第六百三十五話 言わないといけないこと
幻奥の青を回収した三人は、急ぎベリアルの許へ戻ろうとするが、そううまくはいかない。
ゴーレムの群れは既に再生し、ルインへの道を阻んでいる。
「邪魔くせえ! 一気に蹴りを……や、べぇ……こんな時に」
再びがくりと膝をつくルイン。ここまでどれほどの無理をしてきたのか。
死んでいてもおかしくない程傷を負い、なれぬ魂の入れ替えで行動。
強き者たちを取り込み……その力を行使するだけでなく、力を分け与えて行動させる。
それほどの行動をぼろぼろの体で行い続けられるわけがない。
もう少しじゃないか。もう少しで……だがそのもう少しがあまりにも遠く感じた。
「俺様、早く会いたいよ。待ってるぜ……ルイン!」
「……う、ォオオオオオオオ! ざけんな! 気合でどうにか動きやがれぇー!」
絞り出すように声を上げ、跳躍してゴーレムを切り伏せる。こちらの異変に気付いたのか
ジェネストも、ルジリトもパモも出てくる。沖と彰は背中を後ろから押してくれた。
「しっかりなさい! ここで彼らをおいて行っては何の意味もない。
戻ったら休ませてあげます。それまで頑張りなさい!」
「知り合ってまだ間もないあなたは、驚嘆に値するほど行動的、そして魅力的だった。
どうかこの先も主として助言をさせて欲しい。どうか我ら幻魔の者たちを、お願い申す」
「姉上共々、我ら粉骨砕身で働かせて頂きたい! あなたの許で!」
「兄者、姉御共々力になる!」
結局最後の最後まで支えられ続けた。
本当に俺一人ではダメだ。
俺もベリアルも、戦う力はあるかもしれない。
けれどその力で戦っていける程、甘い世界じゃない。
たった一人の娘に助けられて、ルインもベリアルも、世界が大きく変わった。
そうでなければ何度転生しても、どちらも不幸のままだったかもしれない。
誰の力も借りようとしなかったかもしれない。
「意志ってのはきっかけを与えられて大きく変わるものだな。
だからこそ苦しいものには手を伸ばし救ってやる。その存在が必要なんだ。
俺も、お前たちも救われた者同士。ありがとよ。恩に着るぜ! さぁジェネスト、戻ろうぜ。
俺たちの居場所へ。皆が待つあの場所へ」
「ええ。帰りましょう。我々の主がすむ場所へ」
幻魔界。不思議なところだった。
瘴気が満ち溢れ、竹や笹などの懐かしい植物もあった。
食事も悪くなかった。
そして、多くのベリアルからの意思を受け取った。
俺は今後もこいつと共にある。
もう逃げる事はしない。時には入れ替わりもあるだろう。
だが……こいつを信じてみる事にした。
こいつも俺を信じている。
互いに力を合わせればどんな困難だって乗り切れる。
それは、メルザだけじゃない。
俺自身の中にある存在にも言えることだったんだ。
「……言いたくは無かった。でも、言わないといけないよな」
何がだよ。気持ち悪ぃな。
「助かった。お前の……お陰だよ」
……けっ。俺は取り込んだナナーやビュイを救うためにやったんだ。
おめえのためってわけじゃねえ。
いや、俺自身のためか。
それよりおめえ、わかってるだろ。
「ああ。大分時間食っちまった。そろそろ出産が近いよな」
そうじゃねえ。最後のあの状態の話だ。
「状態?」
着いたら確実にぶっ倒れる。俺も出てこれねえ。
仲間にちゃんと運んでもらえよ。
「……そのことか。問題ない。何せこいつらときたら……」
――――本当にいい仲間に巡り合えてるんだ。