第六百三十九話 ジェネスト、スノーバウルス討伐へ
コーネリウスより迫りくる多くのモンスターの話を聞いたジェネストたち。
全員を連れて行くとルインを守れる者がいなくなってしまうので、討伐に向かうのは
ジェネスト、サーシュ、ルジリト、沖虎のみ。
他のメンバーはこちらでルインを守るため残った。
幻奥の青については伏せてあるが、そもそも負傷しており、自らの意思で出れるほど
回復していない。
「目標討伐数三十程。対象名スノーバウルス。四足歩行型魔獣で獰猛。群れをなして行動。
危険な攻撃は鱗に生える氷塊での押しつぶしや、連携をとり囲んでから襲い掛かる集団戦闘魔獣ですか」
「僕は王女……ミレーユ王女殿下を守らないといけない。ここを離れられないんだ」
「王女……? 」
「……」
「すまない。口が聞けなくて。強いショックを受けているんだ。でも、国を守りたい気持ちが
強くてね。アースガルズに留まるよう進言したけれど、首を横に振るばかりで。
メイズオルガ様共々来てしまったんだ」
「そのメイズオルガ殿が、この国の王……ですか?」
「……今は王不在とだけ言っておこう。そちらに関してはあまり……」
「失礼しました。私には興味のない話を聞いてしまいましたね。彼が目覚めるまで、私は
口をつぐむとします。それでは」
「この吹雪の中、もう出発するのか? 危険すぎる。明日にすべきだ」
「いえ。この程度の環境で音を上げていては、到底幻魔界で通用しません。
いいですね、ルジリト、サーシュ、沖虎」
「問題なく。むしろ奇襲すべき相手にこの上ない条件。平穏無事であれば敵翻弄するに難しく
他を葬るに最適なるは事象最中であるべし。特にそのモンスターの情報が少ないですからな。
一匹確実にこちらへ向かわせ、能力を把握すべきかと」
「陽動ならこの沖にお任せを。姉上には及びませぬが、位置把握さえできれば一匹導いてご覧にいれます」
「位置把握担当は我にアリ。しかしあまり吹雪の中で活動できない。
偵察後土術で吹雪の当たらない場所を構築して欲しい」
「陽動した敵は私と、招来予定のクリムゾンで対処します。では行きますよ」
「本気で行くならせめて装備を整えて行ってくれ。そちらにおいてある道具は好きに使ってくれて
構わない。気を付けて」
ジェネストは少しルインを見ると、コテージの外へ出る。
外は猛吹雪の最中。確かにルジリトの言う通り、こちらから奇襲するには
いい条件かもしれない。
だが……「これはモンスター側でもそう感じるかもしれませんね。ですがこちらへの
戦力は多く残しました。問題ないでしょう」
「主殿が心配ですかな? 私は大丈夫だと思っております。何せあのお方……
ベリアル殿が動けばモンスターの群れなどひとたまりもないでしょう」
「恐らくですが……最後のベリアルの発言を考えると、しばらくは出てこれない。
そんな雰囲気でした。特に、彼はベリアルの力を行使したようです。
あれほどの力、何のリスクもなく簡単に使えるとは思えません」
「話中すみません。ルジリト殿、サーシュ殿。雪がかなり深い。私の背に乗って移動してください」
「それではお言葉に甘えて……お話しは分かりました。しかしナナー殿やビュイ殿は
ベリアル殿に忠誠を誓っているように見える。私もあのお方だからこそ心酔したというのが
正直なところですが……」
「ふっ。あなたたちは彼を見てきていない。確かにベリアルは強いでしょう。しかし
彼の強さは本来、そんなものではない。今は……その強さの根源が不在。ただそれだけですよ」
外へ出る前にコーネリウスから借りた雨傘の帽子を少し傾けて
疑問を持つ素振りをみせるルジリト。
この中では唯一、ジェネストだけが彼の本当の強さをしっていた。
「今はまだ、わからなくてもいいのです。きっともうじき……わかるでしょうから」