第六百四十一話 殴りつけるような吹雪の中で
コテージが全て吹き飛ぶと、辺りの視界は一気に悪くなる。
しかし……ソードアイの視界には、俺を狙う対象がくっきり把握できる。
「お前たち。全員動けるか!?」
「何の問題もないだ。幻魔国ではこんな冷たいものよりもっと熱いものが降り注ぐだ」
ナナーの声は聞こえるが、視界には映らない。
コーネリウスと王女らしき姿も見えなくなった。
すぐ隣に来ていた、虎形態の白丕に乗せてもらい、パモも肩に乗せる。
随分と冷たそうだが、封印に戻る気はないらしい。
「声は聞こえるな! 俺が草笛をふいたら全員そちらを目指せ! いいな!」
大きな声で叫ぶと、左右から挟むように巨体が突進してきた。
両方に左右逆の剣を突き立てると、巨体は物凄い力で振り払おうとする。
しかし……「これが白丕の力か。何ていう力。俺が重術で軽い状態とはいえぴくりとも
動かないとは」
「ガルゥ」
虎と一重にいっても真っ白な美しい白変種といえる毛。
体長も大きくどっしりと大地を踏みしめている。
「この状態で一回転……できるか?」
「ガルァ!」
そう言うと、突き刺した剣を振り払おうとしているスノーバウルスをそのままに、空中へ飛び、クルクルと盾回転する。その回転に合わせて剣を巧みに動かし、地面へと突き刺した。
「封剣、剣戒……数が多いな。東に三匹、西から二匹、追加でくる」
そう告げると、白丕は西側に向けて左前足をあげると、強く雪が積もる地面を打ち付けた。
すると何かしらの紋様が刻み込まれる。それには方位が刻まれており、西へ西へと亀裂が走り……。
「おいおい、とんでもない術……技か?」
雪の地面にひびが入っていき、その日々は二つに分断され、スノーバウルスの足先めがけて進んでいき
双方を地中に沈めた。
その間に右側へ氷造形術で壁を作るルイン。
分厚い壁が形成されているが、スノーバウルス三匹はお構いなしに体当たりして
氷壁をぶち破ろうとしている。
すると再び高々と跳躍した白丕。
俺を肩車で担ぐような状態のまま人型に戻り……大きな咆哮を立てた後、爪撃を
東の三匹へ向けて撃ち放った。
「しっかり捕まっててくれ。一匹たりとも獲物は逃がしゃしないよ」
「いい跳躍力に爪撃、それに地形変化まで起こせる能力。
斥候としてこれほど恐ろしい力を持つものはそうはいない。さすがは四幻だな」
「強い者にしか従わない。今は我慢してやるが、虎は器じゃない者をかみ殺す。
精々用心して欲しいものだ」
「当然。仲間を使うなんて本来の性分に合わないんでね。イネービュに釘をさされたが
考えが変わった。もういい。こっちはベリアルと俺で解決してやるよ。
我慢するのはもうこりごりだ」
「何を言ってる? お前はボロボロだから、代わりに今は私らがここを守り切って……」
「悪いがもっと早く済ませたいんだよ。寒いから。その代わり肩だけ貸してくれ」
「なっ……」
数が多い敵。視界も悪い。
俺が敵と定めた者だけ攻撃しないと他者を殺してしまうかもしれない。
なにせ白丕やナナーたちには見分けがつかないだろう。
【真化】
「……地上で使うとなれば、察知されるかも知れない……か。
シフティス大陸でもう十分に暴れた。察知、してもらおうじゃないか。ベリアルもそう思うだろう。
赤海星の殺戮群……食らいつくせ」
無数の赤い星型は、辺り一面に降り立つと、各々移動を開始する。
俺が考えていたのは……神に言われたことを忠実に守るべきなのか。
己の力を信じて行動するのか。
ただそれだけだった。