第五百七十三話 助けられたトループ
時は少し戻り、オズワル伯爵領地へと向かったベニー。
一人のトループを看病し、介抱した。
「ぐっ……ここ……は」
「気づいたっしょ。動くと傷口開くよ」
「あなたが私を?」
「そうっしょ。見つけられたのは偶然。ここは近くにあった洞穴を、見えなくさせただけっしょ。
今のところモンスターは来てない」
「では……助かったのは、私だけ……うぐっ」
「ほら起きないっしょ。言っておくけど私、旦那いるからね。変な事しようとしても無駄っしょ」
「そのようなこと、するはずもない! ……くっ。私は誇り高き父、 ヘンブレン・ジョウイ・オズワル
の第二子。ヘンブレン・ジョウイ・オーウェン。救い人よ。あなたの名前を教えてくれないか?」
「ベニーっしょ。息子さんだったなんて。一体ここで何が起こったっしょ?」
「それは……」
オーウェンの話によると、突如恐ろしい七人の何者かに襲われ、さらに大量のモンスターが襲撃。
オズワルは勇敢に戦ったが、一対一で何者かと戦っている最中、別の者に横から串刺しにされたという。
オズワルは近くにいたオーウェンに隠蔽魔術を施し、その後敵をひきつけ、離れたところで大爆発を起こした。
恐らく自滅魔法とのこと。
「父は……勇猛果敢で誰にも引けを取らない戦士だ。そして、一対一なら負けてはいなかった。
私が……私たちがもっと強ければ、こんなことには」
「その気持ち、わかるっしょ。うちの旦那も強いけど、肝心な時はいっつも一人でつっこんでいくの。
それは、私たちを危ない目に合わせたくないから。オズワルって人もきっと、そうだったっしょ」
「それで死んでしまっては、何にもならないじゃないですか。残された、俺はたった一人。
もう、終わりです……」
バシッと背中をたたくベニー。
彼女は泣き言を言う男にぐっと目を吊り上げる。
「あんたは生きてるっしょ! だから全然、終わってなんかいない。
そいつらへ一矢報いるために、どうしたらいいか考えるっしょ!」
「あなたは、とても励ましになる声をしている。力の底から湧き上がるような声色だ。
ご主人を羨ましく思いますよ。そうですね、その通りです。
私はあの集団に王女の影をみた。このままでは恐らく、王族が危険だと思われます」
「ここを襲ったという証拠があんたなら、王女の正体をさらせるかもしれないっしょ。
それと、三十領区に王女が幽閉されてるって話を聞いたの。場所は……」
オーウェンは驚きながらも頷き、傷ついた体を動かし始める。
外を見るベニーの額を汗が流れた。
「まずいっしょ。モンスターでいっぱい。このままじゃ出られない」
「せめて剣があれば……父程ではありませんが、私も剣の腕に覚えがあるのです」
「無理っしょ。うちの旦那くらい化け物じゃないとあんな数……あ!」
そう考えていた時、モンスターの群れに巨大な業火が次々と降り注ぐ。
その上さらに焼け焦げたモンスターを水が洗い流していく。
「ふう。上空からでも水竜の息を的確に発動させられるようになったわ。
修業の賜物ね。バカ弟子が起きる前にバカ弟子より遥か先まで到達しておかないと、情けなくてバカ弟子って
呼べなくなるものね」
「ライラロさん! 来てくれたっしょ! よかった。鬼に金棒!」
「あらベニー。私を見るなり鬼やら金棒やら失礼じゃない? もっと美しく呼んで欲しいわね。それにしても
……ボロボロね、あんたとそっちの人。はい傷薬」
「ここまで、一体どうやって来たんですか、彼女は」
「多分あれっしょ。風斗車改」
新しく部品を交換した風斗車に乗ったライラロは、ゆっくりと地上へ降り、洞穴の前にぴったりと止める。
「さて、話は後から聞くわ。ここはどうにもモンスターの様子がおかしいの。早く乗って。
出発するわ」
「ライラロさん。それじゃ三十領区へ行って欲しいっしょ! 王女が幽閉されてるって場所へ!」
「……あっちか。嫌な予感しかしないわね。でも、いいわ。ルシアからぶんどったこれで!」
ライラロが何かを掲げると、風斗車改と、乗っている三人の姿は忽然と消え、三十領区へと向かっていった。