第六百二十九話 お前が言いたかった事
高台に上がると、囮になってくれている沖、彰たち、それに……バラムにも見えるよう
上空へ向けてルーニーを飛ばした。
ルーニーは高々と「ホロロロー」と声を発しながら、バラムへ攻撃を開始する。
そして……見たことがある四十一の鳥をバラムは放出した。
「あれは……確か四十一のガァスホォーク。俺はこいつを倒せるのか? あの時は
メルザの光の支援術があったから攻撃が通じたが……」
そして、あの時と同様だ。ルーニーは多勢に無勢でアレに負けた。
自信を喪失させてしまった。
「ルーニー! 戻れ!」
心配になってとっさに指示を出すが、指示が届いていないのか聞いていないのか。
ルーニーはそのまま戦い始めた。
大きな黒い鳥の攻撃一つ一つを回避しながら、それらを巧みに斬り捌いていく。
あの時と同じく多勢に無勢。だが、一匹、また一匹と切り裂いていくたびにルーニー
の動きはどんどんとよくなっていた。
あの時よりお前は本当に強くなった。
俺の頼れる相棒の一つとなってくれた。
「主殿。遅くなり申した。あの鳥は一体?」
「あいつ、とんでもない化け物だぜ。俺たちからじゃ攻撃も届かねえ。指示をくれ!」
「なんだ鳥一匹に戦わせて高見の見物か? ベリアルならもっと楽しく戦うぞ」
「どうしたらいいだ? あんなの倒せるだ?」
……ああ。やっぱり俺じゃうまく戦えないのか?
こいつらの力をどう使えばいいんだ? わからない。
俺は……。
「殿方殿! 私は恐らく操られる。武運を!」
「クリムゾン? そうか、相手はあのバラム・バロム。これじゃあの時と同じ。
いや、あの時より分が悪い。くそっ。やっぱり魔を……」
覗くな。そう釘を刺された。
それじゃ真化すれば勝てるのか?
いや、勝てないだろう。
俺は何をすれば……どうしようとしていたんだ?
何をしようとしていた?
考えろ、考えろ……。
「沖虎、彰虎、ビュイ、ナナー。戻れ」
「しかし、それでは囮があの鳥だけに」
「早くしてくれ」
全員を戻すと上空を見る。
「おいベリアル。お前はきっと、こう言いたかったんだろう。
俺を使役してみろと。今、たたき起こしてやるよ!」
俺に眠るベリアル。その力の一端でも使えていれば、オズワルとの戦いは
もっと楽だっただろう。
恐れ、憧れ、拒絶していた力。
【ベリアル真化】
「……迷わねえで始めっから使えばよかったぜ。俺自身の力、お前との力を。
いくぜてめえら。あの辛気臭ぇバラムの野郎をぶちのめして、地上へ凱旋といこうじゃねえか。
まずは……封・戒・剣! 交われ、ティソーナ、コラーダよ。俺に力を貸しな。
絶神剣ティラーナ、その姿を現せ」
青と赤が交わり、紫色の超長曲刀が現れる。
それは長さ四メートルにも及び、周囲を威圧するかの如く声を発した。
「幾千年より目覚めし、神ノ剣。御前に扱えるか」
「あーうるせえうるせえ。ちゃんという事きいてりゃ上手く扱ってやるよ。
ルーニー! 助かったぜ。おめえ、やるじゃねえか。最高だったぜ! 俺の右手へ来い!」
「ホロロロー!」
時間を稼ぐ役目を終えたルーニーが、黒い大鳥の攻撃を回避しながら、それらを
引き連れてこちらへ来る。
「いいぜ。まずは挨拶してやるか」
右手を大きく頭の上に掲げ、ルーニーの戻る位置を指定。
それと同時に左手で持つティラーナを黒鳥の集団へ向けて構えた。
「ルイン・ラインバウトの真骨頂。しっかり見てからくたばりな!」