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第六百五十四話 虐げる者などもういない

 サラとレミに細かい事情を説明し、先にメナスの許へ行くのでファナへ代理説明のお願いをしておいた。

 二人とも驚いてはいたが、納得してもらえた。


「つもる話も多いけどわかったわ。ルーニーだけおいてって。お兄ちゃんに頼んでみる。

やっと自分の名前、言ってもいいのよね? 私はサラ、サラカーンよーー!」

「レミちゃんそもそもレニでもいいかなぁーって思ってるんだよねー。だってアイドルネームが

ニニーだしぃー。どっちでもいいしぃー?」

「二人とも、お腹の音、後で聞かせてくれよ。メナスとブネに挨拶したらすぐ戻るからさ」

「そうそう、私たち今宿屋じゃなくて、メイズオルガ様が立ててくれた家に住んでるのよ。

仮説住宅っていうんだけど。救世主の奥さんがいると聞いてな……どうか暫くは手助けをさせてほしい。

ふっ……みたいな素敵な人だったわよ。旦那程じゃないけど」

「もしかしてメイズオルガ卿はその話をあちこちでしているのか……」

「さぁ? でもいいじゃない。誰も見てはいなかっただろうけど、この国の次期王が

認めているのよ? もっと誇っていいわよ」

「英雄オズワルを越える存在だ……なぁーんて言ってたし。似てた? 今の似てた?」

「はぁ……救世主なんて柄じゃない。それじゃ二人とも、ここは頼んだよ。

アメーダ、行こうか」

「ええ。それではご機嫌よう」

「それ、王女の会話内容の方だな……」


 再び厨房を抜け外へ出る途中、牛鬼と目があう。

 真剣に調理へ打ち込んでいるのを邪魔しちゃいけないので、軽くウインクだけしておいた。


 ファナも本当は直接あって話をしたいのだろうけど、お客の状況を見れば、それが出来ないのは

理解できる。

 レナさんは仕事をやめてしまったのだろうか? 

 

「店を出て北東……あの辺りか。たて看板に国家重要管理物につき立ち入り禁止って書いてある

らしいけど」

「それでしたらあれでございますね」


 ここからだと何も見えないような場所を指し示すアメーダ。

 嘘だろ……こんな場所からじゃサンコンだって見えやしないぞ。

 しかし――――アメーダの指さした方向には確かにその建物があった。


「この建物自体、厳しく監視されておりますな。中はさぞ安全でございましょう」

「建物の二階の奥だったな。アメーダは少し一階で待っていてくれないか。

先にブネを呼んで来る。そちらはそちらで話があるのだろう?」

「そうでございますね。そうして頂けた方が今後の展開が楽でございます」


 念のため扉を叩いて返事を待つと、直ぐに声がした。

 ベルディアの声だったので、一言声を掛けると、扉が開き飛びつかれた。


「おかえり。ずっと待ってたっしょ」

「お腹が大きいんだから気を付けないとだめだぞ? でも元気そうだな、ベルディア」

「あれ? 名前もう呼んでもいいっしょ?」

「ああ。大丈夫……というか怒られる案件を持ってきた。ブネも二階か?」

「うん。早くメナっちにも会って欲しいっしょ。ずっと立ち直れなくて」

「そのつもりだ。先にブネの許へ。こちらの女性については後で話す」

「あれ、王女様? でも雰囲気違うっしょ」

「ベルディアは王女の事、わかるのか?」

「一緒に見たっしょ。竜に乗ってるところ」

「そうか、ロキが化けていた王女、ベルディアは見てたな……レッジも見ていたはずだけど

レッジは気づかなかったようだ。王女の説明は後でするよ」



 そう告げると、アメーダには一階でベルディアと待っていてもらい、二階へと上がる。

 部屋がいくつもあるが、手前の部屋がブネのいる部屋だった。


 扉をノックして開けると、相変わらず無表情な美女が楽器を奏でていた。

 

「ブネ。エプタも。久しぶりだ。留守にしてすまない」

「命あったか。貴様は何度も死にかけているが、死にかけるのが好きなのか?」

「おめえ、何かふっきれたような顔してやがるな」


 相変わらず目つきの鋭いエプタに睨むように見られる。

 しかしなぜかエプタに違和感を感じた。少しだけ丸くなったような雰囲気がある。


「実は……」


 これまであったことを話すと、ブネは楽器を置き、扉の方へと向かう。

 エプタも出ようとするが、手でそれを制止した。


「よい、エプタよ。貴様はやることをやりにいけ」

「へいへい。死霊族相手に俺だと礼儀がなってないからダメってんだろ。わかったよ」


 すっといなくなるエプタ。

 あまり興味がないのか、心配も特にしていないのかはわからないが、引き下がった。

 

「シカリーならばよい。別の死霊族に先に目をつけられていたら、ただでは済まなかったぞ」

「そうなのか? 死霊族については詳しくしらない。イネービュの言うところの名を名乗ると危険

っていうのは死霊族の事だったのか?」

「そうとは限らない。貴様はこやつらに保護されたのだ。運がよかったな。いや……貴様の話を

聞く限りでは、ロブロードのお陰だな。ふむ……イネービュ様とシカリー。両者をロブロードで

結びつけるのも悪くない……か」

「それ、全部アメーダに筒抜けだと思うぞ?」

「わかっておる。貴様それより、手をそろそろ離さんか」

「ああ……でもお帰りの挨拶をしっかりしておきたくて。もう少しでメルザに、会えるんだから」

「……まったく、人というのは困ったものだな。だが貴様も早く会ってやらねばならない者がおるのだろう? 行ってこい。闇のオーブの件などは後ほどな」

「そうしよう。また……後でな」


 引き留めていたブネの手を離し、更に奥の部屋へ。

 メナスの居る部屋の前に行き、扉をノックした。

 返事はないが、扉は開けても平気と言われていたので、扉をゆっくり開ける。

 中は多少光は差し込むものの、明るくはない。


「メナス。俺だ。心配をかけてしまったみたいだな」


 窓辺から外を見ていた銀髪の女性は、急いで顔を伏せながら、こちらを振り返った。

 面をつけていない顔を見られるのが嫌なのだろう。

 それでも急いで駆け寄ってくるのがわかる。


「シー、シー……無事で本当によかった。心配で、心配で……もう戻らないかと

思ったのに。私以外皆信じ切っていた。皆はあの時の状況を見ていないから。

だから私と感情が違うと、そう思って。でも、やっぱりそうじゃない。

本当に信頼しているから。だから戻ってくると信じていられる。

私は弱いから、それができない。悲しくて、悲しくて……」

「落ち着け。何を言っているのかよくわからないぞ。だが……メナスが無事で

本当によかった。顔、見せてくれないか。どれだけ傷があっても、お前の顔は美しいと

俺は思う。辛い思いをさせてしまってすまない。俺を守れなかった事、重荷に感じさせて

しまってすまない。全ては俺の責任だ。お前ももう、俺たちの家族なんだ。

遠慮せず、泣きついても構わないよ。それくらい俺の妻たちは許してくれる」

「うぅ……うわぁーーーー!」


 最悪な頼み事を押し付け、身代わりになろうとしたことで俺を傷つけてしまったこと。

 十分酷いトラウマを与えたに違いない。

 ベルディアはきっと何度も励ましてくれたのだろう。

 銀髪の女狐。なんてことわない、一人のか弱い女性だ。

 これからは無理をさせず、女性らしくルーンの町で暮らしてもらおう。

 仮面を取り、本来の彼女自身でいられるように。

 

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