第六百五十一話 道すがらの休憩
火を起こし、ルジリトが華麗に調理しているのを見て、猫眼鬼族というのは
かくも器用なものなのかと驚くばかりだった。
そのころナナーとビュイの少女二人は、腹を何度か抱えて笑いながらも、丁寧に喋り方を教えている。
幻奥の青に名前を告げようと伝えた所、それはそれは嬉しそうに何を言っているのか
わからない言葉で返された。
このままだとさすがに言葉の理解が厳しいので、ビュイとナナーにしっかり
教えてあげるよう頼み込んだのだが……。
ひとまず三人、仲がよさそうでいいのかな。
ルジリトと共に調理をしているアメーダもまた、動きが華麗だ。
これはもしや……自分の事をでくの坊だという王女の調理スキルがあがるのでは!? と思ったが
嫌われているようなので声は掛けづらい。
そう考えつつも、俺も何もしていないわけではなく、モンスターが襲ってこないか見張りに専念していた。
暫くして料理が完成したようで、ルジリトから声が掛かる。
「主殿。間もなく完成します。余分にできたものをパモ殿に収容して頂けると助かります。
なにせビュイ殿もナナー殿もよく食べますからな」
「わかった。しかしパモ、随分と色々収納しているままだけど、大丈夫なのか?」
「ぱーみゅ!」
「そうか。お前は相変わらず俺の癒しだな……」
「ルイン様。こちらの味見をお願いしてもよろしいでございますか?」
「ああ。そのルイン様というのは出来ればよして欲しい……」
「ではどのようにお呼びすればよいのでございますか?」
「そうだな……それじゃシーで」
「シー様ですね」
「う……やっぱりシーサマーみたいに聞こえてしまって違和感が……ツインにしてもらえるか」
「ツイン様ですね。それでは以降、ツイン様とお呼びすることに致しましょう」
どうにも奇天烈すぎる丁寧語だが、そういう性分なのだろう。
完成した食事を、切り倒した木で加工した台の上に乗せていくと、次々と消えるようになくなっていく
食事。
改めて見ると本当にとんでもない大食女たちだ……これを養っていくのは大変だな。
……養ってくの、俺か。
「ルーンの町に帰ったら、食糧生産の工程を考えないと……」
「ぱみゅ?」
「そのルーンの町というのは実在するのか?」
「妖魔の領域と地上の領域を結び付けた変わった場所という話を聞いただ」
「妖魔国か……いってみたいな。美味しい物が沢山あるんだろうな」
「あたすも行っでみたいけんど、まんず地上のごともわがんね」
「どうしても行きたいようであれば、行けない事もございません。その前にシカリー様の一件を
片づけていただく必要がございます」
「本当か!? 俺の大切な友が戻って来れてないんだ。本当に行けるのか?」
思わずアメーダを掴んで聞いてしまった。
はっとして直ぐ手を離す。
「すまない。あまりにも驚いて」
「いいえ、ツイン様は案外大胆なところもございますね。
勿論本当でございます。そのお友だちは、リルカーン様とカノン様、でございますね」
「なぜそれを……」
「死霊族というのはそれだけの力を有する……とだけお伝えしておくのでございます。それ以上の詮索は
どうかご容赦を」
「行けるなら何でもいい。ひとまず町に戻って……」
「封印する場所は足りるのでございますか」
「あ……参ったな。足りないかもしれない」
町に戻る前に随分と仲間が増えた。
パモに預けてあるフル装備でも、封印しておける場所が溢れてしまうかもしれない。
「アルカーン様。その名は死霊族の間でも有名でございます。
連絡をつけてみてはいかがでございますか?」
「アルカーンの事まで知っているのか。あの人がなんの条件もなく動いてくれるとは……
はぁ。そんなほいほいと封印穴を増やせたら、妖魔界はおかしくなってしまう」
「ツイン様はただの妖魔ではございません。あなた様を基準にした専用の物を検討すればよいだけでございます」
「それを無条件で作ってくれるような妖魔じゃないって事だ。最近の出来事を踏まえれば多少は
新しい時計作りの案も講じれるが……」
アメーダの意見を考慮しつつ、食事の後片付けを済ませた俺たちは、アースガルズへ向けて
移動を開始した。