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第六百三十話 あいつの中で見てきたベリアル

 ――――数十年前の話。


 ベリアル様ともあろうものが、死ぬときはあっけねぇもんだ。

 魂を消し炭にされるってのはひでぇ感覚だ。

 だが、これでよかったのかもな。

 いちいち神のやる事に腹を立てずに済む。


 だが、結局気に入らねえままだった。

 俺たちはただ命令され動くだけの傀儡じゃねえ。

 自由に生きて何が悪いってんだ。


 くそ野郎を踏みつぶし、従わせて規律を作るのが悪いってのか。

 率いられねえとまともに生きられねえ奴を、率いてやるのは悪いってのか。


 結局答えはわからねえままだった。

 だがもういい。

 楽に、なれるんならそれでよ。


 ――――――――――――――――――――――――――――。



 ああ。そういうことかよ。

 転生させ、更生させ、神に従順な魂になるまで、何度でも作り変えるつもりか。

 しかも、別の魂の中とは。

 力は……封印されてやがる。

 しかもこいつ、目が見えてねえ。

 それどころか、生まれた時から絶望しか感じてねえ。


 こういう奴を俺が引き取って従わせてきた。

 中には言う事を聞かねえやつもいた。

 別にそれはそれでよかった。

 放っておけば死ぬ。

 だが死ぬよりはましだろう。

 こいつも……放っておけば死ぬ。

 そしたらまた、作り変えられるのか。

 こんな事に何の意味がありやがる? 

 わからねえ。神のすることはやはり理解できねえ。


 何年もの年月、こいつは孤独に過ごした。

 よく耐えられるもんだ。本来ならとっくに死んでるだろ。

 生れながらの孤独耐性でも持ってやがるのか。

 残酷な仕打ち。それを残酷と思わない神。

 どちらにしろ……ネウスーフォ。タルタロス……許さねえ……。

 

 そして……こいつは捨てられた。

 森の中。降りしきる雨。死ぬには最高の条件だな。

 短けぇ間だったが、何も無かったな。

 時折こいつの感情が流れてくる。

 次生まれ変わるなら、光を……か。

 考えた事ねえな。そもそも生まれ変わりなど起こらない方が、幸せだったろうが。

 願うなら無だろう。

 どうせ転生してもよ。またあいつらの道具だ。

 そんなことに何の意味がありやがる。苦しいだけだろうが。


「お前、そんなとこで寝てたら死んじまうぞ。こっちへ来いよ」

 

 ……おいおい。こんなやばそうな状態の奴に声かけるか? 

 いや、その台詞。

 俺も昔よく使っていた台詞だ。

 そういや何人も拾って来たな。

 利用してえって事か。それならわかるぜ。

 だがこいつは目が見えねぇ。

 拾ったところで大した事はできねえだろう。

 中にいる俺なら別だがな。



 それから……拾われたこいつは、そいつに尽くすようになった。

 拾ったやつは、こいつを利用するために拾ったんじゃなかった。

 拾ったやつもこいつと同じ、孤独だった。

 どっちにも、何もねえ。

 俺から言わせりゃどっちも虫けらだ。いつ死んでもおかしくねえ。

 だが……あんなに不幸だったやつが、幸せそうなツラになりやがった。

 なんでだろうな。こいつが幸せそうにしているのを見るのが

悪ぃ気持ちじゃなくなっていた。


 ――――いつしか俺は、こいつが怒る時に反応して、怒るようになっていやがった。

 そして、こいつが大切なものが俺にとっても大切なものと感じるようになった。

 どんな苦境でも、拾ってくれた奴の事を思い動くこいつを、羨ましいとさえ思うようになった。


 【魂の共鳴】


 神の狙いはそれだったのかもしれねえ。

 

 とっくにくたばると思っていたこいつは、逞しく、そして強くなった。

 だが、見てて危なっかしい場面が幾度もあった。

 そのたびに少しずつ、力を貸していたみてえだ。

 そして……俺の力に気づいたあいつは、俺を恐れるようになった。


 無理もねえ。ベリアル様の力は神でも恐れるからな。

 だが……こいつにそんな風に思われる事が気に入らなかった。


 俺たちは長い年月を共に過ごした。

 こいつの行動、思考。魔族なのに人間らしいところが気に入った。


 俺に無いもの、そして俺に出来ない事をこいつは出来る。

 他者を利用する力じゃねえ。他者を守る力で、困難をいくつも乗り切って見せた。


 ――――そして今! 


  

「だからよ。両方合わせて困難を乗り切ってみせようぜ。 

俺たちは、共鳴者。いくぜ……生罪の剣、今ここに。ペカドクルード!」


 闇を打ち払う超曲刀の斬撃。それは既に過去のすべての技を越えていた。

 ルーニーを追っていた黒い鳥を全て消滅させるだけの規模を誇る分厚い斬撃。

 それはそのままバラムへと襲い掛かった。


「悪ぃな。時間はかけてられねえ。一気に行くぞ!」

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