間話 遅くも、立ち止まらず
ベニーたち一行は城の中央塔へ目指す途中でセーレと会う。
「ヒヒン! ヒヒン!」
「相変わらず私には何言ってるかさっぱりわからないわ。通訳して」
「あ、暴走車だ。また墜落するつもりだよきっと。ヒヒン! って言ってるっしょ」
「何ですって! この駄馬、蹴落としてやろうかしら」
「それよりメナっち! 旦那はどうしたっしょ? 一緒じゃないっしょ?」
「シーは、ジェネストという美しい女性が、連れて行ってしまった……」
「何があったの? 詳しく教えて!」
「もう、死にかけで……助からなくて……うぅ……」
「あいつ……また無茶したのね。でも連れて行ったってことは、死んだわけじゃないのね?」
「あれは致命傷ぞ……助かる見込みなぞ、万が一にもない……」
ベニーとライラロは互いの顔を見合わせる。
そして同時に頷いた。
「それなら心配ないわ。ジェネストが連れて行ったってことはきっと、助かる見込みがあるのよ」
「無駄な事はしないっしょジェネちゃんは。それにしてもメナっち。生きててよかったー。
メナっち一人だけ残ったっしょ? ファニーたちは?」
「他の仲間と合流しているはずぞ。私に……他の仲間の許へ行き、事情を説明しろと。
そう言われた」
「そう。それならちゃんと説明することね。それがあなたの役目よ」
「でも私は! せっかく一人残ったのに、シーを助けられなかった。責めは受けようぞ。
死ねというなら、甘んじて受けようぞ」
「ばっかじゃないの? あんたが死んで何になるっていうの? あんたが死んであいつが無傷で戻ってくるっていうわけ?」
「しかし最後の攻撃は! ……私が封印から出たせいで、無防備に傷を受けたあの傷は……私のせいぞ。
シーが死ぬかもしれないのは私のせいぞ!」
仮面を抑えながら泣き崩れるメナス。
それを見てライラロは、メナスをセーレから引きずり風斗車へ乗せた。
そして、メナスの仮面を外し、思い切り平手打ちをする。
「ふざけないで。私たちの仲間はね。あいつが救おうとしたあなたに死ねなんて思うやつは
一人もいやしないわ。あんたを責める奴だって一人もいやしない。
あんたが死にたいと思うのは確かにあんたの勝手よ。でもね。あいつが守ろうとした
あんたが死ぬなんてね、私絶対許さないから! あいつがどれだけ苦労して生きてきたか知ってるの?
あんたに少しでもあいつの気持ちがわかるの? 誰よりも苦しんで生きてきた。
だから誰よりも……自分の周りの人に幸せでいて欲しいと思うのよ! そんなあいつの気持ちを
踏みにじらないでよ……どれだけみんなが大切に思っているのか、理解してあげてよ……」
「うぅ……すまない。すまない……私は……私は……」
「メナっち……」
「引っぱたいたのは悪かったわ。でもね。庇われたあんたは幸せ者ね。
きっとバカ弟子も、少し妬いちゃうんじゃないかな」
「言えてるっしょ。メルちゃんは直ぐにぷくーっと膨れてぷいっとそっぽむくから。とっても可愛いっしょ」
「……話している最中すまないが……城はどうなったんだ?」
「ああ。あんたのことすっかり忘れてたっしょ。英雄オズワルの息子なんだって」
「オズワル! そう、あの中央塔にいたものはオズワルと名乗っていた。死んだと聞いていたが……」
「父上が、城に? 一体なぜ……」
「真っ暗で会話しか聞こえなかった。だが……もう人では無かったと思う。何者かに魂だけ利用された
可能性が高いかもしれぬ」
「魂魄遺恨術か……厄介な術を使用するものがいるのね……恐ろしいわ」
「何か知っているのか、君は」
「まぁね。詳しい話はみなと合流してからにしましょう。ほら行くわよ駄馬!」
「ヒヒン! ヒヒン!」
「ダメだわ、やっぱ何言ってるかわからない」
「話が長くて疲れちゃったから先にいくねじゃあね! ヒヒン! って言ってるっしょ」
「後で羽根の一枚でももぎとってやろうかしら。高く売れそうだわ……」
ヒヒンという嘶きを残して、大空を翔るセーレ。
そして勢いよく発進する風斗車。
両者はともに下町を目指し移動を開始した。