第六百八十八話 質問権と願い
ロブロードに勝利した俺は、ピースを奪う事を拒否した後、二つの質問を最初に行った。
質問内容は俺の仲間であるミズガルドが無事かどうか。
それとここで一体何をしているのか……だ。
ヨーゼフの安否という形で聞いてもよかったのだが、そちらは本名を知らない。
正確に俺の探しているヨーゼフと一致するかもわからないからだ。
「まず一つ目の質問。君の仲間は無事……というか無傷だ。
ただ領域に閉じ込めてある。君が叫べば声は聞こえただろう。音を定期的に取り込むように
してあるからね。ここで何をしているかは簡単だ。ある男を君の仲間事領域へ取り込んだ。
探し人の一人だと確信していたんでね」
「それはヨーゼフという男で間違いないか?」
「質問権は二つまで。もっと色々深い事を聞くのかと思ったよ」
「俺にとってはビーが無事化どうかが大事だったんでね。それじゃ次は願い事を」
「ああ。あくまで出来る範囲でだ。それが契約というもの」
「しかし今、あなた様はシカリー様の使命の真っ最中でございま……」
「だまれ。シカリーならいざ知らず、アメーダが口を挟むなよ」
「う……その通りでございますね……」
少ししゅんとなるアメーダ。やはり上下関係がある世界なのか……シカリーとプリマは
対等な関係のようだが……。
「願い事をするにあたって、可能かどうかを判別したいんだけど、これも質問権とやらに
入るか?」
「それは問題ないよ。不可能なのはプリマの都合だしね」
「それじゃプリマはシカリー、イネービュとのいざこざを、今後全てロブロードで
決めるようにする……というのは可能だろうか」
「……は?」
「だから、願いの一つは今後、シカリーやイネービュなどの絶対神と、殴り合い殺し合いで争う
のをやめて、ロブロードで争えって言ってるんだよ」
「……くそ。可能だよ、それは……」
「それじゃ一つ目はそれだ。次は二つ目の願いだ」
「ちょっと待ってくれ。もっと他にあるだろ? 君が勝って得た願いだぞ? なんだその願い事は。
元々人間じゃないのか? 欲望はどうした。金は? 力が欲しいとかは?
権力がいいんじゃないのか? 君は男だろう? 女が欲しいとかないのか?
数千人の忠実な奴隷は? 君だけが使える領域は? あるだろう? もっともっと」
「あんたの言う通り、確かに元々はか細くひ弱なただの人間。神からすれば石ころも同然だろう。
石ころがそんな大それた望みを持つもんじゃない。あんたが言うものは俺には必要ない」
「なぜだ……?」
「そんなものがあっても、俺は幸せにはなれない。そして、無理やり叶えた願いじゃ、あいつは
喜ばない。だから俺は、あんたたちがこうあって欲しいと思うものを望む。
崩落の領域を、俺たちの領域のルールに従うと約束して繋げてくれ。それが一番手っ取り早い」
「……ふふふふ、アーッハッハッハッハッハッハ! 何だこいつ。本当に面白い。
プリマの領域と、君の領域を繋げる? そんなことして誰に得があるんだ?」
「俺に得がある。その方が……楽しそうだろう?」
「楽しい……楽しいか」
「それにだ……あんたの好きなロブロードにおいて、恐らく最強の相手が俺の領域にいる」
「何?」
「そいつは両目が見えない。だが感覚は誰よりも鋭いと断言しよう」
「へぇ……つまりそいつを倒せばプリマが一番のロブロードの覇者ってわけだ。いいね、それ」
「ちなみにイネービュもシカリーもかなりやるようだぞ。そっちは好きに楽しんでくれ」
「くっ……はっはっはっは! プリマ様。どうやら一本取られたでしょうや」
「うるさいな! ……その願いの答えは可能だ。でも一つだけ言っておくぞ。絶対神のやった事は
許せる事じゃない。プリマたちは安息に暮らしていたんだ。それを踏みにじったのはあいつらだ」
「確かブネが言っていたな……アルカイオス幻魔には敬意を払え……だったか」
「ふん。敬意を払ったところで、死んだ多くの同胞は帰ってこない。神は死を意識しない。
あってしかるべきものだと言う。我々に残った種族は、一部の死霊族と、始祖の末裔だけだ」
「始祖の……末裔……か。別に絶対神を恨んでいてもいいだろうし、シカリーと直接仲良くしなくたって
いいんじゃないか。人だってわだかまりの中、生きていくやつも大勢いる。領域は繋げるがベッドで
隣り合わせにして寝ろってわけじゃないんだ。一つの大きな町で互いにぶつかり合う時はゲームの上で。
それ以外は話し合いの場を設けて決めればいい。美味い飯や好きなら酒でも飲んで、語り合えば
いいじゃないか」
「それが出来ないから、人間は争うのだろう? 誰しもが自分の事ばかり。欲に塗れて醜く
生きているじゃないか」
「全てがそういうわけじゃない。権力を握った奴次第で変わる事もある。
本当に醜いのは一部だけだった。俺は何人もの優しい人たちに救われた事があるよ」
「……それならさぞ、君の町は優しい人ってのがいるんだな……嘘であって欲しかったけどね。
君が嘘をついていた瞬間、プリマは君を殺していた。しかし一度もその手は伸びなかったようだ……」
プリマには悪いと思ったが、後半俺の頭の中はメルザで一杯だった。
そうか。やっぱりメルザは特別な存在だったんだな。
アルカイオス幻魔、始祖の末裔。
ヨーゼフに会え……か。
会うのが怖くなってきた。
だがここで逃げるわけにはいかない。
話を……聞いてみよう。
俺が少し上の空だったことに気づいてか、プリマが席を立ち、こちらへ近づいてきた。