第五百九十六話 救出された王女
ツインたちが左塔へ侵入しようとしていた頃。
「教会の地下にこんな空間があったなんて驚きだ。これはオリナス侯爵が秘密裡に使用していた施設か?」
「事前に調べてたんだけどぉー。レニーちゃんの情報によると、結構よくない事をしていたみたいよー?
オリナス侯爵って人。怪しげな実験もしてたらしいしー? それでロキに目を付けられちゃった
んじゃないー? 自滅とかまじうけるんdねすけどー。キャハハハ!」
「こらこら。笑い方が下品だよレニー。城が通過すればここも崩落するかもしれない。急いで王女を
探そうか」
「私と王女は指輪で互いの位置を知る事ができる。だからこそこんな地下でも彼女がここにいるのがわかるんだ。私についてきてくれ。こっちだ」
コーネリウスが先頭を進み、後に皆が続いた。
教会の地下は無数の部屋があるダンジョンのようになっており、何の印もなければ道に迷うだろう。
帰り道がわかるようアネスタは各場所に氷の彫像を創造していく。
「……君はすごいな。無詠唱でそれほどの術を行使できるのは羨ましい」
「氷術に関して、地底では私より上の使い手はいないと自負しているよ。
それはフェルドナージュ様も認めるところなんだ」
「ああ、アネサンはすすすす素敵であります! どこまでもついていくであります!」
「あはは。ありがとうエー君。頼りにしているよ」
「ぷしゅう……」
「姉さん。彼をからかうとここで機能しなくなるから気を付けてっ!」
アネスタに見つめられて熱を上げるエー。
これはいけないと、さっと間に割って入るレニー。
「っ! モンスターがいる。この程度なら気づかれる前に始末できる!」
コーネリウスは懐から金の短剣を取り出し、投げ放つ。
一瞬で徘徊するモンスターの脳天を串刺しにして絶命させた。
「へー、お兄さんやるーっ! ちょっと格好よかったねっ」
「彼……いや彼女は女性だと聞いているが、お兄さんでいいのかな」
「構わない。私は男として育った。もう自分を女だとは思ってなどいない。さぁ、急ぎ王女の許へ」
扉を開けると、鎖に繋がれやせ細った王女がいた。
偶然かあるいはしかけられているのか。王女の顔部分には上部の地層からぽたりとしずくが定期的に落ちている。
「ミレーユ! ミレーユ! しっかりしろ。私だ、コーネリウスだ! ……ダメだ。意識はない。
死んではいないがこのままじゃ死ぬかもしれない」
「それに、その人が本当に本物の王女という証明もないけどねー? レニーちゃんなら疑ってかかっちゃうなー。なーんの罠もなく王女を救出できちゃうなんて、できすぎてなーい? キャハハハ!」
「確かにレニーの言う事も一理あるね。拘束した上で救出すべきだろう。
妖氷造形術、氷の棺!」
「なっ! 棺桶に入れるというのか?」
「安心して。この中で多少の治癒ができる。ただこの中で治癒を受けたものは拘束状態となる。
エー君。棺を運んでもらえるかな」
「もも、勿論であります! アネさんが造った氷を持ち運べるなんて光栄であります!」
「うん。よろしく頼むね」
無事とは言い難いが王女を助け出した一行は急ぎ外へ出ると、かなり城が近くまで迫っていた。
そこへハクレイやブネたちが到着し合流する。
シュイオン先生にも説明すると、その判断は正しかったようで、棺にある王女を見ると、首を横に振る。
「彼女は恐らく極めて危険な状態にあります。とんでもない置き土産をしてくれたものです。
確か王女はこの国一番の魔術使いだと聞いておりました。
最悪のモンスターを創造するつもりだったのでしょう……急ぎブネさんの言う通りに薬の調合を開始します!」
「これはいかんな。イネービュ様に報告が必要な程だ。このまま眠りから覚めれば、恐らく神でも手を焼く
悪神の化身が創造されるだろう。ロキめ、一体何をするつもりだったのか……」
「ひとまず下町へ急ごう。この領区は危険だ」
一向は急ぎ馬車へ乗り、下町を目指していった。