第六百七十話 骨のご案内
「バシ公はあれだ。俺の……なんだっけか。忘れたわ。まぁいいだろ」
存外この骨もダメな方の骨な気がしてきた。
そのうち相棒とか言い出す前に逃げたい所だが……。
一体ここで何をしているんだろう。
他にも違う骨がいるのか?
泉のルートは安全かなどを問いただしたい。
その後は……諦めて帰って頂こう……あれ? もしかするとこの骨、ここでうろうろ
させておけないのでは?
何せこの奥の泉がルーンの町に繋がったら、この場所は必ず通る事になる。
これではアースガルズとの国交を開けないじゃないか!
「なぁあんた……この廃鉱山の主か何かだったりするか? 俺たちこの奥にある
泉を利用したいんだけど」
「クミナの泉のことだな。案内してやってもいい。俺たちの種族ならいう事をきく。
それ以外はお前達を襲うだろうがそれでいいよな?」
「全然よくないんだけど、襲われる種族って?」
「でっけぇナメクジ野郎とでっけぇコウモリ野郎。後でっけぇゾンビにでっけぇ蜘蛛野郎に
でっけぇ……」
「冗談だろ、こんな狭い鉱山内で」
「道を選べば少し回避できるがよ。お前の仲間にコウモリみてえのいるか?」
「コウモリ? ファナならバットに変身できるな……」
「いるのか? それなら鉱山の道を変えられる。ついてきな」
骨はくいくいと左手の人差し指をこちらに頸椎を回しながら北東に向けて指さす。
これは、ついていかないとまずい流れだ。
エプタは既に青白い顔をしているが……やっぱり怖いんじゃないのか?
「ファナ。頼めるか」
「ええ。まさかおじさんの知合いにこんなところで会えるなんてね……驚きだわ」
「でもレウスさん、地底の幽閉の辿りの宝箱の中にいたんだぞ?」
「そうだったわね……どうなってるのかしら。地上は浄化されるとか言ってたんでしょ?」
「ああ。少なくともこんなところじゃ浄化はしないだろうけど」
ファナがバットへ変身すると、しばらくは肩に乗ってもらう。
エプタはその後ろをゆっくりと歩く。
鉱山内部は天井が低く、道も狭かったが骨の案内で進むと少し広いエリアに出た。
下りはしごのようなものが見える。
「本当はここを下ってつっきってくんだけどよ。下にはさっき言ったやつらがうじゃうじゃいる。
それでだ。壁沿いの上空に穴があるだろ。そこから入ってスイッチを押せ」
「ファナ……」
ファナは飛んで穴に入る。これは確かに小さめのコウモリでもないと
入るのは困難だろう。
ましてやスイッチを押してくるなど、知識がないとできるはずもない。
「どうやら押せたみたいだな。コウモリが戻ったら引き返すぞ」
「え? この辺りに何か現れるんじゃないのか?」
「違う。さっきの場所だ。だから俺がいたんだろ?」
「話の道筋が見えないが、何か守っていたのか」
「そんなところだ。よし、ついてこい」
再び人差し指骨でくいくいと合図を送る骨。
そのまま従ってついていくと、先ほどこの骨と遭遇した場所に戻って来る。
さっきとあまり変わらないように見えるが……。
「おい。そこにある紐引っ張れ」
「紐? 紐なんてどこにも……あれ? なんだこれ。こんなものさっきまでなかったけど」
「上だ上。仕掛けがあるのはあくまで天井。下に行けば行くほど遠回りになるよう
設計されてる」
「そうなのか。でもここって廃鉱山なんじゃ……なんでこんな仕掛けがあるんだ」
「おいおい、ぜってぇ罠だろ。ありえねぇ。何で骨に導かれてやがるんだ」
「そうはいってもなぁ。俺たちをどうにかしようとしている骨には見えないし。
しかもいきなり攻撃しちゃったからな……」
「……はぁ。そりゃ確かに攻撃したがよ……わーったよ。俺が先いきゃいいんだろ」
「おう兄ちゃん! 早くこっち来いや。一杯やるぞ、おい」
「骨が酒なんざ飲めるわけねえだろ……」
顔を引きつらせながらもエプタが前を進み、紐を引っ張る。
すると……上部の壁の一か所から梯子が下りてきた。
しかしどう見ても天井に穴などは開いておらず、登っても何も
意味が無いように見える。
「よし、登るぞ」
「頭ぶつけて終わるだけだろ」
「いいから登るぞ、見てろ」
そう言うと骨はスタスタと梯子を登っていく。
その様はどう見ても恐ろしい光景だ。
天井付近まで登っていくと、頭蓋骨から天井に突撃した。
ぱきょっという音と共に頭蓋骨が外れ、地面に落ちる。
「……だから頭ぶつけるだけだよな」
「あれ? おいおいどうなってるんだ。少し場所がずれてるのか?
兄ちゃん。頭拾って投げてくれ」
「おいルイン。どんな攻撃が来るかもわからねえ。俺が警戒しといてやるから
早く頭を拾って投げてやれ」
「え? 俺が警戒してるからエプタが拾って投げてくれればいいぞ?」
「バカ言うな。警戒といえば俺だろ。適任からしておめえが拾う方がいい」
「エプタの方が近――――」
「早く拾え! 何があるかわからねえだろ!?」
仕方なく頭蓋骨を広い、節穴の眼に見つめられながら、指をクイクイさせてる
方へ投げた。
「おっととっとっと……」
……そして落とした。
こいつは遊んでるのか?
深くため息をつくと再度頭蓋骨を渡す。
一体俺たちは何につきあわされてるんだ?
「おう、悪いな。やっぱずれてるわ。正確には登り方を裏から登れば
通れそうだわ。ついてきな」
そういうと登り梯子を反対側から登り始める。
再び頭蓋骨を体にセットさせると、天井に再び頭から突っ込んだ。
そして――――骨は体事天井にめり込んだ。
「やっぱりありえねぇ。見破れねえ偽装だ、ありゃよ。
何か強力な能力じゃねえのか」
「だが、やばいモンスターの居る場所を避けて通れる道ならありがたい。
開拓できれば便利じゃないか」
「あーわかったよ、行きゃいいんだろ。くそ、嫌な予感がしやがるぜ……」