第六百四十話 奇襲 破壊されたコテージ
今回の戦いはきつかった。
肉体的にじゃない。精神的にだ。
自分自身に足りないものを思い知らされたんだ。
そして……一人ではまともに生きられないってことも。
「なぁなぁ、お腹空いただ。食べ物ないだ?」
「すまないがもう少し待ってくれないか。こちらの食糧備蓄もあまりなくてね」
「ナナーもジェネストと一緒にスノーバウルスとかいうの、食べにいけばよかったな」
「お前たちは本当に食い意地がはってるな。気を付けないと大きく育った時、私のような
美貌を保てなくなるぞ」
「ヒーちゃんはずるいだ。足も長いし」
「ヒーちゃん? 私はヒーちゃんというのか……」
こいつらも俺を心配して残ってくれてるのか。
パモも……いるな。
いつまでだらしなく寝てるつもりだ……。
もう時間もあまりないだろう。こうしていて、いいはずがない。
起きろ――――。
起きて……どう、するんだ?
メルザはブネが守ってくれてる。
俺はそばにいてオロオロしてればいいっていうのか?
そうじゃない……メルザの父親の話、思い出せ……。
「ヨ……ゼフ……」
「あ、起きただ! ご飯が起きただ!」
「ぱーみゅ!」
「ツイン、しっかりしろ。コーネリウスだ。わかるか!? しっかりしろ」
「ヨーゼフに……会わないと……」
「ヨーゼフ? 今、ヨーゼフと言ったのか? おい! 君には礼も、聞くことも
山ほどある。しっかりしろ!」
くそ、まだ力が入らない。でもコーネリウスがいるなら一言だけ。
「力を……貸してくれ……コーネ……」
「ああ。もちろんだ。お前のためなら持てる力全て貸そう」
「グルウウウウ!」
「グオーーーーーーーーン!」
その時だった。辺り一面から魔物の遠吠えが響き渡る。
すぐさま外が騒がしくなった。
すぐにコテージの中へ一人飛び込んできた。
「モンスターの襲撃です! 吹雪で視界が悪く、接近に気づきませんでした!
既にかなりの数がこちらを取り囲んでいます!」
「ジェネストさんが言っていた通りだったか。私が彼を担ぐ。
君たちは一緒に防衛にあたってもらえないか?」
「ご飯、食べれるだ?」
「ああ。終わったら好きなだけ食べていい!」
なんだよ、こんな時にまで役に立てないほど弱ってるのか。
そんなんで……いい筈がない。
「いいわけあるかよ……俺だって、戦うんだ……コーネリウス。俺に……使え」
それを聞いたコーネリウスは、彼を担ぐと重術を行使した。
さすが……わかってるな。それでいい。
「時間がない。今は少しでも戦力が惜しい。恩人にこんな事をさせるのは正直プライドが許さないが……
わかった。また君の恩義を受ける事にするよ。返せるあてが見つからないけれど。僕の
重術があれば君の力を最大限に発揮できる。積もる話はここを切り抜けてからだ!」
体に力は入らないが、急激に体が軽くなった気がした。
これが重術の力か。
「この軽さ……発声もしやすくなった。これで戦えそうだ」
「言っておくけど反動は後から来る。あまり無理はしないでくれよ。そちらの仲間に
手助けをしっかり求めてくれ。僕は王女を守りながら戦う!」
そう言った瞬間コテージの天井が破れ、巨大なモンスターが上空より襲ってきた。
あれが……スノーバウルスとかいうやつか。思ってたより一匹がでかい。
背中には確かに氷の棘のようなものがある。
「ああ、わかってる。彰虎を中心に展開。ルジリト、サーシュ、沖虎はいないか……ナナー、ビュイ!
上部から四匹来る。封剣、剣戒。俺は……」
グシャリと崩れたテントをティソーナ、コラーダで切り払うと、背後へ赤閃を飛ばす。
猛吹雪が一気に降り注ぐと同時に、後方から迫って来たスノーバウルスを吹き飛ばした。
「後方をやる。白丕、俺と共に来てくれ。お前の力、見せてくれないか」