第五百六十五話 ゴードン、イライザとの問答
「では早速問答を始めます。形式は一問一答交代制。簡易的質問は認めましょう。
私の名前はイライザ。彼はゴードン。あなた方のお名前を聞かせてください」
「……本名をか?」
「そうですね。本名です」
参ったな。いきなり答え辛い。
しかも俺だけではなく、ビーもなのか、困惑している。
一つ思案してこう答える事にした。
「トループでの本名はツイン、シーだ」
「そうか……俺もトループでの本名はミズガルド、ビーだ」
そういえばビーの名称に関しては深く聞いたことが無かったな。
それは……俺も同じで聞かれてはいない。
今ので俺たちがトループであることは伝えてしまった。
しかし俺の予想が確かなら、これ以外答えようがない。
「よろしいでしょう。どうぞ。あなた方の番です」
「まずは俺からだ。あなたたちとコーネリウス殿の信頼関係について詳しく」
すっとゴードンが手を差し伸べて答え始めた。
「私たちはコーネリウス様を十二分にお慕いしております。しかし信頼関係は築いておりません。
あくまで主従の関係です。それ以下でも、以上でもない」
お手本のような回答だ。つまり、王女関連の話は通していない可能性が高い。
また、コーネリウスをここへ閉じ込めているのも彼らの制御によるものと考えられる。
「では続いてこちらより問答いたします。あなた方は本当にサーカス団ですか?」
「あなた方というのはどこまでを指すか明確ではないと思われます」
「おっと。大変失礼しました。ビーさん、シーさんお二人です」
いい質問だ。直ぐに突っ込みをいれたビーも適格な反応だ。
問答に対してすぐさまビーが回答する。
「俺たち二人はサーカス団に入れてもらったばかり。新団員ですよ」
「……ふむ。よろしいでしょう。そちらの番です」
今度はビーが尋ねる番だ。少し思案すると口を開いた。
「フィーユ・ド・ロワの鐘について、どう考えている?」
その言葉と同時に、空気が変わった。
俺にはいまいちよくわからなかったが、ビーのことだ。意図して発現したのだろう。
この国において何かしらの意味を持つワードか。
「主にとっては大切なもの。我々にとっては関わりたくないものです。よろしいでしょうか」
「ああ」
「では私からの質問です。ビーさん。シーさん。あなたたちがここへ来た目的は何ですか」
互いに目を合わせて頷き合う。
『コーネリウスへ仕事の依頼の報告だ』
ぴしゃりりと言い切った俺たち。
ゴードン、イライザともに姿勢を正して一礼する。
「よろしい。それでは最後にビーさん。問答をどうぞ」
最後か……この二人は伯爵命に従い、仕方なく動いている感じは伝わってくる。
十二分に慕っているということは幼少から目をかけてみてきたのだろう。
ならば……。
「コーネリウス殿の力になり、救うためにはどのような手助けをすればいい?」
その問いに、ゴードン、イライザの表情が緩む。
「虚言など一切ない。コーネリウス殿はようやく信をおけるものたちとお会いできたのですね」
「失礼した。我々では主に御心を許してもらうこと叶わず。試すような真似を許して欲しい」
「これは……嘘を見抜く魔術具か何かなのか」
「左様。今から嘘をついてみせよう。私は、コーネリウス様を嫌っている」
ゴードンがそうつぶやくと、展開されていた領域が真っ赤へ染まる。
それと同時にパリンと音を立てて砕け散った。
「この通り。嘘をつけばその時点で直ぐにわかる」
「便利な道具だが、恐ろしい道具だな……」
「この世は虚と実に満ち溢れています。問答がなせるのは常に、実あればこそです。
あなた方との問答、楽しませて頂きました。今しばらく問答して
いたいところではありますが、今日のところはここまで。特にシーさん。あなたはどこかで高い教養を積んで
こられたご様子。何れはもっと深い問答をしていただけませんか?」
「博学多才とはいかないが、衣食礼節を知り得て対話を重んじる事は学んできたつもりだ。
いつでもお相手しよう」
深々と礼をする二人に、こちらも同じく深々と礼を返した。