第六百八十九話 領域接続開始
「セカ。領域を繋げる手筈を整えろ。君たちの領域源はどこにある?」
「廃鉱山の泉がここからだと一番近いかな」
「それならそこへ案内しろ。セカをここに残しておけば繋げるのは容易い」
「くれぐれもプリマ様を怒らせぬよう気を付けてくださいましょうや」
こうして話の段取りをつけた俺は、プリマ、そしてアメーダを連れて廃鉱山を……「こっちの方角か」
プリマは突然鎌を二本取り出し、二本の鎌で空間を切り裂くと、そのひずみの先はあの
廃鉱山の泉前だった……。
「なん……だ、これ。空間を引き裂いて吸い寄せてるのか」
「違う。繋げただけだ。時間は持たないから早く入れ」
「歪術の使い手、アルカイオス幻魔のプリマ……死霊族となってもその実力は折り紙付きでございます……
恐ろしい力でございます。決して怒りに触れぬよう……」
アルカーンだけでも驚いていたのに、これはまたとんでもない奴を引き入れてしまったの
かもしれない。
「ふーん。命真水か。これ、シカリーが隠してたの?」
「ええ、そうでございます。一時期この辺りに大量のグールが発生した折、封鎖していたので
ございます」
「ロンドが暗躍してたあれか。そういえば同じ質問を崩落下で受けたな」
「それは多分、ミズガルドだろう。ビーは友人をその時失ったと言っていた」
「そうなんだ。あれは実験の失敗のなれの果てだとおもうけどね。ロンドは肉体が無いから」
「死霊ってのはそもそも肉体が無いんじゃないのか? プリマもアメーダもシカリーも
肉体があるように見えるけど」
「君らの言葉で分かり易く言うなら、模造品かな」
「死霊は霊体版のアンデッドです。ですが肉体が滅びない道理はありません。
ですので定期的に作り替えられた肉体を構築する技術があります」
「それは……あまり聞きたくない話だな」
「さて、お喋りは終わり。セカ、聞こえてるな! ……よし、君の領域の一角に
崩落された穴を作る。どこか適した場所はある?」
「一緒に中へ入ってくれ。俺じゃなくアルカーンが作った場所でもあるから……」
「アルカーン? 君の領域にいるのか?」
「あ、ああ。かなり変わった妖魔だけど」
「……驚いた。道理で見つからないわけだね。君を殺さず正解だったようだよ」
「まさかアルカーンの命を狙っているってことはないよな?」
「命を狙ってるのはプリマたちじゃない。さっき話してたロンドたちだよ」
「……話が見えないがひとまず町へ行こう。願いを伝えた時に言ったけど、ルーンの町のルールに
は従ってもらう」
「わかってるよ。いきなりイネービュがいたら約束が守れるか不安だけどさ」
「う……いきなりいる可能性もあるんだよな……」
そう話しつつも両者をルーンの町へ案内すべく泉へと誘う。
一抹の不安はあるが絶対的強者を納得させられたのならよかったのだと思う。
そのまま戦闘になっていたら一体どうなっていたことか……。
泉から浮かびあがると、美しいルーンの町が直ぐ視界へと飛び込んできた。
時計に彩られた安息所が、いつもより美しく見える。
「ここが君たちの町か。もう少し広いと思っていたけど」
「これからまだ改修されていく予定でございますよ」
「それならひとまず小さな穴にしておこう。こっちは通れればいいしね」
「ここは町の南側エリアだ。北上すれば温泉街がある。地下には闇の種族が住みやすいように
改装工事がしてあったり、茶室があったりする。それと訓練場や商業施設エリアもあるが……無難なのは
北側の畑エリアか、もしくはこの南側のエリアかな」
「それならここでいい。落ちたら困るだろ。だから横に開ける」
「横? 崩落の穴ってのは横にも開くものなのか? それってもう崩落とはいわないような……」
鎌でさっと穴を切り裂くと、その穴に向けて大声で叫ぶプリマ。
「……おいセカ! 人二人分程度の穴しか開かないからな。繋げ方をおかしくするなよ!」
特に返事が返っては来ないが聞こえてはいるのだろう。
「少し時間がかかりそうだ」
「それなら……」