕はどうなっておる?」
「腕? 腕がどうかしたのか? メルザは、両方の腕を失っているぜ……」
「そうか。やはり……全てはカイナの許に帰したのだな……」
このじじい、一人で先に進んで訳がわからねぇ……一体何の話をしてやがるんだ?
……くそ、わかったよ。変わるから落ち着け……おめえはやっぱり知りてぇんだな。
だが覚悟して聞け。重てぇ話だぜ……。