第五百九十七話 容赦なき一撃
相対するオズワルと今にも剣を交わそうとしたその時だった。
途端に視界が暗転して、目の前が再び闇となる。
その拍子に、斬りこんできたオズワルの強烈な一撃をもらってしまった。
「うぐっ……ああああーーー!」
「あれを避けれなかったとは。もう限界だったのかな」
「うぐう……はぁ……はぁ……魔をここまで覗いたのは初めてだ……がはっ」
「御前、大丈夫でごじゃろ!? 今のはまずいでごじゃろ!」
「あちし、だめ。てぃーちゃんだけでも維持しててっ」
コラーダはふっと音もたてずに消え去る。
このままじゃまずい。だが今のは完全に致命打をもらった。
く……そ。血が……こんなに。
「どうやら私の勝ちのようだな青年。まぁどちらにしても君はここから出られなかったがね。
主とはそういう約束だったのだ。君を魂として持ち帰れば、さらなる力をやろうと。
三十領区で相対した時私は初めて敗北を知った。そして恐怖した。真の強さは人にあらず。
その領域を超えた先にあると。君のように元々強い魔族として生まれたら、わからんだろうがね」
「俺は……元々、もっともっと弱い人間だ……でも、魔族になったって……強かった、わけじゃない。
ぐぅあ! はぁ……はぁ……」
「それ以上喋っても辛いだけだと思うがねぇ」
「例え見えなくとも……ここで死んだとしても、守らなければいけないんだ。
あいつらを」
「もういい。楽にしてやる! 裂傷破無音剣!」
そのとき俺から何かが飛び出し、俺の前に立った。
「殺させぬぞ! 絶対、犠牲はメナス一人で十分ぞ!」
「どけぇ!」
血だらけのまま、勢いよくメナスを突き飛ばすと、体全身でオズワルの一撃を受けた。
これは……もう、助かるとは思えない。
「俺が……死んだら、俺に封印されたお前たちも、消えてしまうかもしれない。
でも、俺が生きてるうちに、お前たちが死ぬことは……許さない」
「どのみち死ぬ順番が違うだけではないのか? 君が単純に仲間が死ぬところをみたくないだけ。
そう言っているようにしか聞こえないぞ? 青年」
「ちがう……俺が死ねば消滅するって……いうのは……妖魔本来の能力の……話だ。
本当かどうかなんて……誰にも……わから……ない。だったら……俺は……」
「どのみち君が死に、その娘が生きていたとしても、わしはその娘を殺すだけだ。
何も変わらんよ」
ここにはメルザはいない。あいつがそばにいなければ、目の力は使えないだろう。
でもそれは決めつけであってほしい。
俺とあいつの繋がりはもっと強くあるはずだ。
何度も一緒に手を繋ぎ歩いた。
互いに思い、助け合った。
あいつにもう一度会えないまま、この暗闇で死ぬなんて許されるはずがない。
「許されるはず、ないんだ。そんなこと」
「何を言ってる。血を流し過ぎておかしくなったか? それにしても、わしの必殺の剣を受けてなお、まだ
立っていられるとは」
「シー……シー……いやぞ! 死んでは、死んではいやぞ! また一人になってしまう。いやぞ……いやぞ!」
たった一握りの力だけでいい。それだけをあいつにぶつければきっと、この国は救えるのだから。