第六百十九話 幻深の朱、空を舞う朱の姿
辺り一面を次々に朱色へ染めていくそれは、空を舞い、朱色の火の粉を煌めかせ、美しいいで立ちを
見せている。
対するベリアルは、ラーヴァティンを構えながら戦う場所を探しているところで
ルジリトへ視線を向ける。
「おい、こいつらを治療しておけ。死なすんじゃねえぞ!
俺があいつを攻撃しながらひきつける間にどうにかしておけ」
どさりとルジリトの目の前に負傷した白丕と沖虎を出す。
そして、そのまま怒りと共に彰虎も噴出した。
「許せねえ! あの野郎姉御を! 許せねえ!」
「ふん。俺が出さなくても自ら出てきやがるか。感情的になると無理やり出てこれるってのは
欠陥だぜルインよ……まぁいい。あいつが憎いならおめえに戦わせてやる。
俺の力の一部を使っていいぜ」
「ああ憎い、八つ裂きにしてやりてえ!」
「殺すなよ……あいつも貴重な戦力。このバカが使う炎よりよっぽど上等な炎だ。
確実に取り込みてぇ。おめえの得意なのは腕力と突進力だろ。
こいつを使え」
「おお!」
全く話を聞かず、武器だけを受け取った彰虎は上空で朱色の炎を散らし続ける
それに飛び込んでいった。
それを見てベリアルは思案する。
「思い切りは悪くねえが、頭が悪ぃ。だが……そいつをそこから振り下ろせ!」
ベリアルが渡したもの……それは巨大な水の鎌。
言われたとおりに鎌を相手に向けて振り下ろした彰虎の一撃は、水の刃を
発生させ、上空を飛ぶそれに襲いかかった。
しかし空中で身を翻して回避される。意表はついたようだがまだ刃が小さく
回避するには十分のスペースがあった。
「ちっ。慣れてねえ武器ってのもあるが説明が足りなかったか。
おいでけえ黒虎。彰っていったか? おめえは何のためにでけえ図体もってやがる。
その鎌は振り下ろす速度によって飛ばせる水撃の威力が劇的に変わる。
おめえならもっと強く振れるだろうが!」
「何だと! 強く振ればもっと強く……」
「排除対象変更アリ」
「一発撃ったらもう対応してきやがるな……一度戻れ。場所を移動しねえとやべえ!」
急ぎ彰虎を戻すと素早い動きでその場から離れるベリアル。
敵と見定めた朱色のそれは、攻撃しつつ後を追って来る。
「熱ぃなくそが。なんつー温度の炎だ……ククク、いいぜ。こいつが使えるように
なりゃあ、炎水ももっと上にもってこれるんじゃねえか。こいつは思った以上の
拾い物だぜえ……おい、ルーニー。おめえは俺に協力する気はねえのか!」
めんどくさそうに自分の装備を見る。
しかし答えは帰って来ない。やはりルインにだけ従うように造られているらしい。
「全く。嫌われてやがるな。俺らしいけどよ。まぁ仕方ねえか」
熱を振り払い、ルジリトからかなり離れた場所まで来る。
辺りには燃え上がる笹の葉と竹が広がっている。
「ここまでくりゃもういいだろ。さて、やるか。出てこい彰虎」
「おおぅ!」
再び彰虎を出し、二人で上空を舞う朱色のそれに備える。
「おめえは軽めの斬撃でけん制をしな。俺は……後ろで準備する」
「あいわかった。いくぞ、下郎!」
突撃する彰虎を見つつ、自分の体を見るベリアル。
少しだけ笑みを浮かべ、朱色のそれが舞う空を見上げる。
「まぁ、やってみたかったってのもあるな。
妖魔の体か。こいつを使えばさらに一段上に行くわけだ……ククク。
あいつのとは一味も二味も違うぜ」
【妖真化】