第六百四十九話 青の目覚め
アメーダに連れられ再び転移した先は、もとの場所よりずれた場所だった。
既にアースガルズに近い場所であり、気を遣ってくれたのかもしれない。
「こちらはお時間を取らせたほんのお詫びでございます。と言いましても
さほどお時間は経過していません」
「ほぼアースガルズ付近……これなら大幅な時間短縮となる。ありがたい。今のところ付近にもモンスターはいないようだ」
「いえいえ。それにしてもあなた様は落ち着いていらっしゃいますな。
私を見る者は大抵、恐怖の念にとらわれる者でございますが……」
「どの辺りが? どこからみても美しい髪の女性としか見えない」
「あなた様にはそのように見えるのですな。対象をを見る時、その見かたにより大きく変わる
ものでございます。紅色の髪を見て恐怖を覚える者もいれば、そのように感じるものも
いるということでございます。私は恐怖の象徴となりえるのでございますよ。
しばらくはそちらの喋れない王女様の代わりに私が王女となり、喋り、意思を伝えるとしましょう。
これは王女自身が喋れるようになるために必要な事。
シカリー様の褒美の一つでございます」
するとフッと消えたアメーダ。
移動したのではなく完全に消えたと感じた。
するとしばらくして、王女の髪色が紅色へと変わっていくのが見えた。
「お、おい。本人の意思も確認せず……」
「いいのです。お気にせずとも。私はあなたに付き従うように言いつけられた、しがない王女。
魔を行使することしかできないでくの坊なのですから……でございますか。少々悲観的でございますね」
「……それが王女の意思か? 人の意思を読むというのは、見ていて気持ちのいいものじゃないな。
王女がいいというのならそれでいいのだが……」
「……あなた様はどうも嫌われているようでございますね。しばらくは私の意思で話させていただきましょうか」
嫌われている事に心当たりは無い。
それに王女を連れて町中を歩くのには変装が必要で、狙われる事も想定していたが……これなら
誰も王女だとは気づかないだろう。
アメーダのお陰でもあるが、厄介事に巻き込まれたのは間違いない。
そもそもアメーダに運ばせれば済む事じゃない……んだろうな、きっと。
俺をその場所へ連れて行かせるのが目的か。
或いは死霊族がその場所へ行けない理由があるのか。
どちらも不明だが、まずはブネと合流し、皆の安全も確認しないと。
「なぁなぁ、お腹空いただ。ご飯無いだ?」
「死霊族の場所に土産がないのは残念だったな」
「おやおや皆さんお腹が空いているのでございますな。それでしたら私が料理をして差し上げましょう。
古来より伝わる料理でございます」
そんな話をしていた時だった。ようやく……意思が感じ取れた。
外に出たいという意思だが、体が思うように動かないようだ。
「その前に……幻奥の青が起きた様だ。大分傷も癒えたのか、少し話がしたいらしい。
特にビュイ。お前とだ」
「私と話がしたいと? 幻奥の青とはあった事がないぞ?」
「そうなのか? あちらはお前の事を知っているような感じだったが……」
「うむ。我ら四幻はそれぞれ異なる場所を管理していた。あった事はないはずだ」
「とにかく今は外に出す。すまないがアメーダは料理を頼めるか?」
「ええ、もちろんでございます。食材もこの辺りで調達できそうなので、行ってまいります」
「ナナーも行くだ! 彰虎と白丕、ルジリトも手伝ってほしいだ」
各々少し休憩をするため行動をとってもらう。
俺は幻奥の青を封印から出すと、まだ傷だらけの体をいたわり、手を貸してやった。