第六百二十四話 ありがとう
ここは……焼け跡の部屋か。
気を失ったベリアルの影響か、はたまたサーシュを封印した影響なのか。
俺の体は傷だらけだが、かなり回復した。
だが……心はボロボロだった。
ベリアルが動くたびに自分の無価値さを悟る。
ベリアルが誰かを取り込み、その力をうまく用いるたびに自分の戦い方の下手さを認識する。
そして……ベリアルの優しさを見るだけで自分は……自分でなくてもうまく導いてくれる。
そう思ってしまう。
「……」
「おや。もう目が覚めたのですか」
「いや。ベリアルは、意識がない」
「あなたでしたか。大分傷は癒えたようですね」
「ぱーみゅ!」
ジェネストの許にいたパモが近づいてくる。
パモはいつだって俺に優しい。だが今は、そのパモの優しさでも辛く感じてしまう。
パモを撫でつつジェネストの方を見る。
「ああ。ジェネストの……お陰だ」
「いいえ。ベリアルのお陰でしょう」
「……なぁ。あいつは一体、何がしたいんだ?」
「それは彼に直接聞くべきではありませんか」
「……」
ジェネストはすっと立ち上がりこちらを見下ろしている。
「あなたは何のために剣を振るっていたのか。それを忘れているんじゃありませんか」
「ベリアルにはそれがはっきりとわかってるっていうのか?」
「ええ……自分と、あいつのため……そう呟いています」
「あいつってメルザの……」
「まだ、わからないのですか? それともわからない素振りをしているのですか?」
「俺は……だが」
ジェネストはそのまま部屋から出て行った。
相変わらずきつい言葉を浴びせてくれる。
でも、それが的確であることを知っている。
「そうだよな。もう……わかってるんだよ」
ベリアルは他の誰でもない……俺のために――――行動している。
ここに来る前から。
ベリアルを認識してからずっと、助けてくれている。
それはこの体を自分のものにしたいからなのかと思っていた。
でも……違う。
俺と共にある事を、ベリアルは望んでいる。
拒絶しているのは俺なんだ……。
そして、その強さに憧れ、羨ましく思っていた。
「兄弟がいたら、こんな気持ちだったのかな……」
だとするなら、ダメな弟ってところか。
もう、情けない姿は見せられない。
このままベリアルに任せてばかりでいいわけがない。
どの面下げて地上に戻れるっていうんだ。
「そうだよ。一人でうじうじしやがって。らしくない。本当にらしくないよな」
ゆっくりと立ち上がり、体の感触を確かめる。
あちこち痛むが十分に動ける。そして……戦える。
ここからは俺がやる。残りは幻奥の青か。
取り込んで、地上へ戻らなければ、ベリアルには鼻で笑われ続けてしまうだろう。
三種の幻魔を封印したあいつに。
「ありがとうベリアル。この力、ちゃんと使ってみせなきゃお前に合わせる顔が無い。
もう泣き言は言わない。お前に劣等感を覚える事もない。
お前が俺を強くするように、今度は俺がお前を強くしてやる。
俺たちは魂をわかつ、兄弟だ。だからこれからもお前と戦っていきたい」
ベリアルへ誓いを立てるよう、合掌していた。
もう逃げない。
この先は、俺に任せろと。
そう心に誓って。